国語 2024.12.25

「自分の名前だけ書ければいい」はウソ? 12年間の教室で見てきた入学準備の大切さ

編集部
「自分の名前だけ書ければいい」はウソ? 12年間の教室で見てきた入学準備の大切さ

「自分のお名前だけ書ければ大丈夫です」――入学説明会でよく聞くこの言葉。年長さんをもつ保護者の方なら、「本当にそうなの?」となんとなく不安を感じていることでしょう。特に気になるのが、入学後のスタートダッシュ。4月から始まる小学校での学習について、「うちの子、ついていけるかしら」と心配されている方も少なくないはずです。

約12年間小学校教師として勤務してきた経験から言えば、この「自分のお名前だけ書ければ大丈夫です」の言葉は、建前と本音が入り混じった微妙な言葉だと感じています。しかし、決して焦る必要はありません。入学後の学習をスムーズに始めるために、家庭でできる準備があるのも事実です

この記事では、実際の小学校での文字指導の進め方や、入学までに無理なく楽しく取り組める文字学習の方法をご紹介します。お子さんの発達段階に合わせた効果的な入学前のひらがな準備のヒントが見つかるはずです。

小学校での文字学習はどう進む?

就学前の文字習得の現状

文字教育への取り組み方は、幼稚園や保育園によって様々です。遊びを通じて積極的に文字に触れる機会を設ける園もあれば、あえて文字指導を控えめにする園もあります。また、家庭での関わり方によっても、お子さんの文字への興味や習得状況は大きく異なってきます

文部科学省の研究「幼児教育、幼小接続に関する現状」によれば、年中児(3、4歳児)での文字の読みの習得率は、男の子81.9%、女の子89.7%、という高い数値を示しているそうです。さらに、年長児(5歳6歳)では男の子92.1%、女の子97.7%にまで上昇します。じつは、入学前に「ひらがなをほぼ読める」子がほとんどなのです。*1

入学後の文字学習はこんなふうに進みます

入学したばかりの4月、1年生の子どもたちにとっての最初の課題は学校生活に慣れることです。この時期、先生からの指示や教室の掲示物は、ほとんどがイラスト付き。文字だけに頼らない工夫をしながら、子どもたちの学校生活をサポートしています。

4月は基礎作りの大切な月。毎日2時間ほどある国語や書写の授業では、まずは正しい座り方鉛筆の持ち方から始め、直線や曲線といった運筆の練習をします。子どもたちは先生のお手本を見ながら、自分の名前を書く練習をすることで、文字を書く楽しさを知っていきます。

5月になると、いよいよマス目を使った本格的な文字練習が始まります。文字はやさしい文字から順番に学んでいきます。まずは「つ」「く」「し」といった一画で書ける文字から。次に「とめ」や「はらい」、「はね」のある文字、そして「の」のような「曲がり」のある文字を練習します。そして、最後に「ま」「す」のような「結び」のある文字や、2文字以上の言葉を並べて練習していきます。

毎回の授業では、先生がお手本を見せ、みんなで空に指で書きながら書き順を声に出し、その後にドリルでなぞり書きをしてから、実際に自分で書く練習をします。1日に学ぶ文字の数は2、3文字程度。その日学んだ文字は宿題で復習することで、しっかりと身につけていきます。その後もひらがなの学習は続きますが、一般的には6、7月には50音の学習が終わります。*2

書写の学習の流れの表(参考)光村図書|年間年間指導計画・評価計画資料1年生

文字学習の個人差

文字の習得には、やはり個人差があります。しっかりとした筆圧で、一度できれいな文字を書ける子もいます。しかし一部には、鏡文字になってしまったり、文字の大きさがうまくコントロールできなかったりし、何度も何度も消して書き直してを繰り返しているうちに紙に穴が開いてしまう子もいます。

クラスのなかに、多いところでは35人もの子どもがいるので、先生はひとりひとりに丁寧に教えたいと思っていても、授業時間内での個別指導には限界があります。そのため、その日学んだ文字は必ず宿題として出し、家庭でも練習を重ねてもらうようにしています。

このように学校と家庭で協力しながら段階的に学習を進めていくことで、多くの子どもたちは6月から7月頃には、ひらがな50音を書けるようになります。そして夏休み頃には文章が書けるようになり、宿題として絵日記を出す先生も多いと思います。入学からわずか4、5か月でここまで進み、2学期からはさらにカタカナや漢字の学習も始まります

1年生の学習は、私たち大人が想像する以上にペースの速いものなのです。だからこそ、ひとりひとりの子どもの成長に合わせた支援が大切になってきます。

ひらがなとカタカナが書かれた教科書

「子育て費用」の総額は22年間でいくらになる? 調査結果をもとに計算してみた。
PR

「焦らなくていい」けれど、できることはある

1. 遊びが文字学習の土台に

では、入学を控えるお子さんに、親はどんなサポートをしてあげられるでしょうか。じつは、毎日の遊びのなかに、文字を学ぶための大切な準備が詰まっています。たとえば、もしおうちや園でお絵かきや線つなぎ、迷路といった遊びをしているならば、それがすでに運筆の練習となっています。お子さんの自由な表現活動が、やがて文字を書く力へと育っていくのです。

大切なのは、これらの遊びを「勉強」にしないこと。「もっときれいに」「はみ出さないように」という声かけは控えめにして、子どもが楽しく夢中になれる環境をつくってあげてください。遊びのなかで自然と育まれる力を信じて、温かく見守っていただければと思います。

2. 絵本は文字との出会いのきっかけに

絵本は子どもにとって、文字を学ぶ素晴らしい入り口となります。子どもは大好きな絵本を何度も読んでもらううちに、自然と文字に興味をもち始め、少しずつひらがなを覚えていきます。絵本は、楽しみながら文字を学べる最高の教材なのです。

また、ひらがなを少し読めるようになると、書くことへの意欲も自然と湧いてきます。専門家たちもこの、「自然な興味の芽生え」を重視しています。全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会 元会長の和田信行氏はこう指摘しています。

読めるようになったら「次は書けるようになりたい!」と思うのが自然の欲求。子どもがやる気になったとき、すぐに取り組めるよう、鉛筆と紙は常に子どもスペースに用意しておきましょう。この時期は、書く意欲があるだけで十分。「書き順が違うでしょ」「そうじゃないでしょ」といった間違い探しはしないこと。子どもがやる気をなくしてしまいます。

(引用元:ベネッセ教育情報|小学校入学準備「文字と数の学習。本当に必要なこと」)※太字による強調は編集部が施した

大切なのは、強制的な学習ではなく、子どもの興味に寄り添うこと。絵本を通じた楽しい文字との出会いが、読み書きへの意欲を育んでいきます。*3

3. デジタルの良さを活かして

文字学習において、手書きとデジタルをバランスよく活用をすることがおすすめです。鉛筆で文字を書くことは、脳の発達によい影響を与えることが脳科学研究でもわかっています。ただし、最初から鉛筆で文字を書く学習から始める必要はありません。タブレットでの学習にも、大きな魅力があります。音声ガイド付きの学習なら、文字と発音を同時に楽しく学べます。目と耳を使って学べるので、家庭学習にぴったりです。お子さんの成長に合わせて、時には手書き、時にはデジタルと、柔軟に学習方法を選んでみてください。

大切なのは、学ぶ楽しさを感じられること。子どもの好奇心を大切にしながら、さまざまなツールを活用し、お子さんのペースで文字の世界を広げていってください。

***
入学準備で最も大切なことは、子どもの自然な成長を温かく見守ることです。焦らず、でも意識的に文字とのよい出会いを演出することが重要なポイントとなります。

便利な時代だからこそ、デジタル教材や書き込み式ワークブックなど、多様な学習ツールから子どもに合った方法を選べます。これらを柔軟に活用することで、子どもの興味を大切にしながら、楽しく無理のない入学準備を進めてくださいね。

(参考)
(*1)文部科学省|「幼児教育、幼小接続に関する現状
(*2)光村図書|年間年間指導計画・評価計画資料1年生
(*3)ベネッセ教育情報|小学校入学準備「文字と数の学習。本当に必要なこと」

【ライタープロフィール】
未来先生(みらい・せんせい)
教育学科で学び、小学校免許や中学校英語免許を取得。小学校にて担任や英語専科教員として約12年間勤務、子どもたちの学びを支えてきました。現在は、2人の男の子の育児に奮闘しながら、これまでの知識と経験を生かして、子どもの成長と学びに役立つ情報をお届けしています。