2026年は60年に1度に回ってくる「丙午(ひのえうま)」の年。この言葉を聞いて、「なんだか聞いたことがある」「ちょっとドキッとする」そんな気持ちになった人もいるかもしれません。
じつは丙午には、「この年に生まれるとよくない」「出生数が下がった年がある」という、有名な迷信があります。そのはじまりは、たった一人の女性の物語でした。
大人でも「なんとなく知っているけど、詳しくは……」ということが多い丙午の迷信。今回は、「親子で学べるシリーズ」として、丙午の迷信の歴史的背景や科学的な真実を、子どもにも簡単にわかりやすく解説します。
その歴史を辿ることは、情報との向き合い方を考えるきっかけになるはずです。2026年のいまだからこそ、この話を親子でいっしょに学んでみませんか。
目次
📅 そもそも「丙午(ひのえうま)」って何?
まずは事実から整理しましょう。
日本では古くから、中国から伝わった「干支(えと)」という暦の仕組みを使って年を表してきました。私たちがよく知っている「子・丑・寅・卯…」という十二支は、その一部です。
実は干支には、十二支だけでなく「十干(じっかん)」という10種類の要素もあります。この2つを組み合わせることで、60通りの年の名前ができるのです。
- 十干とは?:甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10種類
- 十二支とは?:子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12種類
組み合わせると…
10×12=60通り→ 60年に一度、同じ組み合わせがめぐってきます
たとえば、2024年は「甲辰(きのえたつ)」、2025年は「乙巳(きのとみ)」、そして2026年が「丙午(ひのえうま)」です。この60年で一巡する暦を「六十干支(ろくじっかんし)」といいます。
では、「丙午」という言葉にはどんな意味があるのでしょうか。
- 丙(ひのえ)=火(陽)を表す
- 午(うま)=馬を表し、また「火」の性質もつ
つまり丙午は、「火」と「火」が重なる年とされています。このため、エネルギッシュで情熱的な年と解釈されることもありますが、これはあくまで陰陽五行思想に基づくイメージであり、科学的な根拠があるわけではありません。
昔の日本では、年に名前がついていたんだ。「丙午」は60年に一度めぐってくる年の名前。おじいちゃんおばあちゃんが子どもの頃(1966年)も丙午だったんだよ。10種類の「十干」と12種類の「十二支」を組み合わせると、60通りの年の名前ができるんだ。

🔥🐎「丙午生まれはよくない」って本当?
「丙午生まれはよくない」という迷信を聞いたことがあるかもしれません。しかし、結論から言うと――科学的な根拠は、ひとつもありません。ではどうして、そう言われるようになったのでしょうか?
それなのに、なぜ迷信は広まったのか【江戸時代】
科学的根拠がないのに、なぜ「丙午生まれはよくない」という迷信が広まったのでしょうか。その背景には、江戸時代から昭和にかけての、いくつかの出来事がありました。迷信のきっかけとして語られるのが、八百屋お七の物語です。*3
この話は井原西鶴の『好色五人女』などを通して、浄瑠璃・歌舞伎・浮世絵で広く語り継がれました。*3
後になって、お七は「丙午生まれだった」と語られるように。*4「丙=火」「午=火」というイメージが、「激しい恋」「火事」「情熱」と結びつけやすかったのです(実際には「丙午生まれ」ではなかったという説も)。さらに、丙午の年に災害が重なりました。
江戸の人々は「60年前の丙午も災害、今回も災害」と記憶を重ね、科学がない時代、「丙午のせい」だと考えるようになったのです。
迷信が社会に定着【明治〜大正時代】
戸籍制度で生まれ年が明確になり、雑誌・新聞で迷信が広まり、「丙午の女性は結婚に不利」という話が定着していきました。ただし、1906年(明治39年)の丙午では、出生数に目立った変化はありませんでした。迷信はあっても、まだ人々の行動を大きく変えるほどではなかったのです。
しかし、状況が一変したのが、60年後の1966年です。この年、日本では出生数が激減しました。それは、テレビ・新聞・ラジオといったマスメディアが発達し、迷信が一気に全国に広まったからです。さらに、医療の発達で出産時期をコントロールできる時代になっていました。
「娘の将来が心配」という親心から、出産時期をずらす家庭が増えたのです。その結果――
結果、1966年の出生率は約136万人(前年より約46万人も減少したそう)。*7 そのため、今年も出生数が減少するのでは?と話題になっているということなのです。
昔の人は地震や火事の原因がわからなかったから、「丙午のせいだ」と思ったんだ。でも本当は関係ないんだよ。1966年に赤ちゃんが減ったのも、迷信を信じた大人たちが心配したからなんだ。

🧪 どうしてみんな迷信を信じてしまうの?
2026年も、丙午の年です。「妊娠のタイミングを気にする」「周りから言われて不安になる」根拠がないとわかっていてもそんな声が気になりますよね。
ところで、人間は科学的根拠もない「迷信」をどうして信じてしまうのでしょう? 心理学者や統計学者の研究によると、干支占いは血液型占いと同様、ただの迷信だということ。*2 生まれた年と性格の間に因果関係は証明されていません。
それでも人が信じてしまうのは、次のような心理が働くからです。
- 確証バイアス:気が強い丙午生まれを見ると「やっぱり!」と思ってしまう*8
- バンドワゴン効果:みんなが信じていると、逆らいにくい*8
- 物語への欲求:分からないことに「理由」がほしくなる
昔の人は、今ほど科学やデータを持っていませんでした。だからこそ、暦や運命に答えを求めたのです。
血液型占いと同じで、科学的には関係ないんだ。でも「みんなが信じている」と、本当みたいに感じちゃうことってあるよね。大切なのは、ちゃんと調べて考えることだよ。

🗣️ 親子で話してみよう!対話のヒント
「丙午」をきっかけに、こんな会話をしてみませんか。
親が「歴史って、こういう背景があるんだね」と一緒に学ぶ姿勢を見せることで、子どももニュースや情報を “自分で考える力” を育てられます。
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歴史の中で生まれた迷信。それを「昔の人はおかしい」と笑うのではなく、「どうしてそう考えたんだろう」と想像してみる。それが、学びの第一歩です。
江戸時代の事件が、災害と結びつき、メディアで広がり、やがて社会を動かすほどの力を持った。丙午の迷信の歴史を辿ることで、「情報」がどう人の行動を変えるのか、「思い込み」がどう生まれるのかを、親子で考えるきっかけになったのではないでしょうか。
ニュースやSNSで目にする情報も、同じです。「みんなが言っているから本当」ではなく、「本当かな? なぜそう言われているのかな?」と立ち止まって考えること。
2026年に生まれる子も、他の年に生まれる子も、みんな同じように、愛されて育つ権利があります。迷信に縛られず、笑顔で新しい年を迎えましょう。
(参考)
*1 国立天文台|暦Wiki/十干十二支
*2 日本心理学会|血液型性格判断の妥当性(PDF)
*3 国立国会図書館デジタルコレクション|好色五人女(井原西鶴)
*4 民俗学研究所|丙午の迷信と八百屋お七伝説の関係性
*5 気象庁|天明の飢饉について
*6 気象庁|1847年善光寺地震
*7 厚生労働省|人口動態統計
*8 日本認知科学会|確証バイアスと信念形成(PDF)












