芸術にふれる/アート 2018.2.28

“寺子屋”美術教室、科目の垣根をこえた究極の6時間レッスン! 丹内友香子先生インタビュー【前編】

編集部
“寺子屋”美術教室、科目の垣根をこえた究極の6時間レッスン! 丹内友香子先生インタビュー【前編】

10時~16時まで、1回のレッスンが6時間の美術教室
そのレッスンは美術だけにとどまらず、理科、算数、国語、社会につながるあらゆることを教えてくれるのだそう。

その内容をお聞きしに丹内友香子先生のアトリエにおじゃましてきました。

「うちは寺子屋だから」という丹内先生の美術教室について、そして“子どもたちの考える力を養う”その指導方法について、たっぷりとお話をお聞きします!

その子の心の中に、しっかり残るものを教えてあげたい

——世に送り出した書籍は数知れず、少女向けミステリ小説や図鑑、資生堂広報誌「花椿」など、作家として編集者として多方面で活躍していた丹内友香子先生が、子どもたちに美術を教えることになったきっかけを教えていただけますか?

丹内先生:
学校は油絵専攻だったのですが、カメラマンやイラストレーターのお友だちと会社を立ち上げたりして、いろいろな仕事をしていました。カメラとバックを持って全国を取材したりして、楽しかったですね。

それから息子が生まれて、幼稚園に通うようになって、息子のお友だちと一緒に絵を描いたり、折り紙を折ったり、いろんなものを紙で作ってお店屋さんごっこをしたりしていたら、噂が噂を呼び(笑)、常に子どもたちが家の中にいるようになってしまったの。

あるとき、周りの刺激に敏感で集中力が長続きしないため、どこのお教室にも入れない男の子を預かったことがあります。その日は、鉢植えのピンクのシクラメンを描く日だったんだけど、それまで動き回っていたその子が、パッと静かになって絵を描き始めた。茶色の植木鉢をカラフルに、ピンクのシクラメンを紫色に……。

そのときに「子どもってすごいな、こちらが教えちゃいけないんだ」って気がつきましたね。それよりも、テーマを出してあげて、その見方を教えるだけにしようと。それが、子どもと一緒に“創る・造る”喜びを共有したい、と思ったきっかけでしょうか。

それから、小学校受験のペーパー試験を教えている先生と出会って、ふたりで受験対策の絵画とペーパーを教え始めました。そのあたりから、受験絵画の色が濃くなってきてしまいました。

そして教えてるうちに、果たしてそれでいいのかな、という疑問が出てきてしまったの。受験対策の絵画はパターン化されているんですね。そのための絵画を教えることに対して割り切れなくなってしまって……。

それに小学校受験は水物なので、〇〇ができたから絶対に受かるっていうことはないんです。だから、「せっかくならその子の心の中に残るものを、その年齢にしか出逢うことのできない、ものの見え方、感じ方を引き出してあげたい」と、「テーマを出して、その見方を教える」という原点に戻りました。

その後は、美大受験用の油絵や、彫金、工作など、生徒さんのご要望に合わせて教えていましたね。

 

朝10時~夕方4時までの6時間レッスン!

——現在のレッスンについて教えていただけますか?

丹内先生:
朝10時~夕方4時すぎまでのレッスンで、幼稚園児は土曜日、小学生は日曜日です。レッスンには、音楽表現などの時間(幼児音楽の先生が担当)も含まれています。

——6時間! レッスン時間が長いですね。

丹内先生:
ふつうは1時間か2時間よね。でも、その時間内になにかを伝えるのは無理じゃない? 私はそう思うの。それに寺子屋みたいにいろんなことを教えてあげたかったし、体験させてあげたかった。一緒になにかをやってると楽しくて、私自身も時間を忘れちゃうんだけどね(笑)。

お昼にはみんなでお弁当を食べますよ。子どもたち同士が交わるためには、やっぱり同じ釜の飯……でなくて、みんなでお弁当を食べる。その時間もすごく大事だと思っています。

——レッスンを拝見しましたが、生徒さんの質問に直接答えず、自分で考えさせたり、図鑑で調べさせたりしているところが印象的でした。

丹内先生:
だって子どもたちには“指示待ち症候群”になってほしくないもの。

親や先生の言われたとおりのことをやってきて、すべてがうまくいってきた子たちが社会人になったときに、「指示してください」と上司に言う。「なにをやるべきか」という大きな目標があるにもかかわらず、そこにたどり着くための方法を自分であみ出せない。それでは、新しいものを作っていくことはできないし、仕事としても楽しくないでしょう。

前にいろいろなお教室に通っていた子がうちにきました。「まずはこれを描きましょう」と私がリンゴを置いたら、その子は「どうやって描くんですか?」と聞いたんです。でも意外にそういう子は多いと思いますよ。

見て、触って、匂いをかいで、食べたくなるようなリンゴを描こう!

あとは、丸い形を赤く塗って、上の方にちょこんと茶色い茎が出ているリンゴの絵を描く子もいますね。でも、これは絵じゃなくてデザインなんです。

そんなとき私は、これは大人たちが考え出した「これはリンゴです」というマークなのよ。だけど、みんなの顔がひとりひとり違うように、リンゴにもいろんな顔があるの。ちょっとひん曲がってたり、ぶちぶちになってたり、真っ赤だったり、色んな色のリンゴがあるじゃない? と、伝えます。

そして子どもたち全員にリンゴを持たせる、「軽い!」。そうしたら次に、茎を持たせます。「重い!」となりますよ。それから、匂いをかぐ。「いい匂い!」「食べた~い」なんて言いますね。その気持ちがとっても大事なのよ。

それから、「中身はなに色かな?」と聞いてから、リンゴを縦半分に切ってみます。種の周りがハートみたいになっていますよね。それを見せたあと今度は、別のリンゴを横半分に切ってみる。種の周りはお花みたいな形よね。

それをひととおり見せてから、皮をむいてみんなで食べる! そしたら、「甘~い」「おいしい~」「シュワっとしてる」とかいろんな感想が出てきます。

そこでやっと「じゃあわかった、それを描こう!」と描かせるの。「みんなの描くリンゴを先生がもぎりたくなるように、食べたくなるように描いてよ~」って。

半立体の勉強も兼ねる、リンゴの絵

——なるほど! では、技術的な部分はどうやって教えているのでしょうか?

丹内先生:
リンゴの場合で説明すると、まず「リンゴの花って見たことがある?」から始めます。白くてちょっと薄いピンクかな。花が咲いたら実がなるよ、実はだんだん大きくなるよ、と。

それから、実の変化を説明します。リンゴの赤ちゃんはね、最初は緑なんだよ。それがお日様の力を借りて大きくなっていくの。色は緑から黄緑、それがだんだん黄色くなって、オレンジ色になって赤になって……。それで、ちょうどいいころに「食べてもいいよ」ってリンゴが言ってくれるから、今ここにこのリンゴがあるのよ、という感じの説明ね。

そんな話をしてから、「最初は赤ちゃんのリンゴ、そしてどんどん大人の大きなリンゴの形にしていこう、色を入れていこう」と描かせると、本当に大人が描いたようなリンゴの絵になるんですよ! 緑色が入って、色の混ぜ方も絶妙なんです。

その次に難しいのは茎の部分でしょうか。まずはみんなが描いた最初の絵を見せて、「この茎じゃあリンゴが持てませ~ん」と言います(笑)。

そしてリンゴを上から見せますね。リンゴの真ん中には、茎・芯が通ってる。だから、真ん中を意識して、リンゴの中から茎が出てくるように描くと、もうそこで半立体に見えますよ。イラストと絵画の違いって、こういうところかもしれないですね。単純化、パターン化せずに、びっちり中身まで描く。

こんなふうに、目で見るだけじゃなくて、現物を触ってみる、匂いをかいでみる、食べ物であれば食べてみる。そうやって五感をフルに働かせてものを観察したら、感じたことを一度自分の中に落とし込む。「おいしい」とか「食べたい!」とか「いい匂~い」とか、そういう気持ちがあるでしょう? それを“絵”というツールで表現するのよ。

リンゴに限らず、食べられるものは全部食べさせます。好き嫌いなんて言わせずにね(笑)。そして触れるものはとにかく触ってみる。気持ち悪いなんて言わせませんよ! だって、その体験こそがとにかく大事だと私は思っているから。

【後編】に続く→

【プロフィール】
丹内友香子(たんない・ゆかこ)
美術教室代表。新聞社出版局、企業PR誌、女性誌の編集をへて、フリーランスの編集&ライターに。現在は東京都内の自宅を開放し美術教室を主宰。子どもたちに絵を教えたり、国語や算数などの勉強を教えたりと、科目の垣根を超えた指導をしている。専門は油絵。料理は玄人はだしで、得意のレバーペーストにはファンが多い。

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レッスンでの丹内先生は、子どもたちを褒める、子どもたちに考えさせる、そしてたまに子どもたちを怒る。最近の習い事で、生徒を本気で怒ることのできる先生が、どれだけいるのでしょう? 表面上ではない、生徒と先生の関係性が見える6時間レッスンでした。

子どもを送りにきたお母さんお父さんが、コーヒーを飲みながらリビングで意見交換し合ったり、先生にちょっとした相談をしたりと、ほかのお教室では見られない風景が印象的でした。

■ 丹内友香子先生 インタビュー一覧
第1回:“寺子屋”美術教室、科目の垣根をこえた究極の6時間レッスン!
第2回:理科・社会・国語・算数すべてを教える、6時間レッスンの美術教室。