近い将来、子どもが中学生あるいは高校生になったタイミングで進路を選択するときに、「文系」と「理系」のどちらに進んだらいいのかと一緒に考えたり相談に乗ったりすることがあるでしょう。そのとき、私たち親は、本人のやりたいこと、得意な分野、世の中のニーズ、将来性などさまざまな視点からアドバイスをすることになります。
しかし、言葉に出しにくいものの、子どもの将来のためにどうしても心配してしまうのは、やはり「稼げるかどうか」ではないでしょうか。今回は、私たち親が内心は気にしていながら口にしにくい「稼げるかどうか」を着眼点として、これから子どもが稼げるようになるためには、文系と理系どちらに進んだほうがいいのか考えてみましょう。
AIの発展が子どもたちの将来の仕事選びに与える影響
現在小学1年~3年のお子さんが就職するころは、世の中から必要とされている職業にはどんなものがあるのでしょうか。2015年に話題となった、2030年には日本の労働人口の49%がAI(人工知能)やロボットにとって代わられるというニュースや、AIの発達によって「なくなる仕事」と「残る仕事」が話題になったことを覚えている人も多いかもしれません。
2030年といえば、あと10年あまり。ちょうど子どもたちが社会に出るころに重なります。英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の論文「未来の雇用」では、AIの発達でなくなる仕事と生き残る仕事が具体的に挙げられています。
「10〜20年後になくなる仕事」のトップは、「電話販売員」や「不動産登記の審査・調査」「データ入力作業員」といった事務手続きや単純作業が大半。反対に、「10〜20年後まで生き残る仕事」のトップは、「レクリエーション療法士」や「聴覚訓練士」「医療ソーシャルワーカー」といった医療や介護関係の仕事が多くを占めています。今後ますます高齢化社会が進んでいく日本では、医療や介護に携わる仕事のニーズが高まっていくようですね。
理系と文系では、年収にどれくらい差があるのか?
これまでの体験や周囲の話をベースに、なんとなく「文系よりも理系のほうが稼げそうだ」と感じている人が多いかもしれません、これを裏づけるため、文系と理系では将来の年収にどれくらい差がつくのか算出したデータがあります。
教育社会学者の舞田敏彦先生が、経済協力開発機構(OECD)による国際成人力調査「PIAAC 2012」から、サンプルとして抽出した日本の大学を卒業した男女(25~54歳)を専攻で文系と理系に分け、現在の年収の分布を調査しました。その結果、以下のような傾向がみられたよう。
- (国内の就業者全体の分布に基づく相対区分で)男性は上位25%に入る年収の人が多くを占めるが、女性は下位25%が多くを占める
- 男女ともに、大学で理系を専攻した人は、文系を専攻した人より年収が高い
- 特に女性においては、理系を専攻した人と文系を専攻した人の年収の差が大きい
(データ引用元:NIKKEI STYLE|わが子の進路「損得勘定」 理系と文系どちらがいい?)
数年前に「リケジョ」という略語が話題となりましたが、この現状から、女性は理系に進んだほうが、そうでない場合よりも「稼げる」可能性は高いといってもいいでしょう。
「理系」に進んだのに、やっていることは「文系」?
日本の大学は、学部が文系と理系に分けられます。以下のように分かれていることが多いようです。
経済学部、社会心理学部、情報学部、生活科学部、スポーツ科学部など、文系と理系のどちらにも属するような学部もありますね。
しかし、この分け方は必ずしも正しくないようです。文系だと思って選んだ社会学で、大量のデータを統計分析したり、理系を希望して医学の専門知識を学び身につけても、現場では目の前で困っている人の気持ちを汲んで共感することが知識以上に大切だったり、論文執筆や研究発表で英語が必要になったりすることも十分あります。
今、お子さんの好きな教科が算数や理科だったとしても、その理由が「計算が速く正確にできる」「ルールや法則を見つけるのが得意」といった理系的な考え方によるものか、「授業で友だちと実験の予想や結果について話し合うのが好き」といった文系的な考え方によるものかによって、将来的に進む道は変わってくるかもしれませんね。
「文系」「理系」に分けるのは日本だけ?
少し海外へ目を向けてみましょう。アメリカの大学や大学院を卒業すると、専攻した科目によって「BA」(Bachelor of art)か「BS」(Bachelor of science)のどちらかが授与されます。
日本人は、「アート」と聞くと、音楽や美術のような芸術をイメージしてしまうかもしれませんが、歴史や地理、文学もアートに含まれます。広く「人間がつくったもの」と解釈できるでしょう。これに対して、「サイエンス」とは「神がつくったもの」すなわち、現実世界にある、人間以外が作ったもの全てを対象に学び、研究することを指しています。
宗教観の違いもあるかもしれませんが、日本では当たり前に感じる「文系」と「理系」が、世界共通のものではないことがお分かりいただけるでしょう。
ちなみに、日本では文系に区分される「心理学科」は、欧米では「BS」つまり「サイエンス」に含まれます。キリスト教の解釈では、人間は神が作ったものであり、神が作った人間の心理を解き明かす「心理学」は当然「サイエンス」となるのです。
また、日本では、子どもたちが高校1年生のうちに文系か理系かを選ぶ場合が多いですが、アメリカでは、大学に進学し、2年時が終わってから専攻を決めます。自分の適性についてじっくり考える時間がある欧米に比べると、日本はあまりにも早い決断をしなければならず、一度決めた進路を変更しにくいという現状は否定できませんね。
やっぱり、これから活躍する場が増えるのは「理系」の仕事
はじめに見たように、国内においては少子高齢化がますます進んで、労働人口が減っていくことは明らかです。医療や介護の分野はますますニーズが高まり、また、AIの発達によってこれまで人がやってきたことが機械にとって代わり、仕事自体がなくなるケースも多くなるでしょう。
反対に、私たちが子どものころには想像すらしなかった新しい職業も次々に生まれています。最近の例でいえば、今の子どもたちの憧れ「ユーチューバー」が筆頭に挙がりますね。
アメリカの情報サイトThe Cheat Sheetの記事「2030年までに人々がつく10の職業」には、将来有望な仕事として次のようなものが紹介されています。
- ボットロビイスト
定期的に決められたツイートをするアカウント「bot」や、メディアを利用してビジネスを支援する - 未来貨幣投機家
仮想通貨の専門家 - 生産カウンセラー
人生の生産性を上げるためにアドバイスをする - 微生物バランサー
微生物を査定する専門家 - ミームエージェント
インターネット上の著名人の代理を務める - ビッグデータ・ドクター
患者の伝記プロファイルと個人データを用いて治療する医師 - クラウドファウンディング・スペシャリスト
クラウドファンディングのアドバイスをする専門家 - 未来の仕事スペシャリスト/リクルーターの仕事
将来のキャリアに特化して助言する - 組織混乱家/企業かく乱家
システムの古い企業を覚醒させる - プライバシー・コンサルタント
プライバシー保護の専門家
金融やヘルスケアの分野で大量のデータをもとにしたコンサルティングのほか、微生物や遺伝子などの分野の発展など、いずれも「理系」の要素が関係しているのが特徴です。2030年を迎えるころ、仕事の幅や世の中のニーズに柔軟に応えられるのは「理系」を強みにしている人なのかもしれません。
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文系と理系のどちらかに偏らず、バランスよく能力を高めていけることが最も理想的だというのは言うまでもありません。また、何より、お子さん自身の学びたい分野を専攻することが一番大切。しかし、「稼げる」という視点でみると、社会情勢や技術の発達などを考えて、文系より理系のほうが有利だといえそうです。
(参考)
野村総合研究所 News Release|日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~
プレジデントオンライン|文章が読めない「新聞読まない人」の末路 AIに職を奪われない方法教えます
NIKKEI STYLE|わが子の進路「損得勘定」 理系と文系どちらがいい?
マイナビ進学|高校生のための進学ガイド 将来を見据えた文系・理系の選び方!
東洋経済オンライン|日本人の的外れな「リベラルアーツ論」 リベラルアーツとは何か(上)
経済界|未来の職業―2030年に有望な仕事とは?
プレジデントオンライン|文章が読めない「新聞読まない人」の末路 AIに職を奪われない方法教えます