芸術にふれる/演劇 2018.3.2

コミュニケーション能力を高める「演劇教育」、“自分は替えのきかない存在である” という自信が子どもを成長させる

編集部
コミュニケーション能力を高める「演劇教育」、“自分は替えのきかない存在である” という自信が子どもを成長させる

これからの時代はコミュニケーション能力が必須であると言われています。しかし、必要とされている現状とは裏腹に、子どもたちのコミュニケーション能力は低下しているようです

変化し続ける世界で必要になってくるコミュニケーション能力を高めるためには、子どもたちにどんな体験をさせてあげたらよいのでしょう。

海外では一般的な演劇教育

欧米ではコミュニケーション能力を育成するために、「演劇教育(またはドラマ教育)」が必須科目となっています。日本の芸術科目でいうところの美術や音楽のように、一般的な科目なのです。

日本ではまだまだ演劇教育が定着していないため、そのイメージは「芸能」に結びついてしまうことが多いですが、欧米のそれは、対人関係を学びコミュニケーション能力を高めるための非常に有効な教育であるととらえられています。

子どものころ、発表会などの劇作りがクラスのチームワークを高めてくれたという記憶はありませんか? 意見を出し合い、ときには喧嘩もしながら思考錯誤をし、ひとつのものを作り上げるという体験が、みんなの気持ちをもひとつにしてくれましたよね。あのときの団結力はコミュニケーションの賜物だったのではないでしょうか。

相手との関係性を想像できる子に

日本でも平成22年度から、文部科学省が「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験事業」を始め、芸術表現を通じたコミュニケーション教育を推進する様々な取組みを進めています。

このように政府も本腰を入れ始めた演劇教育ですが、この教育がどのようにコミュニケーション能力と結びつくのでしょう。

横浜市高等学校演劇連盟・事務局長である吉倉一雄氏は、役を与えられた役者はその役と向かいあうとき、「その人物はどのような性格で、どのようなことを考え、どのような行動を取るのか」を考えると言います。そのうえ、ほかの役の考え方や行動、自身が演じる役との関係性にまで想像を巡らせるのだそう。そしてこの「関係を想像する」ということが、現実世界の人間関係に生きてくるのです。

たとえば、お友だちに「いっしょに遊ぼう」と誘ったのに、「いや!」と断られてしまったとき、想像力があれば、「〇〇ちゃんは別の遊びがしたかったのかな?」と考えることができます。そうすれば「〇〇ちゃんはなにをして遊びたいの?」と相手の気持ちを考えた行動を取ることができるでしょう。これがまさにコミュニケーションですよね。

今の子どもたちは、人との関係性を結ぶことが不得手になっていると言われています。人とコミュニケーションが取れないために、居心地のよい場所を探すことができず、ストレスがたまり、心身を歪めてしまうのです。演劇を通して、人と人との関係性を学ぶことができれば、幼稚園や学校、習い事などのクラスの中でも、自分の居場所を見つけることができるでしょう

表現力というコミュニケーション能力

またセリフや動作を用いての「表現」もコミュニケーション能力を高めてくれます。

劇中でのセリフのニュアンスや効果的なジェスチャーは、コミュニケーション能力を鍛えるトレーニングなのです。そして自分の表現だけでなく、受け手にまわるときも、相手役のそれを理解し受け止める力が要求されます。

とはいえ、「演劇なんて所詮は現実世界じゃない」と考える人もいるかもしれません。しかし、そこがポイントなのです。ウソの世界だからこそ感情をおもいきり解放することができるのです。そしてウソの世界であっても、自分の感情を出したり、相手の感情を受け入れたりした経験が、コミュニケーションの成功体験として心に保存されます。この成功体験が続くことで、現実世界でも「自分の感情を出す」、「相手の感情を受け止める」ということができるようになるのだそうです

「自分は替えのきかない存在である」という自信

最後に、演劇を学ぶことで得られる、コミュニケーション以外のスキルについてご紹介します。

ミュージカル俳優として活躍する小野知春さんは、小学校1年生になる長女が初めて舞台に立ったときのことを次のように話しています。

「娘がはじめてミュージカルの舞台に立ったのは、2014年春、娘が4歳の時でした。それまでの娘は、どちらかというと皆の前で話すことが苦手だったと思います。恥ずかしがりやの性格なので、声が小さかったり、もじもじしてしまったりという感じでした。

でも、舞台が決まり、稽古が始まったあたりから変化が見られましたね。セリフやダンス、歌など、今までできなかったことができるようになるにつれ、少しずつですが自信を持てるようになったみたいです。自分より小さな子に立ち位置を教えるなど、周りにも気を使えるようになりました。

本番では800人のお客様の前で、堂々と演じていて感動しました。とてもよい表情で、なにより楽しそうでした。そして、舞台が終わってからの娘は、なにごとにも積極的に取り組むようになったのです練習は大変でも、練習をすれば必ず上達して認めてもらえる、ということを学んだようでした。親として、娘のそのような姿を見ることができて、とても嬉しかったです。娘はそれから、なんと4本の舞台に出演しているのですよ!」

また、ミュージカルの本場・ニューヨークでミュージカル教育を学び、現在は子どもたちに定期的なミュージカル公演・レッスンを提供している、NPO法人 JOY Kids’Theater代表の夏海清加さんは、この教育をとおした子どもたちの成長について以下のように説明しています。

演じる仲間との協力が不可欠で、舞台を支える大勢の裏方さんへの感謝は欠かせません。レッスンで心と体と思考を同時に鍛え、公演というゴールに向かって取り組んでいく中で、表現力やコミュニケーション力が向上するのはもちろん、自分の考えを言葉にして伝える力や集中力、思いやりや協調性、周りを見る力も養われます。

(引用元:ニッポンの社長|NPO法人 JOY Kids’ Theater 代表 夏海 清加

舞台は一度きり、やり直しはききません。その猛烈なプレッシャーの中で、お友だちやスタッフと協力し合い、全員で一丸となり、同じゴールに向かって突き進みます。舞台を経験した子どもたちは、「自分は替えのきかない存在である」と認識し、強い精神力と自信を得ることができるのです。

これは舞台だけの話ではありません。幼稚園や小学校などの集団生活をする上でも、自分を認めることができるようになります。演劇教育は、コミュニケーション能力だけでなく、表現力、集中力、協調性など、「人間力」を磨くことができる、素晴らしい教育だと言えるでしょう

(参考)
文部科学省|コミュニケーション教育推進会議
文部科学省|子どもたちのコミュニケーション能力を育むために
ニッポンの社長|NPO法人 JOY Kids’ Theater 代表 夏海 清加
財団法人 神奈川県高等学校教育会館|学校教育に演劇教育を
eXpo link|ドラマメトリクス® 研修のご案内 – 日経BP社
こども演劇プロジェクトN.G.A.|海外で実践される「演劇教育」の効果
小野知春ブログ 夢へのまわりみち