「子どもが物を片付けない……」
「そのせいで部屋がいつも散らかりっぱなし……」
こんな悩みを持っている親御さまも多いのではないでしょうか。片付けに関する本が売れている昨今の日本。大人にも整理整頓ができなくて困っている人が多いということからもうかがえるとおり、「片付け」は一筋縄では行かない問題のようです。
部屋が散らかっていると、それだけでイライラしてストレスがたまってしまいますよね。ましてや子育てをしていれば、物はどんどん増えていくばかり。おもちゃに始まり、子どもの洋服に学用品に――。なかには「もう、仕方がないんだから……」と親が片付けてあげているというご家庭もあるかもしれませんが、できれば子ども自身に物を片付けられるようになってほしいもの。
そこで今回は、片付けをしない子どもの心理に迫りつつ、子どもが上手に片付けられるようになるコツなどを詳しくご紹介していきます。
子供が片付けできないのはどうして?
【理由1】まだ小さな子どもは “片付け” という概念を理解していない
子育てと住まいを考える情報サイト「ノムコム」が会員を対象に実施したアンケートによれば、子どもの片付けに対して、じつに7割超の親が不満を持っておりストレスを感じているとのこと。世間一般的にも、子どもの片付けは非常に身近な問題のようです。
そもそも、子どもは何歳からお片付けができるようになるものなのでしょうか。つまり、教育の一種としてお片付けを教えられるのは、何歳になってからなのでしょうか。
この疑問に対して、『男の子がひとりでできる「片づけ」』を著書に持つキッズオーガナイザーの中村佳子氏は、「おもちゃを持って歩けるようになったら」と答えています。目安としては2~3歳ぐらいですね。
「まずは一緒に片付けること。そして一緒に片付けながら『このぬいぐるみは、あの箱にないないしてね』『この車はあっちの小さな箱ね』と、“具体的に”、“何をどこへ”片付けるのか、動作を伝えてあげることが大切です。というのも、子どもは最初、“片付け”というのが何をすることなのかがわからないのです。一緒に片付けながら動作を教え、それを何度も繰り返すことで、子どもは“片付ける”ということを理解するようになります」
(引用元:デジタルスタイル|片付けって何歳から教えるの?子どもの年齢にあった片付けのポイントがあるんです! ※太字は筆者が施した)
子どもが遊んでいる様子を見ていると、「飽きたから次!」とおもちゃをどんどん乗り換えていく光景も珍しくありませんよね。遊び終わったおもちゃは、手放したその瞬間に子どもの意識からは消えてなくなっています。中村氏が「子どもは “片付け” というのが何をすることなのかわからない」と述べているとおり、まだ幼い子どもにとって、“片付ける” という概念はなかなか理解しがたいものなのです。
【理由2】子どもにとって、片付けとは「せっかくの遊びを終わらせてしまう行為」
一方で、もう少し年齢を重ねて “片付ける” という概念を習得したからといって、子どもは素直におもちゃを片付けてくれるというわけでもありませんよね。片付けようとしない子どもたちの中にあるのは「遊びを中断したくない」という思いだと、保育士の市川由美子氏は指摘します。
子どもは、親が呼びかける声も聞こえないほど遊びに没頭するもの。子どもにとって、遊んでいる時間は何よりも楽しいひと時なのです。そんなときに「もうそろそろ片付けなさい」と言われたところで、子どもの頭に浮かぶのは「こんな楽しい時間をどうして終わらせないといけないの?」という疑問。おもちゃを片付けることは、すなわち自ら遊びを中断させることを意味します。特に遊び好きな子どもにとっては、とうてい受け入れがたいですよね。
【理由3】子どもの片付けのための “仕組み” が整っていない
ほかにも、子どもを取り巻く環境に原因があるかもしれません。前出の中村氏が指摘するのは、「片付けの仕組み」が整っていないこと。
実は、子どもの手先は大人の手に軍手を2枚はめたくらい不器用なんです。なので、フタが固かったり、細かく手を使うような仕組みは、子どもの“自分でできる”可能性を妨げてしまうことになります。
(引用元:同上 ※太字は筆者が施した)
片付けるために箱のフタを開けないといけない、それなのにフタが固くて開かない……大人でもちょっと面倒になりますよね。あるいは、そもそも何をどこに片付けなければならないのか場所が明確に決められていないと、子どもは片付けようにも片付けられません。こんなふうに、ちょっとしたことが枷になって、子どもの片付けようとする意欲は削がれてしまうものなのです。
子供に片付けを覚えてもらうのが大切な理由
幼稚園や保育所の現場でも「片付け」に通じる態度の育成が求められている
幼稚園における教育課程の基準が示されている「幼稚園教育要領」(文部科学省が告示)や、保育所における保育の基本的事項が定められている「保育所保育指針」(厚生労働省が告示)には、「片付け」という言葉が明記されているわけではありません。しかし、就学前の子どもが片付け習慣を習得することを期待していると見て取れる文章が散見されます。
たとえば、幼稚園教育要領や保育所保育指針には以下のような項目の記載があります。
「身の回りを清潔にし、衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動を自分でする」
「幼稚園における生活の仕方を知り、自分たちで生活の場を整えながら見通しをもって行動する」
「共同の遊具や用具を大切にし、みんなで使う」
このように、自ら環境を整えたり物を大切にしたりする態度を身につけさせることが指針として述べられています。これらは「お片付け」に通底する態度と言えるでしょう。「社会には守らなければいけない規則規律がある」という事実を、子どもたちはお片付けをとおして少しずつ学んでいくのです。
片付けできない子どもには “恐ろしい未来” が待ち受けている……?
このように、しつけの一環として子どもに片付けを覚えてもらうのはたしかに大切です。加えて、学術的な観点からも、片付けの重要性を説明することができます。
たとえば、プリンストン大学神経科学研究所の研究は、人間の脳は秩序を好み、無秩序な状態が目に入り続けると集中力が低下することを明らかにしています。また、ニューサウスウェールズ大学の別の研究によれば、散らかった環境にいると自制心が低下するとのこと。さらに、カリフォルニア大学の研究者は、散らかった家庭環境で生活している人のほうが、コルチゾール(※ストレスホルモン)の血中濃度が高いことを示しています。
これらは大人を被験者にして導き出された結果ですので、子どもにも同じことが言えるかというと、そうではないのかもしれません。しかし注意すべきは、みなさんの子どもが、物を片付ける習慣がないまま大人になったときに、こういったデメリットを被る可能性が非常に高いということ。整理整頓の仕方がわからない……散らかった部屋で過ごすことに何も抵抗を感じない……そんな大人にはなってほしくないですよね。
将来的に被るであろうリスクを未然に防ぐという意味でも、小さい頃から片付け習慣を身につけさせることには、一定の意義があると言えそうです。それではここからは、子どもが上手に片付けられるようになるコツをひとつずつ紹介していきましょう。
【子供の片付けのコツ1】親が楽しげに片付けている姿を見せる
まずは、まだあまり年齢の行っていない子どもに対しても使えるシンプルな方法をご紹介しましょう。国際モンテッソーリ教師ディプロマの資格を持つ田中昌子氏は、大人が楽しく片付けをしている姿を子どもに見せることをすすめています。
大人は「片付けなさい!」と叫びますが、どうやって片付けるのかを伝えていないことが多いのです。夜中に子どもが寝静まってから、親が一人で片付けていては、子どもが片付けの方法を学ぶ機会がありません。子どもはやり方を学びたがっていて、大人のやることをそのまま真似したい時期でもあるのですから、せっかくの機会を逃すのは、とてももったいないことです。
(引用元:絵本通信|子育て相談 モンテッソーリで考えよう! ※太字は筆者が施した)
子どもは、親がしていることをまねしたがるものです。まだ1歳にもならない赤ちゃんでさえ、親が手を挙げれば子どもも手を挙げ、親が手をグーパーグーパーすれば子どもも手をグーパーグーパーし――子どもが親の行動をよく見ています。この要領で、子どもの近くで楽しくお片付けをして、まずは背中を見せてあげましょう。子どもに「自分も同じことをしてみたい!」と感じさせるのがポイントですよ。
田中氏によれば、この方法を使えば、1歳や2歳の子どもでもきちんとまねをして楽しそうに片付けてくれるとのこと。片付けがうまくいったら子どもを褒めるのも忘れないでくださいね。
【子供の片付けのコツ2】ゲーム性を取り入れて「競争」する!
3~4歳ごろ、子どもに自我が芽生えて負けず嫌いな性格が出てきたら、親と子どもでお片付け競争をするのも手です。前出の中村氏は次のように述べています。
(前略)この時期は自分の主張が強くなる頃でもあります。“できるはずなのに、片付けに気持ちだけが乗ってこない”という子どもには、「よーいどん!」で競争にしてしまうのもおすすめです
(引用元:デジタルスタイル|片付けって何歳から教えるの?子どもの年齢にあった片付けのポイントがあるんです! ※太字は筆者が施した)
先に述べたとおり、子どもは「片付け=遊びを終わらせるもの」ととらえてしまいがち。であれば、“遊びの延長” というふうに再認識させてあげればいいのです。
たとえば、「さあ、どっちが早く片付けられるか競争だ!」と発破をかけたり、「○○くんとママ、どっちがきれいに片付けられるかな? パパが褒めてくれたほうが勝ち!」と競争心を刺激したり。そのとき、ちょっと手加減して子どもに勝たせてあげると、子どもは上機嫌になって「お片付けって楽しいな!」と思ってくれるはずです。
【子供の片付けのコツ3】収納は蓋なしボックス&オープン棚で!
先に述べたとおり、片付けの仕組みはできるだけシンプルさを追求するべきです。たとえば、おもちゃを収納するための箱も、フタがついていないものを選び、“フタの開け閉め” という面倒な動作をあらかじめ排除しておきましょう。同様の理由から、おもちゃ箱自体をしまう棚を用意する際も、扉がないものを選ぶのがベター。
たとえば、このようなフタなしのボックスをいくつか用意して、オープンな収納棚にしまうようにすれば、心理的な枷もだいぶ減りそうですよね。必要最低限の動作で片付けが簡潔するような環境を用意してあげましょう。
■上段のボックス(「Life Story ライフストーリー craft クラフト オブロング Lサイズ」)の詳細はこちら
■中段のボックス(「キャンバス ボックス CANVAS BOX スクエア S」)の詳細はこちら
■下段のボックス(「stacksto スタックストー バケット M」)の詳細はこちら
このときは、それぞれの物の定位置を決めるのも忘れずに。「ぬいぐるみはこのボックス」「車のおもちゃはこっちのボックス」など、仲間ごとに分類してあげるといいでしょう。ボックス自体を色分けしたり、ボックスにラベル(シール)を貼って目印をつけてあげたりすると、子どもにとってはもっとわかりやすくなるかもしれませんね。
【子供の片付けのコツ4】よく使う衣類やカバンは “手軽にかけられるもの” がおすすめ
普段よく着るコート類や、幼稚園や小学校に持っていくカバンやランドセルなど、使用頻度が特に高いものも、やはり片付けやすさを優先するべきです。たとえば、ツリー状のポールハンガーを使って、手軽にかけられるようにするのもよさそうですね。そのへんに脱ぎっぱなし・置きっぱなしだった物が、ほんのひと手間で整頓されます。
■ポールハンガーの詳細はこちら
小学生になってランドセルを使うようになったら、それ専用のランドセルラックを用意するのも手ですね。“片付ける場所がきちんと決まっている” 環境を用意してあげましょう。
■ランドセルラック(「こどもと暮らしオリジナル New Curio Life ランドセルラック キャスター付き ワイド」)の詳細はこちら
子供の片付けに関するおすすめの本
ここまで、お片付けのコツを紹介してきましたが、もっと深く知りたい人は、片付けに関する本を読んでみるのもいいかもしれませんね。何冊かご紹介しましょう。
『魔法の声かけで子どもが自分で動きだす! 3歳からできるお片づけ習慣』
「片づけなさい!」はもういらない――帯にこう書かれているとおり、子どもが「お片付け=楽しいこと・気持ちいいこと」と考えてくれるような工夫が載っています。本の著者は、保育士の資格を持ち整理収納アドバイザーとして活躍する伊東裕美氏。同じシーンで使うものをまとめられる「セット収納」や、明日の支度が迷わなくなる「ワンアクション収納」など、ただ物を片付けるだけではない、もう一歩進んだ収納術が紹介されています。
『子どもがどんどん整理整頓したくなる! お片づけ帖』
著者のカール友波氏は、「整理収納アドバイザー1級」認定講師である “お片付けのプロ”。カール友波氏は「子どもの片付けはしかけが9割」と述べています。放りっぱなしのランドセルや玄関に脱ぎっぱなしの靴などをはじめ、片付けができない子どもを “しかけ” の力で上手に片付けさせる方法を伝授してくれます。
***
子どもが片付けてくれるようになるポイントを押さえて、片付けに関する悩みをなくしていきましょう!
(参考)
ノムコム with Kids|子どものお片づけに関するアンケート結果発表
デジタルスタイル|片付けって何歳から教えるの?子どもの年齢にあった片付けのポイントがあるんです!
ベネッセ教育情報サイト|片付けられない子どもを片付け上手にするコツ
文部科学省|幼稚園教育要領 |第2章 ねらい及び内容
厚生労働省|保育所保育指針
ハーバード・ビジネス・レビュー|デスクが散らかっていると集中力も生産性も低下する
Lenny R. Vartanian, Kristin M. Kernan, Brian Wansink(2016), “Clutter, Chaos, and Overconsumption: The Role of Mind-Set in Stressful and Chaotic Food Environments”, Environment and Behavior, Vol.49, No.2, pp.215-223.(PDF)
絵本通信|子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
伊東裕美(2019),『魔法の声かけで子どもが自分で動きだす! 3歳からできるお片づけ習慣』, 日本実業出版社.
カール友波(2016),『子どもがどんどん整理整頓したくなる! お片づけ帖』, 永岡書店.