あたまを使う/親の関わり/非認知能力 2026.3.18

「入学・進級が不安な子」は準備不足?いいえ、その心配は「想像力が育った証拠」です。

「入学・進級が不安な子」は準備不足?いいえ、その心配は「想像力が育った証拠」です。

入学・進級が近づくと、子どもが「新しいクラス、うまくいくかな」「先生が怖かったらどうしよう」と言い出す。そんな場面に直面したとき、「うちの子、心配性だな」と感じたことはありませんか?

じつは、この不安を「準備不足のサイン」と捉える必要はありません。研究が示すのは、こうした不安が未熟さだけではなく、未来の場面を具体的に思い描けるようになってきた発達の一面として捉えられるということです。

「まだ来ていない未来」を心配できるのは、高度な認知能力

「先のことを心配する」という行為は、一見ネガティブに見えて、じつは非常に高度な認知スキルを必要とします。

認知科学では、自分を未来の時間軸に投影して出来事を「先取り体験」する能力をエピソード的未来思考(episodic future thinking)と呼びます。*1

「来週の授業でうまく答えられなかったらどうしよう」と悩む子どもは、まだ起きていない出来事を頭のなかでリアルに再現し、感情的な結果まで予測しているのです。この能力が芽生えるのは3〜5歳ごろ。就学前後にかけて急速に精緻化し、「過去の経験から未来の場面を組み立てる」という複雑な思考が可能になります。

入学・進級を前に「不安を感じられる」ことは、こうした思考の育ちと関係している可能性があります。

なお、不安の強さや表れ方は認知発達だけで決まるわけではなく、気質や経験、環境も深く関わります。ただ、「未来の具体的な場面を思い描けるようになってきた」という発達と、「学校移行期の不安が生じる」ことのあいだには、関係があると考えられています。

青い背景の前で、4人の子どもが両手を高く上げて並び、オレンジ色の手描き風イラストでメガネやマントが描き足された、ヒーローのような雰囲気

「不安の中身」が変わるのは、認知が育っているから

子どもの恐れや不安が発達段階に沿って変化することは、発達心理学では古くから観察されてきました。就学前は「お化け」や「暗闇」を怖がる子が多いのに対し、小学校入学前後になると「友達ができるかな」「先生に怒られたらどうしよう」といった社会的・対人的な不安が前景に出てきます。*2

この変化には、他者の気持ちや視点を想像できる「心の理論(Theory of Mind)」の発達、仲間関係における評価への感受性の高まり、そして「自分がどう見られるか」を意識できるようになる自己認識の深化が関わっていると考えられています。これらの認知的な成長が、不安の「質」を変える一因と考えられています。

入学・進級の前夜に「クラスで友達ができるかな」と心配しているとしたら、その子はすでに「他者の目から見た自分」という視点を持ち始めている可能性があります。それは決して未熟な反応ではなく、認知的な豊かさの表れです。

なぜ「大丈夫」と言うだけでは不十分なのか

不安を口にする子どもに「大丈夫だよ」と言いたくなる気持ちは自然なことです。しかし、エピソード的未来思考の研究が示すように、子どもが不安に感じているのは「リアルに想像した具体的な場面」です。

つまり「大丈夫」という言葉は、その具体的なシナリオに応答していません。子どもが頭のなかで描いている「もし〇〇だったら」という物語に、ぴったり寄り添えていないのです。子どもの不安に向き合うとき、「どんな場面を想像しているの?」と一緒に言語化することが、最初の一歩になります。

夕焼け空を背に、子ども2人が自転車に乗って並んで進むシルエットを写した、のびやかで穏やかな雰囲気の写真

親が今日からできる3つのこと

①「どんな場面が心配なの?」と聞く

不安を否定せず、具体的に引き出します。「誰とも話せなかったらどうしよう」という言葉が出たら、「そっか、そういう場面が浮かんでるんだね」とまず受け取る。想像の内容を声に出すだけで、子どもの不安は整理されやすくなります。

②「うまくいった未来」も一緒に想像する

エピソード的未来思考は、ネガティブな方向にも、ポジティブな方向にも使えます。「もし仲のいい子ができたら、どんなことしてみたい?」と問いかけると、子どもの想像力は自然と別のシナリオへ向かいます。無理やり前向きにさせるのではなく、同じ想像力の向き先を広げるイメージです。

③親自身の「最初の記憶」を語る

「お父さんも小学校に入る前、すごく緊張したよ。最初の休み時間に話しかけられなくて、一人でいたんだ」
親の具体的な経験を語ることは、「不安を感じてもいい」ということを子どもに伝えます
。失敗や不安の記憶も含めた親の経験は、子どもが安心して自分の気持ちを話せる雰囲気づくりにつながるのです。

子どもが入学・進級を前に不安を感じているなら、それは心配する必要のないサイン。その子はすでに、来たる新しい世界を頭のなかでリアルに思い描いているのです。
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想像できるから、準備できる。不安は、想像力が育った子どもに自然と訪れる、成長の証なのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 不安を口にせず、むしろ「楽しみ」と言っている子は大丈夫でしょうか?

A. 「楽しみ」と言っている子が不安を感じていないとは限りません。まだ未来の具体的な場面を想像できていない段階の子もいれば、不安を言語化することへの照れや自衛のために「楽しみ」と言っている場合もあります。

Q. 「入学前に友達を作っておいたほうがいい」と聞きますが、本当に必要ですか?

A. 事前に顔見知りがいると安心感につながる場合はありますが、必須ではありません。研究が示すのは、子どもが新しい環境への不安を自分なりに言語化・整理し、「うまくいかなくても大丈夫」という感覚(失敗耐性)を持てているかどうかのほうが、入学後の適応と強く関連するということです。