「父性」という言葉には、「パパらしさ」「男らしさ」をイメージする方も多いかもしれません。たとえば、頼りがいがあって、子どもにルールや厳しさを伝える存在として描かれることが多いですよね。
けれどもじつは「父性」は、特定の性別や役割に限定されるものではありません。一般的には、父性とは「社会のルールを教える」「自立を促す」「方向性を示す」といった働きのことを指し、必ずしも “父親である必要はない” のです。
父性とは、性別に関係なく親なら誰もが発揮できる「子どもを社会につなげる力」のこと。
ただし、子どもの健全な発達には、母性と父性のバランスが重要です。母性だけでも父性だけでも、子どもは安定した成長を遂げることが難しくなります。
今回は、父性の本質とその機能、なぜ母性と父性のバランスが必要なのか、子どもにどんな影響を与えるのかを中心に考えてみましょう。
目次
なぜ母性と父性の “バランス” が重要なのか
先述した通り、子どもの健全な発達には、受容(母性)と促進(父性)のバランスが重要です。では、この2つの役割はどのような関係性にあるのでしょうか。
哲学者・倫理学者の加藤尚武氏は、母性の役割を「子どもの母港のようなもので、子どもは母性という懐から外に出て冒険を楽しんでまた母港に帰る存在」とし、父性の役割を「船出の手助けで、外部に向かって出発し、外部の世界で経験を積むことを促すもの」と表現しています。
つまり、母性は「安心して帰れる場所」を提供し、父性は「外の世界に向かう力」を与える。この2つが揃うことで、子どもは安心感をもちながらも挑戦していくことができるのです。
◆たとえば、子どもが「将来の夢」を語ったとき
・父性的関わり:「その夢をかなえるには〇〇が必要だよ」
◆夫婦の意見が合わないとき、どうする?
・父母が根本的に対立している場合:子どもの自己否定感や行動の停滞につながる可能性がある
ここで大切なのは、「価値観の共有」と「アプローチの違い」を区別することです。
たとえば、「子どもには自立してほしい」という共通の願い(価値観の共有)があっても、母親は「まずは安心感を与えてから」、父親は「少しずつ挑戦させて」というように、アプローチが違うのは自然なことです。むしろ、この違いが子どもに多角的な学びを与えてくれます。
問題となるのは、「勉強は大切」vs「勉強より遊びが大事」のように、根本的な価値観が対立し、子どもが板挟みになってしまう状況です。
・父性:「外の世界に向かう力」を与える(具体的な道筋・現実原理)
子どもの発達段階と母性・父性の役割
児童精神科医の佐々木正美氏は、子どもの発達において「母性的なものが十分に与えられてからでないと、子どもは父性的なものを受け入れられない」と指摘しています。
子育ての発達段階との関係
【0〜6歳】母性中心の時期(存在価値の確立)
この時期は、安心感や無条件の愛(母性原理)が何より大切。子どもは「自分は愛されている」「この世界は安全だ」という基本的信頼感を育みます。父性的な要素も必要ですが、まずは母性的な受容が土台となります。その子がやってみたい、夢中になりたいと思っていることを存分にさせてあげること、その子の要求をできる限り叶えることが重要です。
【7歳以降】父性の本格的登場(能力価値への移行)
小学校入学を境に、社会的なルールや規律、自立への促し(父性原理)がより重要になってきます。この時期から、「なぜ勉強するのか」「社会にはどんなルールがあるのか」といったビジョンや方向性を示すことが求められます。ただし、存在価値が十分に満たされないまま「何かができるからほめられる」に移行すると、「何かができないと愛されない」という誤った条件付きの価値観をもってしまう危険性があります。
ただし、これらの段階は厳密に分かれるものではなく、年齢に応じて比重が変わっていくものと考えるべきでしょう。どの段階においても、母性と父性の両方の要素が必要です。
また、母性が強すぎると甘えん坊で自立できない人間が育ち、父性が強すぎると幼児性と攻撃性が出てくる可能性があります。バランスが重要ですね。
・7歳以降:自立への促し(父性原理)がより重要に
*母性的なものが十分に与えられてからでないと、子どもは父性的なものを受け入れられない
父性の4つの役割
発達段階を踏まえたうえで、父性が子どもに与える具体的な影響を4つの役割として整理してみましょう。これらは性別に関係なく、親なら誰もが発揮できる力です。
① “頼りになる姿” を見せる
→ 物理的な強さではなく、感情的に安定している大人としての信頼性
子どもは大人の感情の安定性を敏感に感じとります。父性的な関わりとは、困難な状況でも冷静さを保ち、一貫した態度で子どもと向き合うこと。この「頼りになる存在」としての安定感が、子どものなかに基本的な安心感と信頼感を築きます。
② “行動で語る”親になる
→ 言葉ではなく「背中」で示す。理屈よりも「やって見せる」
「約束を守ろうね」と言いながら約束を破る大人の矛盾に子どもは不信感をもとます。父性とは、仕事への向き合い方、人との接し方、失敗をどう受け止めるかといった日常の姿勢を通じて伝わるもの。この一貫した行動が、子どものなかに価値観や行動規範を自然に根づかせます。
③ “社会のルール” を教える
→ 叱ることではなく、社会と家庭をつなぐ “規範の案内人” としての役割
なぜそのルールが存在するのか、社会のなかでどのような意味をもつのかを伝える役割です。単に「ダメ」と言うのではなく、「なぜそれがいけないのか」の背景を説明することで、子どもは社会性と判断基準を身につけていきます。
④ “自立を促す” 存在である
→ やりたくないことにも意味があると伝える。未来への “目的” を与える存在
「なぜ勉強するのか」「どうして働くのか」といった人生の意味や目標を示す役割です。時に子どもに負荷をかけながらも「やってごらん」「きっとできるよ」と背中を押すことで、子どものなかに挑戦する勇気と自己効力感を育みます。
① “頼りになる姿” を見せる
② “行動で語る”親になる
③ “社会のルール” を教える
④ “自立を促す” 存在である
親なら誰もが父性を育てることができる
父性は「父親にしかできない」ものではありません。誰もがもつ “父性的な力” をどう引き出し、発揮するかがカギです。
母親が父性的に関わることも、父親が母性的になることも自然なこと。重要なのは、“誰が担うか” よりも、 “子どもの発達段階に応じて、どのような関わりが必要か” を見極めることです。
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母性が「守る愛」だとすれば、父性は「信じて手放す愛」だと言えるかもしれません。子どもを安全な場所に留めるのではなく、社会という未知の世界へ送り出す。そのために、境界を与え、道筋を示し、時には突き放しながらも見守り続ける。それが父性の本質です。
父親は「父であること」にとらわれるのではなく、「どう社会とつなぐ存在であるか」という視点で、自分自身の父性を見つめ直してみませんか。それはきっと、子どもの自立と未来にとって、大きな力となるでしょう。
(参考URL)
厚生労働省|令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-
内閣府|男女共同参画基本法
J-Stage|親としての発達に関する研究
水仙福祉会|母性的対応と父性的対応について