まだまだ小さいわが子の将来を現実的に思い描くことは難しいですよね。「今この経験がはたしてこの子の役に立っているのだろうか?」「無駄な経験をさせていないだろうか?」と悩みながら子育てをしている親御さんも多いのではないでしょうか。
もちろん子どもにとって、ひとつとして無駄な経験などありません。例えば読書をしたとき。文章をとおして自分が過去に経験したことはよりリアルに感じられますが、経験していないことを想像するのは難しいものです。このように、読書による想像力を働かせるためにも、経験と記憶をしっかりと蓄えておく必要があると思いませんか?
読書習慣がある“読書家”と読書時間ゼロの“不読者”の思考回路はどう違う?
全国大学生活共同組合連合会が2017年に調査した結果、「1日の読書時間ゼロ」と答えた大学生は全体の53%に達したそうです。ただしこれは決して衝撃的な数字ではなく、2013年にはすでに40%を超え、数年かけて上昇し続けた結果なのです。つまり、ここ数年で確実に大学生の読書離れが進行しているということがわかります。
NHKのクローズアップ現代では、2014年に「読書ゼロ」を問題視した特集を組み、若年層の読書離れについて警鐘を鳴らしています。発端は、大学の図書館の貸し出し数が毎年1万冊ペースで減り続けているという衝撃的な事実に対して、学生からは「インターネットで調べた方が本を読むよりもすぐに調べられる。読書に回す時間はほぼない」「スマートフォンには実際に情報がたくさん詰まっている。そちらを見ている時間でとられてしまう」という声。
そこで、ある課題に対して1時間で1,500字以内に意見をまとめるという実験を行いました。参加者は読書時間ゼロのいわゆる「不読者」4人と読書習慣がある2人、合わせて6人の大学生です。
実験開始直後、全員が一斉にインターネットの検索サイトでキーワードをたどりながら調べ始めました。そこで不読者の学生に対して、特殊な装置で視点の動きやホームページの閲覧数を計測したところ、わずか1秒で必要な情報かどうかを判断しているということが判明したのです。この結果だけでも、現代の大学生が高い情報処理能力を身につけていることがわかりますよね。
しかしその反面、ひとつひとつの記事を時間をかけて読み込むことはせずに、膨大な情報を切り貼りして手を加えることで小論文を完成させました。インターネットだけの情報で書かれた小論文では、一見多様なテーマを盛り込んで充実した内容に仕上がっているように見えますが、自分の意見として論理的に展開する力が弱まり、深い考察に至っていない点が目立ちます。
では次に、読書習慣がある学生の結果を見てみましょう。
ただ本を読むのではなく経験と記憶を頼りに世界を広げる
1日に2時間は本を読むという読書家の学生は、ネット記事の参考文献として紹介されていた本を、図書館で実際に探し出しました。さらに、その付近に陳列されている関連の書籍も手に取って読み込むという作業に進んだのです。
すると自分なりの考察を深めることができ、自然とテーマが絞られました。その結果、方向性が定まることで自らの見解をしっかりと述べた小論文を書き上げたのです。
東京大学大学院の酒井邦嘉教授は、「本を読むという行為は決して情報を得るためではなく、むしろ『自分の中からどの位引き出せるか』という営みなのです」と述べています。
読書をしているとき、人間の脳は文章で描写されている風景や人物や事象のイメージを補うために、視覚を司る部分が動き出します。つまり、過去に見た風景などの記憶をもとに想像力をフル回転させるのです。
脳科学者の茂木健一郎氏も次のように述べています。
脳にとって読書は、総合的かつ抽象的な刺激なんです。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という五感の記憶が総合されて、それが言葉になるので、言葉をとおして想像力をはぐくんだり、遠い世界に想いを馳せたりしますから、抽象的な思考能力を高めるには非常にいいんです。
(引用:ベネッセ教育情報サイト|茂木健一郎先生(脳科学者)が語る、「読書が脳に与えるいい影響」とは【第1回】)
読書によって想像力を広げるには、実体験による経験や記憶が必要不可欠です。本だけを一生懸命読むのではなく、実体験を重ねる機会を増やす必要がありそうですね。親として子どもにさまざまな経験をさせることは、先々になって必ず役に立つでしょう。
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読書力というものは、たくさんの本を読むだけでは身につきません。自分の経験と照らし合わせて、想像力を膨らませることで磨かれていくものなのです。読書力=国語力を上げるためにも、子どもにいろいろな経験をさせてあげましょう!
(参考)
全国大学生活共同組合連合会|第53回学生生活実態調査の概要報告
クローズアップ現代|広がる“読書ゼロ”~日本人に何が~
ベネッセ教育情報サイト|茂木健一郎先生(脳科学者)が語る、「読書が脳に与えるいい影響」とは【第1回】