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じわじわと、そして確実に人気が高まりつつある「将棋」。全国各地の将棋教室では、問い合わせが増えているといいます。
ミニ将棋「どうぶつしょうぎ」の開発者であり、『ねこまど将棋教室』代表でもある、北尾まどか女流二段のインタビュー前編では、子どもたちへの指導方法や、「どうぶつしょうぎ」について語っていただきました。
【後編】では、将棋がもたらすメリットをお聞きしたいと思います。
5回程度のレッスンで本将棋が指せるようになる!
——次にこども将棋教室について教えてください。「キッズはじめての将棋レッスン」は5歳くらいからとお伺いしたのですが、まったく将棋を知らない子でも大丈夫ですか?
北尾先生:
藤井聡太六段の大活躍で、最近すごく将棋ブームですよね。やったことがないけど、将棋をやってみたいというお子さんや、やらせてみたいと思う親御さんがたくさんいらっしゃいます。
レッスンはお子さんひとりでもOKとしているのですが、ぜひお母さんも一緒にレッスンを受けてほしいんです。お母さんがルールを知っていると、お子さんが「今日はこういうことをやったよ」という報告ができたり、習ったことを実際にやってみたりできますよね。あとは、詰将棋の問題を出したときに、お母さんが問題と同じように駒を盤に並べてあげられますし。
——「キッズはじめての将棋レッスン」のレッスン内容を教えていただけますか?
北尾先生:
まず(入門編である)「どうぶつしょうぎ」を覚えてから、「おおきな森のどうぶつしょうぎ」という動物柄の本将棋をします。あとは、先ほどお話しした、私が子どものころにしていた駒遊びです。「まわり将棋」や「山崩し」などで駒に馴染んでもらいます。
小さい子ですと漢字が読めません。でも、駒遊びをしながら「これは王将だよ」とか「これは飛車だよ」と教えてあげると、漢字が読めなくても図形として認識するので、そのうちにこの駒は「〇〇の駒」っていうのがわかるようになってくるんです。
そしてだいたい駒がわかるようになってきたら、実際に対戦に入るのですが、その対局のときも(講師が)駒を減らす戦い方にしたりとか、アドバイスをしながら少しずつルールを覚えてもらうような、スモールステップでステップアップできるレッスン内容を考えています。
まったくルールを知らない子でも、(個人差はありますが)レッスンを始めて5回くらいで本将棋がしっかり指せるようになりますよ。
「先を読む力」を身につける
——「キッズはじめての将棋レッスン」を終えたら、次は「こども教室」でしょうか? 先日見学させていただいた「こども教室」の生徒さんたち、将棋が楽しくてしかたがない! という印象でした。そして次の手を考えるのが、思った以上に速かったのでびっくりしました。
北尾先生:
そうですね、もうみんな将棋に慣れて、どんどんやりますね。子どものうちは、まだあまり倫理的思考力が発達していないので、経験を積む方が覚えられるんですよ。「しっかり考えなさい」と指導する教室もあるのですが、小さい子の場合は、その考える材料がないですから。
だから実際にやってみて、失敗したら「あのとき失敗したな」ということだけ覚えていてくれればいいので、どんどんやってもらうようにしています。講師の方も基本的にずっとしべりっぱなしで声をかけ続けている感じです。レッスンは練習なので。
そうしないと、子どもたちが「何をかんがえてこの手にしたのか」というのが、講師側に伝わらないんですよね。
また、こちらも答えを明かしてしまうのではなく、「こういう風になっちゃうから、ここに行きたいんだよなぁ」とか「こうされたら先生困るな~」とか、先のことを話すようにしています。そうすると、子どもたちが先のことを考えられるようになるんです。未来におけることですね。
——それが先を読む力につながっていくということですか?
北尾先生:
はい、そうです。悪い手を指したときにやり直しをさせるような教え方はよくないと思っています。それって自分の指した手の否定になってしまいますよね。それに将棋には「待った」はありません。
ここは、教え方としてはけっこう急所だと思うんです。ルールを間違えたらダメですが、技術的によくない手を指してしまうのは、習いはじめたばかりのときは当然のこと。それを細かくやり直しさせていたら、その子の考えたことを否定することになる。認められてないと感じて、そしてだんだん将棋がいやになってしまいます。
だから、(こども将棋教室では)先に「ここでどんな手を考えているの?」って聞いて、「こっちとこっちを考えてる」と言ったら、「これはこういういいことがあって、こっちはこういう悪いことがあるよ」とアドバイスをして、子どもたちに選んでもらうようにしています。
将棋って、やっぱり負けちゃうと悔しいんですよね。なので、練習のときは子どもたちに「負け」ということを体験させず、アドバイスをしながら「成功」まで持っていくようにしています。
——「こども教室」では、先生方が「その手はいいね」などと具体的に褒めていたのがすごく印象的でした。そして、たまに先生が「困ったな」と言うと生徒さんたちが、嬉しそうな顔をしていました。
北尾先生:
そうそう、「こうされると先生困るな~」とかですよね?
——そうです、そうです。それで、先生が「負けました」と言うと、嬉しいけど笑ってはいけない、でも嬉しいぞ、みたいな顔をしていましたよね。
北尾先生:
ニヤリってしますよね(笑)。そうなんです、将棋は勝ってもガッツポーズとかしないゲームなので、日本の武道的な感覚ですよね。相手をおもんばかるという文化がありますから、相手が「参りました」と言っても、そこで「よっしゃー!」となる子はあまりいないですね。
それは、自分が負けたときの悔しさを知っているからだと思うんです。自分が負けたときに言われたらいやですし。そういう感覚は、将棋をやっていく上で自然と身についていくと思います。
うちでは、小さい子の場合は「負けました」をあんまり強制していないんです。だって負けを認めた時点で、相当悔しいので、「負けました」を言いなさいとまでは言いません。対局してもらったことに対する「ありがとうございました」は必ず言うように教えます。
小さい子だと、それでも悔しくて泣いちゃう子もいるんですけど、それはそれだけ頑張ったということなので、そこはしっかり認めてあげて、「またやろうね」と話します。
でも何回もやっているうちに、子どもも負け慣れてくるんです。もちろん、悔しいのは悔しいんだけど、負けたことによってわかることもあるので、「悔しかったから自分も上手にできるように頑張る」という風になるんですよね。
だって2人で対戦するから、どっちか負けますよね(笑)。
——先日、レッスンの最後に生徒さんにお話を聞かせてもらいました。「将棋の何が楽しい?」という質問には、「本将棋!」「本将棋で勝つこと」と答えてくれました。対局して負けることもあるけれども、勝つ喜びのほうが強いのでしょうか。
北尾先生:
将棋って、勝ったら全部自分の手柄なんですよね。自分の力で対戦しているわけですから、自分がうまくやったから勝つんです。
でも同じように、負けてしまったとしても、誰かのせいで負けたわけじゃない。悔しいけれど、全部自分が悪いから納得がいく。
全部の勝敗の理由が全部自分にあるっていう……。潔くて、すごくすっきりしていると思いませんか? だから、勝っても負けても楽しいって思えるんじゃないかな。
ロジカルシンキングや選択スキルが鍛えられる、将棋はいいことだらけ!
——勝っても負けても楽しいというのは素晴らしいことですね。では、その将棋をとおして子どもたちが学ぶことはどんなことなのでしょうか。
北尾先生:
まず、「何かの目標に向かって、筋道を立てて考える」ということでしょうか。将棋は、相手の王様をつかまえることと、自分の王様がつかならないようにするっていう、ふたつの目的があるんですけれども、これってかなり複雑なんですよね。
だから今までの自分の経験を考えたり、相手がどう出てくるか様子を見たりしながら、こうすれば勝てるだろうという仮説を立てて、そこに向かって攻めていきます。それには色々な相手とたくさん対戦をして、ひとつずつ学んでいくことが大切なんです。経験を積むことで、先読みの力(ロジカルシンキング)がつくと思います。
それから、相手のことをしっかり考えられるようになります。これってけっこう日常でも大きなことですよね? 子どもは基本的に自分のことを先に考えてしまうのですが、将棋は相手ときっちり向かい合うので、「相手はこうやってくるのか!」ということを、直接知ることができるんですよね。
上海の小学校で将棋を教えていたときに、校長先生に「将棋をやる子はどう変わりましたか?」と聞いてみました。そしたら、「相手を認められるようになった」と言っていました。自分より強いとか弱いとか、それをちゃんと認める。そしてそこから努力をする。誰かに言われたわけではなくて、勝ちたいから努力をするんですよね。
もうひとつ校長先生は「勝負の心が強くなった」とも言っていましたね。将棋は一手一手を選んで積み重ねていって、その結果によって勝った負けたが出るわけですよ。それで負けると悔しい。だから次は勝ちたいと思って、色々と覚えるんです。
将棋では感想戦というふり返りをするのですが、ちゃんと理由を持って手を選んでいかないと、自分の手が思い出せないんです。これって普段の生活でも同じことだと思うんです。私自身、「今は何が必要なのか」「何を優先するのか」ということを考えることが癖になっています。一手一手をすごく大事にしていますね。
それに今は、効率のよさが重視されていますよね。もちろん知識も必要ですけど、調べれば出てくる知識より、うまい組み合わせだったり、組み合わせることでどんな風に効率よく物事が進められるかということが大事じゃないですか。そういう選択スキルは、これから必要になってくると思いますよ。
将棋の場合は一手しか指せません。その一手しか選べないということを日常的にやっていると、物事に対してシビアになるんですね。たとえば、ふたつのうちのどちらかを選ぶとき、きちんと理由づけをして判断することができるようになりますよ。これは、将棋で得られた力だな、と私は思っています。
——将棋はいいことだらけですね!
北尾先生:
いいことだらけですよ。それに将棋は日本の文化なので、礼儀作法も身につきます。「どうぶつしょうぎ」でも、「よろしくお願いします」と「ありがとうございました」までをルールにしています。
——最後にこれから将棋を学んでいく子どもたちにメッセージをお願いします。
北尾先生:
将棋は勉強ではないので、まず楽しんでもらうことが一番だと思います。将棋って本当に楽しいものですし、子どもだって強ければ大人に勝てるんです。将棋盤をはさんで向かい合えば、だれとでも対等ですよ。将棋を好きになって、夢中になっていると、どんどん強くなるので、まずは好きになってもらいたいと思います。
私は、自分の教室に来てくれる子に対して、単純に強くなることだけを望んでいるわけではないんですね。もし将棋から離れることがあったとしても、大人になって「もう一回やりたいな」と思ったときには、誰かと対戦してほしいです。それこそ、自分がおじいちゃんになったときに、孫に教えてみるとか(笑)。
でも将棋って、そういう風につながっていけるものなんです。だから、楽しいなって思ったら、ぜひ周りのお友だちにも教えてほしいですし、どんどん伝えてほしいなって思っています。
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【プロフィール】
北尾まとか(きたお・まどか)
女流棋士。幼少のころに父からルールを教わり、高校生のときに本格的に将棋の勉強を始める。そして約1年でアマ二段に。女流棋士を目指し17歳で育成会入会。2000年20歳で女流プロ2級。2009年12月、女流名人位戦A級昇格。2009年10月〜2010年3月までNHK教育テレビジョンにて『先崎学のすぐわかる現代将棋』のアシスタントを務める。2010年、将棋普及のための会社「株式会社ねこまど」を設立し、海外を含む各所で指導を行う。初心者向け「どうぶつしょうぎ」のゲームルール考案者。
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集中力に加え、論理的思考力や選択スキルが鍛えられる将棋。そして、勝っても負けても自分の責任だなんて、なんて潔いのでしょう! 北尾先生も「将棋はいいことだけけだから、何から話していいのか……」と悩んでしまうほど、メリットだらけの将棋。そのメリットにあやかろうと、さっそく編集部でも「どうぶつしょうぎ」を購入してみました。驚くほどわかりやすく、そうかと思えばなかなか奥深い、そして負けると本気で悔しい……。
今回北尾先生のお話を聞いてわかったことは、将棋はそんなにハードルが高くないぞ、ということ。この機会に、ぜひ将棋に挑戦してみてはいかがでしょう。
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■子どもが夢中になる「どうぶつしょうぎ」は将棋の入り口として最適です!
『幼稚園児から楽しく遊べる“3×4マス”の「どうぶつしょうぎ」を考案。女流棋士・北尾まどか先生インタビュー【前編】』