「自分のことは自分でできる子に育ってほしい」「将来自立した大人になってほしい」と子どもに自立してほしいと願う一方で、心配で手をかけすぎてしまう……。そんなジレンマを抱える保護者の方も多いのではないでしょうか。
けれど、心配だからといっていつまでも親が手をかけすぎていると、子どもは自分の力で人生を切り拓く力=自立心を伸ばすことができません。
本記事では、専門家の意見をもとに「日常生活のなかで自立心を育てる実践的なヒント」をご紹介します。声かけの工夫や家庭での関わり方など、すぐにできる工夫が満載なので、ぜひ参考にしてくださいね。
目次
なぜ子どものうちから「自立心」を意識する必要があるの?
自立心とは、他人に依存せず、自分で考え、自分で行動する力のこと。将来、子どもが社会の中でしっかり生きていくには欠かせない力です。
しかしいま、「子離れできない親が増えている」と北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏が指摘するように、わが子を心配するあまり、自立の機会を遠ざけてしまう親が多いのだそう。精神科医の鍋田恭孝氏も同様に、「“不安先取り型” の親が、子どもの自立を妨げている」と警鐘を鳴らしています。
自立心が育たないまま大人になると、誰かの指示を待ち、自分で決断できない「受け身の人」になってしまう恐れがあります。「子どもが困らないように」と親が先回りすることが習慣化すれば、子どもは「自分で考えて動く経験」を積めず、結果として失敗を恐れて行動できない子になってしまうこともあるのです。
子どもが自分の力で人生を切り開き、時に失敗しても自分で立ち上がる強さを身につけるためにも、小さいうちから自立心を育む準備をしておきましょう。
「困難を乗り越える経験」が子どもを自立へ導く【西剛志氏】
脳科学者の西剛志氏は「子育てのゴールは、子どもを自立した大人に育てること」だと語ります。どれだけ学力やスキルが高くても、他人に依存しなければ生きられない人間では、真の意味で自立しているとは言えません。
西氏は「自立心を育むために必要なのは “困難を乗り越える経験” である」と断言します。ところがほとんどの親は、子どもがつまずかないようにと、その経験の機会を奪ってしまいがち。失敗や苦労を恐れるあまり、子どもに挑戦させないことが、かえって自立心の成長を妨げてしまうのです。
小さな挑戦でもかまいません。子ども自身に任せてやらせてみることが大切です。成功すれば「できた!」という自信につながり、失敗しても「次はどうするか?」と学ぶチャンスになります。その繰り返しが、自分の力で前に進む力を育むのです。
また、自立心を育むうえで、子どもの長所を見つけてしっかりと言葉にして伝えることも大切。認められることで、子どもは「自分にはできることがある」と感じ、自分を信じる心が育ちます。自立の第一歩は、“自分を信じる力” から始まるのです。
【自立心の育て方】
- 子どもが挑戦したときには、結果より “チャレンジした姿勢” をほめる
- 子どもが困難に直面したときこそ、見守る姿勢を大切にする
- 家庭内で肯定的な言葉がけを増やし、子どもの自信を育む
手をかけすぎていませんか? 子どもの自立を妨げる「過干渉」のリスク【佐藤めぐみ氏】
子どもが困らないように、つい先回りして手助けしてしまうーー。「そんな日常的な過干渉が子どもの自立心を奪ってしまうこともある」と指摘するのは、公認心理師の佐藤めぐみ氏です。
こうした親は「ヘリコプターペアレント」と呼ばれ、心配性でしっかり者の人ほどヘリコプターペアレントになりやすい傾向があるのだそう。「ヘリコプターペアレントに育てられた子どもは、“指示待ち” や “打たれ弱さ” の傾向が強くなる」と佐藤氏は警鐘を鳴らします。
子どもにとっては、失敗や挫折も大切な経験の一部です。それを親がすべて排除してしまうと、自分で立ち直る力や感情を調整する力が育ちません。「悔しさ」や「もどかしさ」など、マイナスの感情を乗り越えることこそが、心の成長には欠かせないのです。
佐藤氏は、「子どもを一人の人間として尊重する親の関わり方が、自立を後押しする」と語ります。たとえ失敗しても、完璧にできなくても、まずは “自分でやってみようとする気持ち” を大切にし、必要なときだけサポートしてあげましょう。
【自立心の育て方】
- 子どもが自分で考え、行動する時間を意識的に増やす
- 失敗や挫折も成長のチャンスと捉え、感情の変化を受け止める
- 必要な時だけ手を貸し、まずは「やってみよう」という気持ちを尊重する
先回りはNG! 「子どもを信じて任せる勇気」が自立を後押しする【鍋田恭孝氏】
子どもの自立心を育むうえで最も大切なのは「子どもを信じて任せる勇気」です。精神科医の鍋田恭孝氏は、「親が先回りして決めてしまうと、子どもは “自分で考える” 機会を失い、主体性が育ちにくくなる」と指摘します。
特に、子どもが失敗しないようにあらかじめ答えを教えてしまったり、困る前に手を差し伸べたりといった「不安先取り型」の関わり方は要注意。子どもが何かを決めるには時間がかかるのが当然だということを忘れずに、焦らずじっくり待ちましょう。自分の選択に責任をもつ経験を重ねた結果、子どもの自立心は育まれていきます。
親がやるべきことは、正解を与えるのではなく、子どもが自分で考え、行動できる“余白”を残すこと。子どもの選択と判断を尊重し、失敗も学びの一部として受け止める心の余裕をもちたいですね。
【自立心の育て方】
- 子どもの「考える時間」を奪わず、結論が出るまでじっくり待つ
- 「どうしたい?」と問いかけ、子ども自身に選ばせる
- 何かを任せたら、途中で口出しせずに最後までやりきらせる
思春期こそ見守りの姿勢を。親の「ギアチェンジ」がカギ【諸富祥彦氏】
子どもが思春期にさしかかるタイミングで、親の関わり方も大きく変える必要があることをご存じでしょうか? 明治大学文学部教授の諸富祥彦氏は、「幼少期は “しつけ期”、思春期は “自分づくり期” と考え、親が “ギアチェンジ” することが大切」だと述べています。
具体的には、小学校中学年頃から「子どもが自分で決める」機会を少しずつ増やしていきましょう。これが自立心の芽を育てるうえで重要なステップになります。失敗を回避させようと親が口出ししすぎると、子どもは自信をなくし、自己判断力を鍛える機会を逃してしまうことに。
大事なのは「この子ならきっと大丈夫」と信じて見守る姿勢です。「本人の選択や判断を尊重される経験が、自立に向けた内なる力を育てる」と諸富氏が話すように、親は一歩引いて、子どもが自分の足で立とうとする瞬間を静かに応援してあげましょう。
【自立心の育て方】
- 小学校中学年以降は「自己決定の機会」を意識的に増やす
- 失敗も学びととらえ、“あえて見守る”姿勢を心がける
- 子どもが自分の考えを話したときは、否定せずまず受け止める
「親の自立した姿」こそが子どもの自立心を育む【柳沢幸雄氏】
「子どもの自立心は、親の背中を見て育つ」と北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏が語るように、子どもに自立を求めるなら、まずは親自身が “自立した大人” としての姿勢を見せることが大切です。
たとえば、親が自分の趣味や仕事に意欲的に取り組んでいたり、困難な状況でも前向きに対応したりしている姿は、子どもにとって自然なロールモデルとなるでしょう。「自分の人生を楽しむ親の姿」は、子どもに “人生を主体的に生きることの意味” を伝えてくれるのです。
また、将来について生き生きと前向きに話している親の様子は、子どもに安心感と勇気を与えます。柳沢氏によると、「親が人生を前向きに語れる家庭だと、子どもも自分の未来に期待できるようになる」のだそう。
何気ない日常のなかで、親がどんなことを考えながら生きているか――。その姿こそが、子どもの自立心を育む大きな力になります。
【自立心の育て方】
- 親自身が仕事や趣味に前向きに取り組む姿を見せる
- 家庭内で、親が自分の将来や夢について話す機会をつくる
- 困難な状況も前向きにとらえる生き方を親が体現する
よくある質問(FAQ)|自立心の育て方
Q1. 小学生の子に自立心を育てたいのですが、まず何から始めればいい?
A. まずは「家庭内で任せられることを少しずつ増やす」ことから始めましょう。身の回りのこと(持ち物の準備や片づけなど)を子ども自身に任せ、「やり遂げた」経験を積ませることが、自立への第一歩です。
Q2. 失敗が続いて子どもが自信をなくしています。親としてどう関われば?
A. 失敗のなかにも「頑張った点」や「成長の証」が必ずあります。「うまくいかなかったけど、自分でやってみたのはすごいね」とプロセスを評価し、前向きな声かけを意識しましょう。
Q3. 過干渉にならないようにするコツは?
A. 「声をかける前に3秒待つ」ことを習慣にしてみましょう。すぐに指示や手助けをするのではなく、子ども自身が気づき・判断する時間を大切にすることで、関わり方に余白が生まれます。
Q4. 思春期の子どもが何も相談してくれません。どうしたらいい?
A. 思春期は「親からの自立」が自然と進む時期です。無理に聞き出そうとせず、「いつでも話せるよ」という姿勢で、子どもが安心できるように “聞く準備” を整えておくことが大切です。
Q5. 親が自立した姿を見せるとは、具体的にどういうこと?
A. 親自身が自分の趣味や仕事、友人関係を大切にし、「人生を楽しんでいる姿」を見せることです。子どもは、言葉以上に行動から学びます。自立心は、親の背中を見て自然と育まれていきます。
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子どもの自立心は「親が関わりすぎないこと」でこそ育ちます。困難を乗り越える経験、親からの信頼、そして自分の選択に責任をもつ体験を通じて、子どもは少しずつ“自分の足で立つ力”を身につけていくのです。子育てのゴールは、子どもが親から離れて自分の人生を歩めるようになること。その未来を信じて、今日から少しずつ“手をかけすぎない子育て”を意識してみませんか?
文/野口燈
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもを自立できる人間に育てるーー脳科学者が考える「理想の子育て」
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「過干渉、ヘリコプターペアレント予備軍」親の意外な特徴。もしかしてあなたも?
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「不安先取り型」の親が生む、思春期の子どもの問題
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