子どもが過度に失敗を恐れたり、うまく物事が進まずにかんしゃくを起こしたりしていたら、もしかして完璧主義の傾向があるかもしれません。
完璧主義の実態、そして子どもの完璧主義を防いでやわらげていく方法を、専門家の言葉を参考にしつつ紹介します。
完璧主義とは
心理学の専門家や医師、社会学者らのコラムが掲載されている『Psychology Today』は、「完璧主義」をこう表現しています。
“人生そのものを『成績表』にしてしまう特性”
完璧主義の人々は、他者から愛され、他者から認められるには、完璧なパフォーマンスを発揮しなければならないと考えてしまうとのこと。心理カウンセラーの大塚統子さんによると、大人における「完璧主義の長所」は仕事の精度が高いことや、最後まで手を抜かない責任感の強さなどです。
しかし、「完璧主義の短所」は、そうした信頼度にかかわる長所を台無しにしてしまいかねません。たとえば、中途半端が許せないので、自分にも他人にも厳しく、否定的・批判的になりやすいとのこと。また、完璧を目指すので物事を完成させるのが遅く、柔軟性がないので視野が狭くなりがちなのだとか。楽な気持ちで物事に取り組めないので、楽しむ能力に乏しく、気持ちの切り替えもあまり上手ではないそう。
『Psychology Today』は、完璧主義者がネガティブになりがちなのは、成功を望む一方で、失敗を避けることに最も焦点を当てているからだ、と説明しています。
完璧主義の子どもの特徴
子育ち研究家でライターの長岡真意子さんによれば、高いレベルの成果を目指し、物事の細かいところまできっちりと取り組もうとする子どもは、優等生のようでいて、さまざまな問題を引き起こしてしまう危険性があると述べています。
完璧主義がネガティブに働いているときの子どもは、次の特徴があらわれるとのこと。
- とにかく失敗を恐れる
- 物事がうまく進まないと、すぐかんしゃくを起こす
- 新しいことへの挑戦や、失敗しそうなことは避ける
- 困難だとわかると、すぐに諦めてしまう
- “やるべきこと”を、ぐずぐずと後回しにする
- オール・オア・ナッシング思考(全てか・無か=妥協を許さない)
長岡真意子さんは、子どもが完璧主義になってしまった場合に起こる問題を、次のように挙げています。
■成長の機会を逃しやすい
新しいことへの挑戦やリスクがあることを避け、確実にできることだけをやっている限り、成長は望めません。失敗を含む多くの経験は、成長において大切な「糧」となるからです。
■気分が降下しやすい
「失敗したらどうしよう」と過度な恐怖感や不安感を持つことや、気持ちの切り替えができず「完璧ではなかったこと」「失敗したこと」を引きずり続けることは、精神衛生上よくありません。
■孤立しやすい
周囲に対しても完璧さを求めると、どうしても否定的・批判的になってしまうので、孤立しがちに。
完璧主義な子どもが大人になったら……。
心理カウンセラーの大塚統子さんの言葉を参考にすると、完璧主義な子どもがそのまま大人になってしまった場合、少しでも何かをできないと自分を責めるようになってしまいます。自己否定の連続で、心が苦しくなってしまうでしょう。
また、自分のみならず他人にも完璧を求めてしまうので、人とギクシャクすることが多く、人間関係にストレスを感じるようになってしまいます。
できないところ、弱いところ、中途半端なところを人に見せないようにしてしまうので、人に助けを求められなくなることも考えられます。自分の限界を超えても頑張り続けていると、ある日突然、何もできなくなってしまうことがあるのだとか。
それに、「完璧にできないのなら、最初からやらない」「あと一歩というところまで完璧だったのに、少しだけ間違ったから、もうやめた」と極端になってしまいます。
つまり、社会人に必要なチャレンジ精神、粘り強さ、柔軟な考え方を備えていない大人になってしまうわけです。
そもそもなぜ完璧主義になるのか?
なぜ、完璧主義になってしまう子どもがいるのでしょう? それには、親の “ある言動” が関係していました。
「減点法」で評価する
たとえば、子どもがテストで80点をとったとき、どう声をかけますか?
「あと20点で満点だったのに……。この20点はなぜできなかったの?」
「このまえできなかった問題が解けてるね! うん、よく頑張った!」
前者は、わが子が「もっと良くなるように」といった親心かもしれません。しかし、長岡真意子さんも、教育・子育てアドバイザーの鳥居りんこさんも、口をそろえて、まずは「子どものできていること」「子どものありのまま」を認めてから、改善に取り組むようすすめています。
減点法(20点を失った)ではなく、加点法(80点とった)で評価する癖をつけることが大切とのこと。常にネガティブな評価ばかりだと、子どもはすっかり萎縮してしまい、自己否定感の強い完璧主義者に成長してしまいます。
失敗を恐れ「口うるさく」なる
親からのきびしい “しつけ” で育った人は、自分の子どもが失敗することを過剰に恐れるようになってしまうそう。「子どもが失敗して困らないように」といった親心から、子どもの些細なミスにもガミガミ叱ってしまうのだとか。
しかし結局は、その “親心” が子どもを委縮させ、自ら何かをやろうとする意欲をそいでしまうそうです。
シンガポール国立大学による2017年発表の研究も、きびしくしつけられた子どもは、過剰に失敗を恐れるようになり、失敗した自分を責めやすくなると示しています。
子どもの完璧主義を予防・改善する方法
米国ミシガン州立大学の2012年に発表された研究によると、完璧主義のネガティブな面は、親から子どもへと引き継がれていく可能性があるそうです。
もしも、自分に完璧主義な部分があると感じるならば、鳥居りんこさんがアドバイスしているように、あなた自身も「自分のありのまま」を、ほんの少し認めてあげるようにしてみてください。
そうすると少し生きやすくなり、子育てに関しても「ま、いっか」といった “余裕” が生まれてくるはず。たとえわずかでも、親の “大らか” な変化は、しっかりと子どもに伝わるでしょう。
また、長岡真意子さんは、完璧主義の子どもを伸ばすコツとして、次の内容を紹介しています。鳥居りんこさんの言葉も参考にしつつ、かみ砕いて説明します。
1.「評価」=「成長のため」と伝える
完璧主義の子は「評価」と「自分の価値」を同一に捉えてしまうそう。もしも70点をとったら、自分は70点の人間だと考えてしまうわけです。
そうならないよう、「どの問題が得意かわかったね!」「どの部分をもっと勉強したらいいかわかったね」と、自分が成長するために評価が機能すると教えましょう。
2. 成果ではなく努力を認める
「よく100点をとったね。えらい!」ではなく、「よく努力したね。えらい!」「よく最後まで投げ出さないで問題を解けたね。えらいぞ!」と、子どもの「姿勢」や「努力」を褒めてあげましょう。
鳥居りんこさんも、「100点をとってえらいね」といい、100点をとらなければ愛情を得られないと植えつけて(条件つきの愛)しまうと、失敗を過剰に恐れる子どもになると説明しています。
3. 認めてから→改善へ
先述のとおり、たとえば子どもがテストで80点をとったら、まずは「できていること」、つまり80点とったことを認めてあげましょう。
そのあとで「できなかったこと」、つまり失った20点について分析し、改善できるよう理解を助けてあげます。そうした――
体験(80点とったこと)
行動(次が良くなるよう考えて努力すること)
――が、いかに未来に役立つか伝えることも大切です。
4. 偉人も完璧ではなかったと伝える
たとえば、天才の代名詞でもある理論物理学者のアインシュタインが、じつは学校では落ちこぼれだったこと。世界的な絵本作家ドクタースースは、27回も出版を断られた経験があること。発明家のトーマス・エジソンは、学校の先生に「おまえの頭は腐っている」といわれるほどの落ちこぼれだったにもかかわらず、世界一と称される発明王になったことなどなど、偉人も完璧ではなかったことを伝えましょう。
重ねて、たとえ失敗しても、その後の行動次第でいい未来が形づくられていくことを、やさしい言葉で説明することも大切です。たとえばこうです。
「みんな不完全だけど、できないところをがんばってみたり、できることをもっとがんばったりして、人それぞれの宝物を磨き、ときには直し、歩んでいるんだよ。だってそのほうが、すごく楽しいから」
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「自分が完璧主義だから、子どもが完璧主義になってしまった……」などと、自分を否定する必要はまったくありません。
たとえば、ダイヤモンドやルビーといった天然石のカットは、ほとんどが左右非対称だといいます。貴重な石の大きさを、ムダに削らないようにしているからです。つまり、左右対称は合成だと判断するひとつの目安。
人間は不完全であるからこそ、磨くと美しく輝く。ご自身に対しても、子どもに対しても、そんなふうに考え、明日から “いかに子どもと楽しく学んでいけるか” チャレンジしてみてくださいね。
(参考)
Psychology Today|Perfectionism
STUDY HACKER|精神科医がすすめる「完璧主義」を直す方法。“あのフレーズ” を口癖にするだけで心が楽になる。
All About|完璧主義の子供は成長に悪影響を及ぼす?子育てでの対処法
マイナビウーマン|完璧主義をやめたい! 特徴や悩みを知って卒業しよう
プレジデントオンライン|“良かれ良かれ”で子供を壊す母の共通点5 他人と比較すれば子供はつぶれる
NCBI|Developmental Trajectories of Maladaptive Perfectionism in Middle Childhood.
NCBI|Etiologic relationships between anxiety and dimensions of maladaptive perfectionism in young adult female twins.
松枝史明著(2009),『わが子のやる気を引き出す育て方―天才・偉人の親たちに学ぶ』,主婦の友社.
ハーバード・ビジネス・レビュー|ストレス環境に効くセルフ・コンパッション