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いまもなお、世界で猛威を振るう新型コロナウイルスは、医療の現場のみならず、教育の現場にも大きな影響を与えています。
いまでこそ、ほとんどの学校で通常授業が再開し、子どもたちは学校で授業を受けることができるようになりましたが、緊急事態宣言が発令された2020年4月から5月にかけては、多くの子どもが各家庭で学習を進めなければなりませんでした。長引く休校期間中、「子どもに勉強をさせる難しさ」に直面し、頭を悩ませたおうちの方も多かったのではないでしょうか。
そんななか、私が経営しているRISU Japan株式会社では、4月27日から5月27日までの約1ヶ月間、Youtube上で無料の「RISU小学生オンラインスクール」を開講しました。これは、新型コロナウイルスの影響で自宅学習を余儀なくされた子どもたち、とりわけ小学校1・2年生を対象に、無償でオンライン授業を提供するサービスです。ありがたいことに、チャンネル登録者数5,000人以上、合計視聴回数は約13.9万回と、大変なご好評をいただきました。
社会が落ち着きを取り戻すまでの期間限定サービスであるオンラインスクールは、5月末に配信を停止しました。その際には、「今年いっぱいは開講してほしい」「長期休みに期間限定で復活してほしい」など、閉校を惜しむ声もたくさんいただきました。
今回は、そんなオンラインスクールの経験から見えてきた、「未来の子どもの学び」の姿についてお話ししたいと思います。
オンライン授業の実施率、アメリカは83%。日本はたったの5%!
まずは、RISU Japanがオンラインスクールを開講した背景からお話ししましょう。2020年2月28日より始まった新型コロナウイルスによる休校期間。感染の恐怖と隣り合わせながら、いつ休校が明けるのか先も見えない状況のなか、多くのおうちの方から、子どもの学習機会の減少や学習の遅れ、学習内容の定着を心配する声をうかがいました。
「新型コロナウイルスによる学習機会の減少で、子どもたちの貴重な才能を失いたくない」
そう強く思った私たちは、この状況下で、私たちができることはなにか、必死に考えました。RISU Japanの強みを最大限活かしながら、子どもたちの才能を伸ばす方法ーー。ベストアイデアを求めて社内での検討は続きました。
そこで考え出されたのが、「RISU 小学生オンラインスクール」でした。私たちは、デジタル教材に専門で携わってきたこともあり、動画制作や配信などのノウハウがあります。また、それだけではなく、10億を超える学習データを分析しながら自社サービス「RISU算数」のカリキュラムを作成したことから、子どもの学習に効果的なカリキュラムを作成することも得意分野でした。
加えて、少し視点を広げ、コロナ禍での世界の学習状況にも目を向けてみました。たとえば、中国は国家単位で、無償の教育ツール(教材等)を提供しています。あるいはアメリカでは、「学校が提供するオンライン遠隔教育で子どもが学習している」と答えた親が2020年4月初旬ですでに83%おり(ギャラップ社調べ)、小学校から高校生まで、教師と生徒はオンラインで授業や課題のやりとりをするようになっていました。
一方日本はというと、2020年4月16日時点で、休校中または休校予定の1,213自治体のうち、双方向型のオンライン授業を行なっていたのはわずか5%(文部科学省調べ)。諸外国と比較すると、日本の学習状況は明らかに遅れをとっていました。こうした状況を少しでも打破したい、という思いが社内での意見としてまとまってきたのです。
そのようにしてやっと、「RISU小学生オンラインスクール」の構想が生まれました。
どんな時代でも生き残る人材になるための「基礎力」とは?
急ピッチでオンラインスクールの準備を進めるなか、私たちは、オンラインスクールの構想に興味を示してくれるひとりの人物と出会うことになります。それが、RISU小学生オンラインスクールで校長を務めることになる佐藤雅巳さんです。
東京大学在学中から、長年にわたって大学受験の予備校講師を務めていたという、佐藤校長。担当した受験生のなかには、算数レベルの計算でつまずく生徒や、簡単な漢字が書けない生徒も少なくなかったと言います。そして彼らを見ているうちに、「本当に必要な『基礎力』を、早いうちから子どもたちに提供したい」という思いが芽生えたのだそう。佐藤校長のそのような思いと、RISUオンラインスクールの構想が結びつき、RISU Japanは佐藤さんをオンラインスクールの校長として迎え入れることとなりました。
「コロナ禍で変容しつつある社会において、『どんな時代にあっても生き残れる人材』を育成するには、ひとりひとりに寄り添った低学年教育こそが必要だ」
以前、佐藤さんがおっしゃったこの言葉が、私の頭を離れません。小学校1・2年生の子どもたちを対象に、算数と国語の授業を提供したRISU小学生オンラインスクールでは、そんな佐藤さんの「学習における『基礎力』を」という考えも大きく反映されています。
たとえば、授業を見ながら自分で問題を書き取るような活動を入れたり、自分で問題や文章をつくったりする活動も授業では行ないました。「オンラインスクール」は受動的になりやすい授業形態です。だからこそ、自分で考え、アウトプットするという「学習にとってもっとも基礎になること」を勉強する時間を設けたのです。
しかし、オンラインスクールというかたちでアウトプット主体の授業をつくるのはなかなか難しい作業でした。配信を開始してからも、受講者の声を聞きながら難易度やカリキュラムを調整し、一方的な配信にならないよう、注力し続けました。オンラインスクールで最も力を入れたのは、こうした「アウトプット主体」型の授業とオンラインという形態にどのように折り合いをつけるのか、ということでした。
こうした苦労が功を奏したのか、RISUオンラインスクールは開校当初から、多くの好意的な反応をいただきました。TwitterなどのSNSでは、「休校中にもかかわらず、学び続けることができた」「動画での授業なのに、子どもが熱心に取り組んでいた」などの反応をいただきました。
「教室での集団授業」ばかりが正解ではない
最後に、コロナ禍での教育を見つめたひとりの人間として、withコロナ/アフターコロナ時代の教育について、私がいま考えていることをお話ししましょう。
コロナウイルスの影響で、私たちの生活スタイルは以前とは異なるものになりました。それにともない、子どもたちの教育のあり方も大きく変わるに違いありません。西洋で近代教育が始まってからの200年間、「学校」は社会で役立つ人材を効率よく育てる組織として機能してきました。
しかし、時代は複雑化し、個人が選択しうる職業やライフスタイルの幅は格段に広がりました。そうした社会状況のなかで、子どもたちの幸せ、あるいは将来を考えたときに、「教室での集団授業」ばかりが正解ではないと私は考えています。以前の連載でもお話ししましたが、これからの時代は、集団ベースの一斉指導ではなく、個人の個性に最適化された学習が教育の主流になっていくでしょう。
私たちが提供するタブレットサービス「RISU算数」の学びは、そうしたものに近いと思います。タブレット学習の利点を活かして、それぞれの子どもが各自のペースで学習を進められ、自分の苦手をしっかりとカバーしてもらえる。そしてその過程で、社会で生きるために必要な論理的思考力なども、個人に最適化された形で身についていく。
それこそが、私たちが目指す教育の姿なのです。また、現状では教育サービスに最も適したデバイスとして、タブレットが導入されていますが、私は今後、デジタルペーパーなどの紙の代替品が、教育と関わっていくのではないかと注目しています。
未来の子どもの学習スタイルは、きっと、いまとはずいぶん異なるものになるでしょう。たとえば、リビングの机に座ると、机そのものがデジタルになっていて、声で呼び出すと机にRISUの画面が現れる。あるいは、自分の勉強部屋に行ったときも、同じように机の上にRISUの画面を呼び出し、勉強することができる。
そんな世界が来る日も、そう遠くはないかもしれません。そしてそんな世界では、子どもたちの学びは各自のペースで、それぞれが好きなやり方で進めるものになっているかもしれません。もちろん、これはとても先の、未来のお話です。しかし私たちRISUJapanは、「才能あふれる世界を創り出す」をモットーに、教育でこんな未来を実現するひとつの手助けになれれば、と思っています。
『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』
今木智隆 著/文響社(2019)
■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法