「鉛筆」といえば、子どもたちにとって最も身近な文房具のひとつですよね。特に小学校に進学してからは、勉強をする際に絶対に欠かせないものになってきます。学校に行く前の日の夜に、がりがりと鉛筆削りを使って芯の先を尖らせておく。皆さんも子どものころに経験したはずです。
では、海外に目を向けてみるとどうでしょう。じつは幼少期からの教育方針として、鉛筆ではなくボールペンや万年筆の使用が推奨されている国もあるのです。“消しゴムで消せない” 筆記具を使わせる、その理由とは……?
フランスとドイツでは、早期からボールペンや万年筆を持たされる
フランスでは、小学校に入学したての子どもたちがまず持たされるのは、青や緑や赤などのボールペンです。書いたものを直したい場合は、横線や斜線を引いて訂正します。決して消しゴムは使用しません。そして小学校高学年や中学生になると、なんと万年筆を使い始めます。
また、「Montblanc(モンブラン)」や「Pelikan(ペリカン)」「LAMY(ラミー)」といった、万年筆の名門ブランドが名を連ねるドイツの子どもたちは、万年筆を通して文字の書き方を学びます。そのため現地の文房具屋さんには、子ども用の万年筆もたくさん取り揃えられているのだそうです。
日本では “おしゃれな大人が持つもの” という印象が強い万年筆ですが、子どものころから当たり前のように使っている国もあるなんて、ちょっと驚きですね。
「間違いを消せない」ことの大切さ
では、なぜボールペンや万年筆といった “消しゴムで消せない筆記具” が使われているのでしょうか。在仏20年、『フランスの教育・子育てから学ぶ 人生に消しゴムを使わない生き方』(日本経済新聞出版社)の著書を持つ皮膚科医の岩本麻奈氏は、その理由として「間違ったことをなかったことにしないため」と述べています。
消しゴムによって、子どもたちが書いた内容を初期化させないことで、教師は子どもたちの情報のすべてを把握できるのです。プロセスも含めて“思考の進化”が記録されることで、子どもの個性までが筒抜けになるため、採点する教師としては的確な評価と指導が可能になります。
(引用元:東洋経済オンライン|フランスの子は勉強の際に「鉛筆」を使わない)
たとえ同じ「正解」だったとしても、そこに至るまでのプロセスは、子どもによって違うかもしれません。難なく正解に到達できた子どももいるでしょうし、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤のすえ、やっと正解にたどり着けた子どももいるでしょう。仮に途中で間違いに気づいた場合、子どもたちは横線や斜線を引いてそれを訂正します。そういった “思考の過程” を教師が把握できるため、各々に合ったきめ細やかな教育が可能になるのです。
また、キングス・カレッジ・ロンドンの客員教授であるガイ・クラクストン氏も、間違いを消しゴムで容易に消せてしまうことについて、次のような懸念を示しています。
生徒たちに『私は間違ったことはありません。最初から正しい答えがわかっています』という嘘をつかせてしまうことにつながる
(引用元:TOCANA|消しゴムは悪魔の道具 ― 大学教授が唱える「消しゴム不要論」とは?=イギリス)
勉強の本分は本来、間違い(※思考の過程の中での間違いももちろん含まれます)を正していくところにあります。しかし「正解だったか、それとも不正解だったか」は非常にわかりやすい指標であるため、子どもたちはそこで一喜一憂して終わってしまいがちです。
でも本当に大切なのは、間違いを自覚するということ。「何が難しかったのか?」「どこでつまずいてしまったのか?」などと振り返ることで、考える癖が身についていくのです。
「美しさ」を意識させることの意義
前出の岩本麻奈氏は、 消せない筆記具を使うことのもうひとつの意義として、たいへん興味深い考察を示しています。
インクで書けば、一度記したものを完全になかったことにはできません。修正液で消しても跡が残ります。すると、やり直しが利きませんから、できるだけ美しく書き、修正するよう気をつけることになります。
(引用元:東洋経済オンライン|フランスの子は勉強の際に「鉛筆」を使わない)
じつはフランスでは、答えが間違っていたとしても、答案用紙上の文字やデザインが美しければ、それだけで加点されることが多いのだそう。さすが芸術の国とも言えそうですが、この「美しく書こうとする」という姿勢が、とても大切なのだといいます。
特に記述式の場合、答案を美しく書くためには、書き始める前に、書く内容をしっかりと考え抜く必要があります。そして実際に書いていく際も、文字(あるいは図)の配列にまで気を配らなければなりません。「自分で深く考えようとする姿勢」や「先を見据えての段取り力」も、消しゴムを使わない教育を通して育まれていくのです。
間違いを直視できる子どもに育てるために
とはいえ、海外のこういった事例を通して「今すぐに鉛筆をやめてボールペン(万年筆)に切り替えるべきだ!」と結論づけるのは少々短絡的かもしれません。
軽いため疲れにくい、インク切れの心配がない、物を大事にする心が養われるなど、鉛筆には鉛筆の良さがあります。また学校教育の現場でも、昔からの慣習からか、鉛筆の使用が義務づけられている(あるいはボールペンの使用が禁止されている)ところも実際にあるようです。
大切なのは、“思考のプロセスは絶対に消してはならない” ということ。
「たとえ間違えたとしても、消しゴムでは消さずに残しておこうね」
このひと言を根気強くかけ続けていくことで、間違いを大切にできる “賢い子ども” へと育っていくのかもしれませんね。
(参考)
東洋経済オンライン|フランスの子は勉強の際に「鉛筆」を使わない
All About|老舗万年筆ブランド ペリカンが作った子供用万年筆 ドイツの子供向け万年筆
TOCANA|消しゴムは悪魔の道具 ― 大学教授が唱える「消しゴム不要論」とは?=イギリス
NIKKEI STYLE|答案に消しゴム使わせない フランス人のつくり方