教育を考える 2018.5.27

子どもの「異世界」との出会い方・関わり方 鈴木謙介先生(関西学院大学 社会学部准教授)~「20XX年の幸福論」part3~

子どもの「異世界」との出会い方・関わり方 鈴木謙介先生(関西学院大学 社会学部准教授)~「20XX年の幸福論」part3~

自分とは異なる価値観を持つ多様な人々と出会ったとき、人は戸惑いを感じてしまうものです。大人ですら腰が引けてしまうこともあるほどですから、子どもならなおさらのこと。でもそのために、せっかくの豊かな出会いの機会を失ってしまうのはとてももったいないことではないでしょうか。そこで連載3回目となる今回は、そもそも子どもたちが多様な人々や「異世界」に出会ったときのために、身につけておきたい姿勢や考え方について、鈴木謙介先生(関西学院大学 社会学部准教授)に話を伺いました。

※インタビュー連載1回目2回目はこちら

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介 写真/玉井美世子

失敗なしに多様性を尊重することはできない。大切なのはその失敗を受け止められる「自尊心」

グローバル化する社会を背景に、わたしたちはすでに自分とは異なる背景や価値観を持つ多くの人々と日々コミュニケーションしているように思えます。しかし、単に仲良く触れ合っているだけでは、本当の意味で多様な人と「出会った」ことにはならないのかもしれません。

「多様な人々と交流すると、子どもたちは、最初はわからないことばかりで多くの失敗をするものです。たとえば、自分のふとした発言が相手を傷つけたり、ある人たちにとっては差別になったりして、相手から激しく怒られることも起こり得るでしょう。でも、傷つかずに多様性を尊重することはできません。結局のところ、失敗を繰り返しながら、多様な人々とコミュニケーションするなかで学んでいかなければならないのです」

そんなときに必要になるのは、「失敗を克服していこうとする態度」と、まちがってしまったとしても、「次から修正するポジティブな姿勢」を持つことだと、鈴木先生は言います。

「こうした態度を涵養する基盤を、社会学では『存在論的な足場』と言います。要は、自分の立場をはっきり理解するということで、そのような足場があるからこそ多様な人々とのちがいを前提にしたコミュニケーションができるのです。ただ仲良くやっていくだけでなく、自分の立場を明確にし、疑問がある場合には『あなたはなぜそう思うの?』とはっきり伝えられなければ、異なる世界の人々と『協働』することはできません

そのためには、「自分がどういう人間であるか」という自覚をし、その自覚を余裕のある状態で受け止められるマインドが必要になります。

「そのマインドを、心理学の世界では『自尊心(self esteem)』と呼びます。よくプライドの高さと誤解されがちですが、いつも居丈高で他人の意見に妥協できないような人は、むしろ『自尊心』が低い人とされます。『自尊心』とは、自分がまちがっていたと思ったら、それを素直に認め、やり方を変えていくことができる力や態度のことを指しているのです」

子どものまちがいや失敗を「取り返しのつくもの」として認める

失敗をしたとき、子どもが自らそれを克服していこうとする態度を持つために大切になる「自尊心」は、親子関係をとおして育むこともできるようです。

「例を挙げるなら、子どものまちがいや失敗を『取り返しのつくもの』として認めてあげることがそれに当たるでしょう。一度犯したミスは一生消えないのではなく、『修正可能』だということです。そして、『修正する力こそ、まちがわないことよりも大事』だと思えるかどうかが、とても重要なことになります」

いま、小学校や中学校受験に臨む子どもたちが増えています。一方で、これは子どもたちが成育の早い段階から大きなミスや失敗を経験する可能性にさらされているとも言え、そうしたことを心配する親もいることでしょう。

「押さえておきたいのは、ここでも受験の失敗を『取り返しのつくもの』として子どもに受け止めさせることではないでしょうか。さもないと、期待に応えられなかったダメージによって、今後のチャレンジ精神を削いでしまうことも十分に考えられますよね。だからこそ、受験に失敗したらどのように『取り返しのつく失敗』として受け止めるかを、十分にシミュレーションしておくことが大切です」

「挑戦する前から失敗することを考えるなんて……」と思うかもしれませんが、受験するのは親ではなく子どもです。親の期待を背負って受験し、それが叶わずに帰ってきたときにどう受け止めてあげるのか――そのことを考えておくことがとても大切なのです。

「子どももショックを受けているので、一緒にどうリカバーしていくのかまで考えておく必要があると思います。受験を失敗しても親子関係はなくならないし、その地点から新しい関係性を築いていかなければなりません。なんの準備もしていなければ、親がショックを受けた結果、『なぜうまくいかなかったのだろう』と、自分だけでなく子どもを責めることにもなりかねません」

インターネット上の「異世界」との出会いにも、コミュニケーションの問題が関わっている

子どもの「自尊心」を育むような親子の関わり方や、教育機関における関わり方、そして子ども同士の関わらせ方は、今後ますます重要になっていきます。一方で、もうひとつ別の「異世界」との出会い方を挙げれば、「インターネット上のコミュニケーション」にも注意すべき点があるように思えます。とくに、子どものスマホ依存などが問題になるなか、不安を感じてしまう親の気持ちもあるはずです。

「スマホ依存については、ネット上のコミュニケーションと、射幸心をあおる仕組みが強いソーシャルゲームとで話を分けたほうがいいと思います。前者について言えば、たとえばLINEなどにハマる子たちは一見リアルな人間関係が築けないと思われがちですが、社会学の研究では明確に否定されています。むしろ、たくさんいる友だちに対して、『仲間外れになるかもしれない』と、不安を抱きやすい人たちなのです。わたしはそれを『孤立不安』と呼んでいますが、孤独ではないのに孤立する不安が強い子たちがスマホを手放せない傾向があることがわかっています」

つまり、インターネット空間という異世界との出会い方にも、じつは人間同士のコミュニケーションの問題が密接に関わっているのです。

「もちろん、後者のソーシャルゲームにハマる子どもについても、ゲームの設計の問題だけでなく、その子どもの近くには当然ながら親がいるはず。つまり、結局のところここにも親子の関わり方の問題が横たわっています。そうした部分を見ずに、『スマホゲームがダメなんだ』となれば、スマホをずっといじっていられる家庭環境や、親子関係の問題が急に見えなくなって、いつまでも解決には向かわないと思うのです」

【プロフィール】
鈴木謙介(すずき・けんすけ)
1976年生まれ、福岡県出身。関西学院大学准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専攻は理論社会学。ネット、ケータイなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。現代社会の様々な問題についてマスコミでの発信も多い。サブカルチャー方面への関心も高く、2006年より、TBSラジオで『文化系トークラジオ Life』のメインパーソナリティをつとめている。著書に、『カーニヴァル化する社会』(講談社)、『かかわりの知能指数』(ディスカヴァー)、『ウェブ社会のゆくえ』(NHK出版)他多数。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。