教育を考える 2019.12.30

ミュージカル『アニー』の演技はなぜ変わったのか? 子どもの自主性を伸ばす教育――

須貝誠
ミュージカル『アニー』の演技はなぜ変わったのか? 子どもの自主性を伸ばす教育――

ミュージカルアニーは1968年以降、日本の舞台で演じられています。30年以上続いているミュージカルで、およそ200万の人が鑑賞している、すばらしい舞台です。私も、もう50回は観ています。アニーはもともと、アメリカの新聞で連載されていた漫画でした。そして1976年にミュージカルとなり、ブロードウェイで上演され、それが日本に入ってきたのですね。

ストーリーは、孤児院にいるアニーが両親を探しに行くお話です。舞台は孤児院ですから、子役が多く登場します。ダブルキャストでアニー役2名、孤児役12人です(孤児役のほかに、タップキッズやダンキッズの子役たちもいます)。子役たちは、どのような練習を積み、舞台に立つことになるのでしょうか。今回は、子役たちの教育と、学校教育の共通点について考えてみたいと思います。

子どもに「教える」のか「考えさせる」のか

アニーの最初の演出家の時代は、子どもでも「プロとして」「大人として」教育されていたようです。私がアニーの舞台を見始めた当時、テレビ番組でよく「メーキング映像」が放送されていました。演出家が考えた演技をうまくできるように育てられている、という印象でした。子役の子ども自身が演技を考えるのではなく、「演出家の考えている演技の意味をつかませようとしている」感じでしょうか。少なくとも、私にはそう見えました。

プレゼントされたペンダントを、アニーが「いらない!」と言って投げ捨ててしまうシーンがあります。このシーンの練習風景はテレビでよく放映されていました。アニー役になった子どもたちのほとんどが、演出家が求める真意が理解ができなかったようで、うまく演技ができずに泣いていましたが、「プロとして」「大人として」なんとか頑張って、最終的には舞台に立っていたのです。

しかし、2001年、演出家が日本人から外国人に変わりました。そして、先ほどのアニーがペンダントを投げるシーンの演技も変わったのです。物語の内容は同じでありながら、なぜ、アニーの演じ方が変わったと思いますか?

それは、新しい演出家になってからは、子役自身にそのシーンの演じ方を考えさせているから。子役の子ども自身が、そのときのアニーの心情を考えて演技をするため、演技の仕方が子役によって変わるのです。心情の捉え方がその子によって変わるので、演技も変わってくるのですね。それについて、演出家は「その演技にその子なりの意味があればいい」と考えているようでした。

アニーの子役指導のやり方について大きく分けると、「演出家が指示を出す」「子どもに考えさせる」の2つになりますね。なんだか、子どもの教育とリンクすると思いませんか?

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ミュージカルの演技指導と小学校での教育の比較

そこで、小学校の教育についても考えてみます。小学校低学年のうちは、どうしても教師の指示が多くなりがちです。ですが、中学年、高学年になるにつれて、子どもに考えさせる場面が増えてきます。教師の指示を減らすことができるようになるのです。

最近はとくに、「子どもに考えさせる教育」や「楽しい教育」が求められていますよね。どうしてこのような教育が求められるのでしょうか。学校の教科の勉強(生きていくうえでは、どんなことでも全てが勉強だと考えられますが、ここでは学校の教科の勉強に限定します)だけにフォーカスして育てると「危険」ですよ、という風潮になってきたからです。逆に、子どものときにさまざまな体験をしてきている子ほど、「困難に立ち向かう力」があるようです。

StudyHackerこどもまなび☆ラボでも、たくさんの先生方が「子どもにはいろいろな体験をさせましょう」「学力だけを重視するのは危険ですよ」と言っています。なぜならば、いろいろな経験をすることで「考える力」を育むことができるからです。答えのない問題に立ち向かう力こそが「考える力」となるでしょう。

子どもの自主性を伸ばす教育3

子どもの自主性を伸ばすために家庭でできること

今後の教育は、どうやら「教科の勉強だけをさせるのでなく、さまざまな体験をさせ、自主性を育てること」が大切になるようです。これからやってくると言われるAI時代に必要な力は「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」だと、大学教授などの有識者も言っています。

では、実際に家庭でどのように子どもを育てていけばよいのでしょうか。ここでは、家でできることをごく簡単に紹介しておきます。

子どもに選択させる
親の価値観で決めてしまわずに、子どもの「やりたい」を優先させましょう。といっても、実際はなかなか難しいですよね。小さなことから始めてみませんか? 「今日のお味噌汁の具は、じゃがいもとお豆腐、どっちにすればいいと思う?」など、「どちらがいい?」と選択肢を用意してみるのはどうでしょう。自分で考える習慣がつくと、「〇〇×△△はどうだろう?」と、独創的な発想もできるようになりますよ。

 

親は教えない
子どもが助けを求めてくるまでは、なるべく「教えない」に挑戦してみませんか。「こうやったほうが早いのに……」と思っても、ぐっと我慢です。手伝わないで見守るのです。親が教えなかったり手伝ったりしないことで、子どもは、思考錯誤を繰り返しながらも問題を自分の力で解決できるようになります。そして、子どもが自分から「〇〇はどう△△すればいいの?」などと質問できるようになれば、自主性や問題解決能力はぐんぐん育っていくでしょう。

 

自然と触れ合う機会をつくる
近所の公園に散歩に行かせるだけでもいいのです。散歩の途中、子どもが「見て! 見て!」と言ってきたときに、親が驚くと子どもはとても喜びます。そして、さらに新しい何かを見つけようと、自分から動くのです。親が「もっとほかにも何か見つけてごらん」と言っているわけではないのに……。自然に触れ合い、親がその発見に反応することで、子どもの自主性を伸ばすことができるというわけです。

 

料理・洗濯・掃除などの家事をさせる
料理のお手伝いをさせるとき「危ないから包丁を持たせない」とするのでなく、包丁を使っていることろを「見せて」あげましょう。親がやるのを見ているうちに、自分からお手伝いをしたいと言うようになるのだから不思議です。未就学児、低学年の子どもほどやりたがるよう。料理・洗濯・掃除などのお手伝いができるようになると、自分から仕事を見つけるようになりますよ。お手伝いでも、自主性を伸ばすことができるのです。

 

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これからの時代の教育は、学校の教科だけを勉強させるのでなく、「さまざまな体験」を通して自主性を育てることがとても大切だと言えそうです。