芸術にふれる/アート/デザイン 2018.10.8

4〜19歳までの子どもが “建築+環境” を学ぶ、フィンランドの「建築アート教育」

長野真弓
4〜19歳までの子どもが “建築+環境” を学ぶ、フィンランドの「建築アート教育」

ナチュラルで洗練された北欧家具や雑貨は、デザイン性も高くとても人気があります。その代表格である「マリメッコ(アパレル)」や「アラビア(陶器)」、そして、世界的な建築家アルヴァ・アールトを生んだフィンランド――。

そんなデザイン先進国であるフィンランドでは、国の認可を受けたアートスクールで、子どもたちが建築と環境について学んでいます。そこから子どもたちが得るのは、単に建築に関する知識だけではない幅広い “まなび” で、豊かな人生の糧となりえる深いものです。

教育大国フィンランドで行われ、日本でも始まっている取り組みについてご紹介します。

フィンランドの建築アート教育の変遷

自由でありながら高い学力を実現して注目を浴びているフィンランドの教育。アート面では1970年代の教育改革の際、アート教育の時間が大幅に減ったことでかえって支援が高まり盛り上がりを見せたという経緯があります。

1992年以降はその反省からか、法律カリキュラムにより芸術教育を底上げする環境が保証されるようになりました。芸術の中で「建築」というジャンルが確立したのもこの頃。建築やデザインをメインにした初のアートスクール「Arkki」も1993年に設立されています。1998年公布の建築政策の中では、建築教育の重要性が盛り込まれました。

建築教育の必然性のもうひとつの側面に、「環境」があります。フィンランドを含む北欧地域は冬が長く、日照時間も限られます。そんな厳しい自然環境と共存しながら快適な人工環境を求めるべく、北欧の建築・デザインは発展してきました

フィンランドのいくつかの都市には、病院など公共施設を立てる際、予算の一部をアートに当てなければならないという法令があるそうです(スウェーデンでは国の法律で定められています)。生活の豊かさ実現のために、建築やデザインは、北欧の国にとって必要不可欠な要素となっているのです。

子どものための建築スクールArkkiが目指すものとは

Arkkiはフィンランドで初の建築を学べる放課後学校で、ヘルシンキ市の都市計画プロジェクトに参加した実績もある本格的な学びの場です。

【Arkkiの理念】
国にとっても人工環境の充実はとても重要です。その意思決定に市民が関わることも求められています。そのため建築を学ぶことは大事で、子どもの頃から経験値を高め、専門家にならないとしても、将来のより良い環境づくりのための活動に参加できるような人を育てることを目指しています。

ただ、これはあくまで長期ミッションとしての理念。Arkkiが子どもたちに学んでもらいたいのは、「発見と創造の楽しさを味わってもらうこと」、そして「全ての発見には “正しい” も “間違い” もなく、それぞれのさまざまな見方や考え方を認め合うこと」なのだそう。その中で創造性が育まれ、色や形、デザインのセンスも磨かれていくことになるのです。

【Arkkiのカリキュラム】
Arkkiでは、4〜19歳の子どもたちが学んでいます。年次によってグループが別れており、4〜6歳、7〜14歳、15〜19歳で違ったカリキュラムが組まれています。全て国の認可を受けたものです。

◇親子クラス(4〜6歳)
まだ小さな子どもたちなので、親と一緒のクラスです。最初は立体を体感することから学びます。作りたい “建物” や “街” を感性のままに自由に作ってもらうと、大概すばらしい作品ができあがるのだそう。建築の基礎となる「形」に関する感覚と自由な発想を育むことを目的としています。

◇基礎クラス(7〜14歳)
7〜9歳、10〜14歳のクラスに分かれています。この時期は建築の基礎知識を学びます。環境や社会への配慮(エコなど)歴史的背景や伝統建築基本建築やその用語についてなど。街計画についても触れるなど、学びも本格的になります。

◇上級クラス(15〜19歳)
上級になると学びも深く、複雑なものになってきます。ドアノブなど細かい部分のデザインから都市計画まで、学びの幅も広がります。実際の建築家の仕事を見ることで、設計図の読み方や有名建築のことも学びます。

学びの過程では、テーマに応じていろいろな作品を作り、プレゼンテーションも行われます。それらは自由な発想にあふれたものばかり。定期クラス以外にも、単発で参加可能なワークショップもときどき行われています。レゴで街やビルを作るものや、サマーキャンプで自分たちが泊まる小屋を作るという大掛かりなものなど、机上の勉強だけではない実践は、子どもたちのイマジネーションと創作意欲をより駆り立ててくれます

厳しい自然を拒絶するのではなく、自然を愛しリスペクトし共存する(自然に溶け込む)優しいデザインが多いフィンランドの建築やデザインは、このような考えと教育によって育まれ、発展し続けているのでしょう

日本での取り組み「子ども建築塾」

日本でも “建築×子ども” の取り組みが行われているところがあります。

NPO伊東建築塾主催の「子ども建築塾」がそれです。新国立競技場のコンペで隈研吾氏と最後まで競り合ったことが記憶に新しい建築家、伊東豊雄氏が中心となって、小学生の子どもたちに建築への興味を高めてもらおうと始まった、日本では珍しい子ども向け建築スクールです。

毎年、前後期2回のコースが実施されており、前期が「いえ」後期が「まち」のテーマで、視点を変えた学びを得られます。

前期の「いえ」では毎年違うテーマが選ばれ、これまでには「好きな素材で作る家」や「動物と一緒に暮らす家」などがあったそうです。建築の形、スケール、機能などをきちんと学びながら、最終的に自分の家の模型を完成させて発表します。

後期の「まち」では、実際に町歩きしながら、まちの構成や公共空間などについて考えます。実際の地域の町並みを作ることを目標にし、そのまちの環境や歴史・文化も生かした広い視野での建築をみんなで作り上げて発表します。

サイトで作業風景を見ることができますが、子どもたちの目は生き生き輝き、その表情は真剣そのもの。伊東氏をはじめとする第一線で活躍する建築家の方を講師に学べる貴重な機会となっています。

【子ども建築塾】(東京・恵比寿)
開講日数:前期(4〜9月)後期(10〜3月)各10回、全20回/隔週土曜14〜16時
受講対象:小学校4〜6年の児童
定員:20名(事前応募制)
※申し込み定員オーバーの場合は選考があります。
受講料:年間110,000円(教材費・見学費込み)

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「建築を学ぶ」ということは、そのスキルや歴史を学ぶにとどまりません。建築には私たちをとりまくさまざまな要素が関わっているため、人の営み、環境、快適な空間づくりのためのデザイン、街の機能など、個々の生活から自然環境に至るまで本当に幅広いことを考え、気づきを得ることになるのです。その中で、子どもたちは自分の将来のヒントをも見つけるかもしれません。創作の楽しみを知り、感性を磨く経験は、決して無駄にはなりません。

日常生活の中でも、建築スクールを参考にして、お散歩や旅行先で、目をひく建物に出会ったり、初めての場所に行ったりしたとき、その建物やまちの気になる点について、子どもと語り合ってみるのもいいでしょう。環境を生かして生活を楽しむ工夫も、本場フィンランドから学びたいところ。普段できることから始めて、「自分たちの街や環境は自分たちで作れる」と思えたなら、子どもたちの世界の可能性がますます広がりそうですね。

(参考)
Arkki
伊東建築塾|子ども建築塾「いえとまちってなんだろう?」
伊東建築塾|KAERUコラム「建築スクールArkki—未来のまちに関与できる子どもを育てる
北欧ラボ|公共とアート フィンランド編