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役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。役者業は既に48年目目を迎えた坂上さん。
その長いキャリアを持っているからこそ教えることができる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を、全10回に渡って公開します。第9回目となる今回は、子どもの成長に必要な「間違い」についてのお話です。
間違うことを怖れる子どもたち
子どもたちと接していて強く感じるのは、「間違えたがらない子が多い」ということ。間違うことを極度に嫌がり、怖がっているんです。これ、なんでしょう? 家庭や学校や塾などで、細かい部分を指摘されることが多いからでしょうか。
「芝居の稽古は間違えていいのだから、思い切ってやってみてよ」
ことあるごとに、わたしが子どもたちに言うことです。間違えるところから始まることもあるし、間違えないとわからないこともたくさんある。自分自身の子役時代の経験から言えることですが、芝居とは論理的に頭で覚えるものではなく、体で覚えたものが感性となり、身に付いていくもの。それなのに、セリフ覚えから段取りまで、きっちりきっちりミスなくやろうとする子が本当に多い。完璧主義というのとは違って、ただ単に、間違うことを怖がっているという表現がピッタリです。
間違うことを恐れなくなったところから、演技の上達、本当の意味での成長が始まっていく――。
まずは、そこがスタート地点。「間違いたくない……、恥をかきたくない……」と思っている子どもは、なかなか心を開きません。「間違いたくない」という思いにがんじがらめになってしまっているのです。
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)
間違いを評価しつつ成長を待つ時間的な余裕を持つ
そんな子どもを見ていると、芝居をしているのに、まるで学校の勉強でもしているような空気を感じることがあります。答えがひとつしかない勉強は、常に正解を求めますよね。それが習慣化しているのだと思います。子どもは当然、×よりも○を欲しがる。○のほうが先生に褒められますから。「これは、いい間違いだね」なんて褒める先生は、いまどきほとんどいないでしょう。
もちろん、家庭内でも同じことです。「親に褒められたい!」という願望は、子どもが本能的に持っているもの。親が喜ぶようなことをすれば褒めてくれると、肌でわかっているんです。間違ったことや失敗したことであっても、それに向かう子どもの姿勢が良かったと、叱らずに褒める親はどれほどいるでしょうか。
わたしは、たとえセリフを間違えたとしても、その子が一生懸命に取り組んで、攻めている姿勢が見えれば褒めることもあります。それなりのレベルの子であれば、セリフが入っていないことは注意の対象になりますが、そこまで達していない子は、十分に褒めるに値すると考えているんです。
それまでと比べての変化や、自ら「やろう!」とする積極性を感じられるかどうか。時期にもよりますが、セリフを間違えることなんて、たいした問題ではないんです。芝居でもっとも良くないのが、間違えまいとして頭のなかで台本を追いながらセリフを言うことです。
これも子どものレベルにもよりますが、そういう姿勢に対しては、「そんなんじゃ面白くないよ」とはっきり伝えます。みんなで「台本覚え競争」をしているわけではないし、台本を正確に覚えている役者が勝つ世界じゃない。台本通りに一字一句、正確に演じることもときには求められますが、それはもっとレベルの高い仕事での話です。
ちょっと危惧しているのが、もしかしたら親御さんたちに子どもの間違いを評価したり、成長を待ったりする時間的な余裕がないのかな? ということ。これは教育現場に留まらず、じつはテレビの世界でもそうなんです。
わたしが子役だった時代は、監督はじめスタッフが平気で子役を叱っていました。その逆も然りで、本番で間違えても丁寧に教えてくれたり、褒めてくれることもたくさんあったものです。実際のところ、子役は学校にいる時間が限られますが、現場での熱心な教育、指導があったおかげで、おかしな道に入ることがなかったと感謝しています。
しかしいまは……景気の影響もあるにせよ、予算や時間が限られていることも多く、撮影や収録の現場で子役を育てていく余裕がなかなかありません。でも、「それを時代のせいだとあきらめてしまっていいのか?」というのが率直な思いです。大人から「いまの若い奴らは」という言葉をよく聞きますが、そういう若い奴らを作っているのは我々、経験がある大人なんです。そう思うと、間違いを丁寧に正しながら、子どもたちを育てていきたいと感じるのです。
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)
※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。