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幼い頃はいつでも天真爛漫だった子どもが、小学生になって難しい顔をすることも増えてきた――。子どもが悩みを抱えるようになると、それに比例して親の悩みも増えるものです。悩み多き思春期に差し掛かろうとしている子どもに対して、親はどう接するべきなのでしょうか。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学の専門家である法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生にアドバイスをしてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
子どもが悩みはじめることは成長の証
子どもが小学生になると、幼児の頃と比べてさまざまな悩みを抱えるようになります。でも、それは「いいこと」なのです。なぜかというと、幼い頃には悩まなかったようなことにも、心が発達したことで「悩めるようになった」からです。未来を展望し過去を振り返る力を得て、対人関係が広がると、悩みも多くなるものなのです。
ですから、悩みを抱えている子どもが、家族のふとした言動によって「うるさい!」なんていってバタンとドアを閉めたりすれば、親として子どもの成長を感じてよろこんでほしいのです。
子どもにとって悩みやトラブルは成長の糧です。たとえば、少しは喧嘩もしないと本当の意味で友だちと仲良くなることはできません。何気なくいったことでも「ここまでいうと相手を傷つけちゃうんだ」とか、良かれと思っていったことでも「ここまでいうとおせっかいになっちゃうんだ」というふうに失敗して学ぶのが人間であり、未熟な部分をぶつけ合うことが子どもにとっては大切な学びなのです。
ネガティブな感情も人間には必要
そうした子どもの悩みには、怒りや嫉妬、それから劣等感といったネガティブな感情から生まれるものもあります。小学生でも中学年、高学年くらいになると、テストの点が悪かったりスポーツがなかなかうまくならなかったりして、誰もが人と自分を比較するようになります。
ネガティブな感情を持つのはあたりまえのことですし、もっといえば人間として必要なものです。というのも、それらの感情は進化の過程で人間がサバイバルするために必要なものだったからです。怒りは外敵と戦うときに必要だったでしょうし、嫉妬や劣等感だって他人と自分を比較することでより良い人間になろうとするモチベーションになったことでしょう。また、ネガティブな感情があるからこそ、ポジティブな感情の意味もより感じられるようになるということもあります。
日本人の場合は、子どもにも親が「怒っちゃ駄目」というといった具合に、ネガティブな感情を封じ込めようとする傾向にあります。でも、アメリカのドラマなどを観ていると、親友同士や家族が怒りをぶつけ合っていい争うシーンをよく見ますよね。それが彼らにとってあたりまえのことであり、アメリカ人には相手のネガティブな感情に寛容なところがあるのです。
そもそも、子どもがネガティブな感情をすでに持ってしまっていれば、どんなに封じ込めようとしてもゼロにはなりません。でも、封じ込める必要はなくとも、ただ感情任せに振る舞うとさらにトラブルを招くこともありますから、やはりマネジメントする力を教える必要はあります。そういうとき、親は子どもに「寄り添う」ということをいちばんに考えてください。「やっぱり怒っちゃうよね」「悔しいよね」と共感し、次に、「そういうときはこう考えたらどう?」「こうしてみたらどうかな?」と、具体的にやれそうな策を教えてあげるのです。
とくに道徳的な考えなどは、しつこいくらいに説明してあげないとなかなか子どもの心には入っていきませんから、子どもの成長に合わせてわかるように言葉をかけてほしいと思います。「情けは人の為ならず」という言葉の真意は、子どもにはすぐには実感できないものですからね。
劣等感に負けないための「4つのトレーニング」
先に劣等感などのネガティブな感情も必要だとお伝えしました。ただ、あまりに劣等感が強くて自尊心を持てなくなってしまっては大問題です。ここで、劣等感に負けないためのトレーニングを紹介します。これは、「レジリエンス」、いわゆる「心の回復力」を鍛える「4つのトレーニング」です。心の力を回復するうえで鍛錬しておく4種類の「筋肉」をイメージするよう子どもに伝えてトライさせてみましょう。
【レジリエンスを鍛える「4つのトレーニング」】
- 「I am」マッスル
- 「I can」マッスル
- 「I like」マッスル
- 「I have」マッスル
わたしは◯◯(自分を肯定する言葉)
例:わたしは優しい
わたしは◯◯ができる(自分ができること)
例:わたしは泳げる
わたしは◯◯が好き(自分が好きだと思うこと)
例:わたしは野球が好き
わたしには◯◯がいる、わたしは◯◯を持っている(自分が大事にしている人や宝物)
例:わたしには頼りになるお父さんがいる、わたしはアイドルのサインを持っている
これは、自分が持ついいところ、いいものをつねに「見える化」することで劣等感に打ち勝ち、自分の強みを資源にするトレーニングです。子どもには、寝る前にそれぞれ3つくらいを思い浮かべさせる、あるいは書き出させてみてください。
それこそ、内容は本当に簡単なことで大丈夫。2なら、「歯みがきができる」なんてことでいいのです。きっと、子どもは「できそうだ!」「やれそうだ!」とポジティブな気持ちを持って眠りにつくことができるはずです。
子どもの短所は長所の裏返し
こういったトレーニングの良さとして、親子問わずに「性格のせいにする」という考え方を変えられることが挙げられます。とくに親の場合、子どもになにかうまくいかないことがあると、「あなたが怒りっぽいから」「暗いからよ」などと性格のせいにするということが見られます。
そうすると、子どもにそのレッテルを貼って、むしろその方向に子どもの背中を押すことになりかねません。「怒りっぽい」といわれた子どもは「怒りっぽい人間として生きていかないといけない」と思ってしまうのです。
でも、性格ではなく「トレーニング不足だから」ととらえられればどうでしょうか。子どもは「トレーニングしてスキルさえゲットすればいい」とゲーム感覚でとらえ、自分の性格に悩むこともなくなります。親も「こういう性格の子に産んじゃったから」と思うとなにもしようがありませんが、「まだこの子はトレーニングが不足しているだけ」ととらえれば、子どものためになにかやれることがないかと工夫しようと考えられますよね。
もっといえば、一見、あまり良くないように思える性格というのは、ポジティブにとらえてみると、実はその子のリソース(資源)で、強みなのです。たとえば、「怒りっぽい」子どもは、見方を変えれば「情熱的」ともいえます。他人から短所だと思われているところはたいてい長所でもありますし、それがその子の本来的なキャラクターなのですから、それを抑えるのではなく生かす方向に考えてあげるのが親の役目ではないでしょうか。
『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』
渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)
■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧
第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切! 子どもの決断力を伸ばす家庭教育法
第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!
第3回:劣等感を自尊心に! 寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法
第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」! 親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由
【プロフィール】
渡辺弥生(わたなべ・やよい)
大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。