あたまを使う/英語 2018.6.13

【田浦教授インタビュー 第11回】英語力は2つのスキルに分けられる? 過去、現在、そして未来の英語教育

編集部
【田浦教授インタビュー 第11回】英語力は2つのスキルに分けられる? 過去、現在、そして未来の英語教育

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第11回目をお届けします。

第10回では、小・中・高における英語教育のあるべき姿について、お話しいただきました。今回は、日本におけるこれまでの英語教育、そしてこれからの改革について、2つのスキルの観点から探ります。

「英語ができる」というのは、2つに分けられる

——今までの英語教育、そして2020年の英語教育改革について、どうお考えですか?——

田浦先生:
「英語ができる」というのは、おそらく2つに分けることができると思います。1つ目はグローバルスキル、そして2つ目はサブスキルです。

グローバルスキルは、英語を理解した上で自分で文を組み立てて、単語をあてはめて話す力のこと。政治家や一般の親御さんが、子どもたちに期待している英語力はこれですね。

しかし、このレベルに至るためには、サブスキルの習得が必要です。サブスキルとは例えば、単語力・文法力・リスニング力・スピーキング力。あるいは、これが特に大変なんだけれども、それら全てをコーディネートする力。これらのサブスキルがなければ、グローバルスキルは身につくはずがありません。

この間オリンピックで、スピードスケート選手の小平さんがメダルを取りましたよね。テレビで彼女のトレーニングが紹介されていましたが、それを見て初めて「スケート選手はこういうトレーニングの仕方で、ここの筋肉をつけているんだ」とわかりますね。

選手はトレーニングを通して、様々なサブスキルをつけているわけですよね。例えば、瞬発力・ペース配分・メンタルの強化など、いろいろあります。そして、各トレーニングで培ったそれらのサブスキルを統合して、レースの中ではグローバルスキルを使って勝負に挑むわけです。

英語を話すのも、実は同じです。英語が上手な人はすでに自動化されているから忘れているけれども、最初は四苦八苦して、各サブスキルの習得に励んだものです。

「リスニング、なんだか今日はよく聞き取れる」と思っていても、一つ単語がわからないだけで、最初の頃は頭が真っ白になりましたね。でも、だんだん英語がうまくなると「ああ、必ずしも全部聞き取れなくてもいいんだ」と気づくものですね。

グローバルスキルとサブスキルを、うまく結びつけてあげるのが大事だと思います。

言語喪失では、サブスキル→グローバルスキルの順に失われる

僕は以前、高校で帰国生の指導にあたっていました。前にもお話ししましたけれど、帰国生は海外から日本に戻ってから、日本語どっぷりの学校・家庭・社会生活に浸かってしまうと、個人差があるにしても、英語の流暢性は確実に低下します。

グローバルスキルは、サブスキルを束ねているものです。サブスキルとして最初、例えば単語を忘れていきます。”Can I have a second?” を毎日「おかわり!」と日本語で言うようになると、ついこないだまで使っていた second という単語を忘れていってしまいます。

サブスキルから、少しずつほころびが出てくるんですね。そして、だんだん全てのサブスキルが低下していきます。するとあるとき、あるところで、グローバルスキルがガタンと落ちて、発話の流暢さ(fluency)が急激に下がります。そして、言語喪失が起こります。

昔の英語教育では、主にサブスキルを高めていた

外国語の習得は、この逆ですよね。それぞれのサブスキルを高めながら、グローバルスキルをゼロから作っていく必要がありますから。

僕が中学・高校にいたときは、文法・単語・発音にしても、各サブスキルだけをバラバラに学んでいました。例えば発音なら「Cat と Cut、発音は同じですか、違いますか?」というような出題がありました。

だから、グローバルスキルが全然養成されていなかったんですね。僕は英語が得意だと自分で思い込んで、初めて留学したときにズタズタになったのは、これが原因です。

一方で昔は、グローバルスキルとして束ねてはいないものの、各サブスキルは高いところまで身につける勉強をしていました。例えば英文法は、重箱の隅をつつかれても、正答を出せるというところまでやっていました。単語も、何千語レベルまで覚えていたものです。

そのためいざ海外に行くと、最初はボロボロですが、日本で培ったサブスキルを束ねる経験を積むことで、だんだんとグローバルスキルがついていきます。だから、30~40年前の英語教育を受けてしっかりと消化していた日本人が海外に行くと、半年もすれば、だいたいは英語ができるようになっていたんです。

今の英語教育では、サブスキルもグローバルスキルも中途半端

でも今は有名な大学を出ている人でも、半年間留学して、同じように英語ができるようになるのかなと僕は疑問に思います。だって今は、オーラルスキルも授業で扱う必要があるので、時間の関係上、昔のようにサブスキルを十分高めることができないでしょう。

サブスキルがきちんと定着していないから、グローバルスキルもなかなか伸びないんです。もちろん、ある程度までは流暢さを手に入れることはできますけれど、それだけでは足りないこともあります。

例えば、クラスの中に40人の生徒がいるとしましょう。この中で1人か2人、もしかしたら将来、外交官や研究者のような職業に就くかもしれません。または、英語で経理の仕事をすることもあるでしょう。

他の生徒は、海外旅行に行ったときに、少し会話ができるだけでいいのかもしれません。その子たちは、ある程度の文法力があり、ある程度のグローバルスキルを身につけることができれば、事足りるでしょう。公教育は今、その方向に向かっていますね。

でもそっちに突っ走ると、将来外交官や研究者になる人の英語力としては、甚だ足りなくなってしまいます。英語で専門的な仕事をするためには、緻密な英語が必要になるんです。

スキルと知識、流暢さと正確さのバランス

世間では「英語で日常会話ができたらいい」と言われていますね。でも僕は「ちょっと待てよ」と思います。だって日常会話においても、経済の話も政治の話もするから、そんな簡単に線引きできないですよね。

例えば、英国がEUから脱退することを、Brexitと言いますが、この話も日常会話で出てきますよね。日本語でも英語でもそうですが、背景を知らないと話せないし、単語を知らないと話せません。だから、日常会話とそうではないことの線引きが難しいですよね。

そして流暢さと正確さのバランスをうまく取るのも、なかなか大変だと思います。受験であれだけ細かな知識を問いながら、実用的な英語力の育成を目指すのは、両立が難しいでしょう。

だから思い切って、異文化理解や、海外旅行で使える英会話を別の科目にして、従来のサブスキル高度養成英語を残しておくのは一つの手ですよね。

だって、体育で受験ってないでしょう。体育大学以外はね。でも日本の受験では、大学や学部に限らず、全員が英語の試験を受けないといけませんね。もし本当に、日本人のレベルに合う、スキルとしての「使う英語」を身につけて欲しいんだったら、受験とは別枠でやった方がいいと思います。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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グローバルスキルとサブスキル。一口に「英語力」と言っても、様々な要素から成り立つものなのですね。日本の将来を担う子どもたちには、専門性の高い高度な知識を身につけつつ、ツールとしても英語を使いこなせるように、サポートしていきたいものです。次回は最終回。今までのお話をふまえ、日本の英語教育をよりよいものにするにはどうすればいいか、お話をうかがいます。