多様化の進んでいくこれからの社会では、自ら学び考え、判断し、他人と協調しながら豊かな心を育み、たくましく生きるための健康な体づくりが求められています。こうした、私たちが生きていくうえで必要とされる「生きる力」の総合的な能力を「人間力」といいます。
人間力とは、具体的にどのような能力のことを指すのでしょう。そして、子どもたちの人間力を高めるためには、どうしたらよいのでしょう。以下で詳しくご説明します。
人間力とは、「生きる力」の総合的な能力
20年ほど前から、これからの子どもたちが必要とするのは、自ら学び、自ら考える力など、変化の激しいこれからの社会を「生きる力」だと言われてきました。文部科学省の中央教育審議会では、教育に求められる「生きる力」を次のように定義しています。
教育に求められているのは、子どもに基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力(確かな学力)、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性(豊かな心)、たくましく生きるための健康や体力(健やかな体)などの「生きる力」をはぐくむことである。
(引用元:文部科学省|教育課程部会(第36回)資料2‐1審議経過報告(素案たたき台2)2.「人間力」の育成)
人間力とは、この「生きる力」という理念を発展させて具体化したものです。2003年に発表された人間力戦略研究会の報告書には、以下のように記されています。
人間力に関する確立された定義は必ずしもないが、本報告では、「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義したい。
(引用元:内閣府|人間力戦略研究会報告書(p.10)II人間力の定義)
つまり、人間力とは「生きる力」の総合的な能力であり、以下のように言えるでしょう。
- 身体と心の健やかな成長とともに、自分を理解し自信と責任をもつ力
- 友だち(他者)との間で、自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを理解することで、協調性や責任感を身につけて人間関係を形成する力
- 社会との関係において、責任や権利、勤労を大切にし、社会・文化・自然への理解を深め、知識や情報を活用し、課題を発見し解決していく力
これから子どもたちが生きていく社会が、多様性にあふれた人々で構成され、よりスピーディに技術革新が進んでいくことを考えれば、人間力を構成しているこれらの要素は必要不可欠なものばかりですね。
人間力を早い段階から育んでおいたほうがいい理由
子どもたちに必要な人間力のうち、「身体と心の健やかな成長とともに、自分を理解し自信と責任をもつ力」は、「自己肯定感」と言い換えることもできます。自己肯定感は、大人になって社会に出てからも必要な力であり、主体的に判断・行動するための基本です。
次に、友だち(他者)との間、あるいは社会との関係で必要な力には、ほかの人とうまく関わっていく力、感情をコントロールする力などがあります。これは、計算ができる、字が書けるといった数値で測れるような「認知的能力」とは対照的に、私たちの内面に育まれる、IQなどでは測れない「非認知能力」と呼ばれているものです。
教育経済学で著名な、シカゴ大のジェームズ・ヘックマン教授をご存じでしょうか。彼の代表的な研究である「ペリー就学前プロジェクト」では、幼い頃に非認知的能力を身につけている人は、大人になってから経済的な安定を得ている人が多いことが明らかになりました。
もうひとつ、人間力を育てるうえで大切なのが「やり抜く力」です。これはGuts(度胸)、Resilience(復元力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)の4つで成り立つGRITとも呼ばれる力です。知性や才能に加えて、成功者に多く見られる能力と言われており、ペンシルバニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が、あらゆる分野での成功者の共通点が「GRITの高さ」であることを、研究によって証明しています。幼いころに身につけたやり抜く力は、子ども自身が成長していく過程で立ちはだかる困難に対して、諦めずに向き合い、解決へと行動する助けになるのです。
人間力を育てるために親ができること3つ
「今さらそんなことを」と思われるかもしれませんが、学校でも繰り返し指導される「あいさつ」「整理整頓」「人の話をしっかり聞く」「提出物は期限までに出す」といった基本を、今一度、親子で確認してみましょう。
リクルート社フェロー第1号であり、東京都で民間人として初の公立中学校校長を務めた藤原和博氏は、基礎的人間力を「他者から共感や信用を得る力」として、以下のように述べています。
「実は日本の小学校は、よい生活習慣を身につけるシステムとして、非常に優れています。特に低学年のうちは、あいさつをしましょう、靴は靴箱にしまいましょう、授業中は机に向かってちゃんと座りましょう、提出物は期日までに出しましょうなどと教えますね。そうしたなかで、あいさつができ、約束を守り、人の話が聞けるという、信用を獲得するうえで基礎となる態度が身につくわけです」
(引用元:朝日新聞EduA|藤原和博さん 子どもが『基礎的人間力』を身につけるために親ができること)
他者から信頼を得るために必要な態度を学ぶことで、生活習慣の基本をしっかりと身につけることができ、人間力の向上につながります。
「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、ライフコーチとして活躍しているボーク重子氏は、自己肯定感を高めるための最善策として「お手伝いをさせること」を挙げています。
ボーク氏いわく、自己肯定感を高めるためには、誰かの役に立ち、周りからわかりやすく肯定されることが大切なのだとか。そういった経験を得るのにぴったりなのが、お手伝いなのだそう。保護者から認められることで、子どもは自分に自信を持ち、人間力も育っていきます。
では、どのようなお手伝いがよいのでしょうか。ボーク氏のオススメは「料理のお手伝い」。手順と理由を説明しながら夕飯のお手伝いをさせたり、休日の朝食を任せたりするのもオススメなのだそう。休日の朝食を任せる際には、親が予算だけ決め、食材を調達し、時間内にご飯を作り上げるところまで任せてしまうのがよいのだとか。料理を作るのに○時間かかるから、○時までにスーパーで買い物をして……と計画を立てたり、「どうしたらいいだろう?」と考えたりすることで、実行力や論理的思考力が育っていくと言います。
初めは、野菜をちぎっただけのサラダのような、充分でないご飯が出来上がってもよいのです。自分で朝ごはんを考え、計画し、達成する経験を重ねることで、やり抜く力が身についていきます。
自然と触れ合う機会の少ない子どもも多いですが、人間力を高めるためにはキャンプがおすすめです。「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹氏は、社会性や創造性、企画力、決断力などの能力や、相手の気持ちを汲んだ行動をとる能力などに関わるHQ(人間力指数)を高めるものとしてキャンプをすすめています。
同氏いわく、キャンプは食事も寝床も作らなければならないため、必然的に主体的に取り組むことができるのだとか。また、火をおこしたり、土や木、虫などに触れたりといった五感をフルに使った経験は、学力の基礎となる探究心や感性を高めるのだそう。
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学校生活はもちろん、社会に出てからも必要とされる「人間力」は私たち大人もまだまだブラッシュアップできる能力です。お子さんと一緒に遊び、学んで、一緒に「人間力」を育みませんか?
(参考)
文部科学省 |資料2‐1 審議経過報告(素案たたき台2) > 2.「人間力」の育成
内閣府|人間力戦略研究会報告書(p.10)II人間力の定義
ベネッセ教育情報サイト|大人になった時に影響が?!子どものうちに自己肯定感を高めよう!
すくコム(NHKエデュケーショナル)|世界で注目される非認知的能力って?
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|成功者に共通するGRIT。「やり抜く力」をぐんぐん伸ばす、4つの家庭習慣
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All About暮らし|子供が成長・人間力が上がる、お手伝いタイムとは
朝日新聞EduA|藤原和博さん 子どもが『基礎的人間力』を身につけるために親ができること
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