あたまを使う/将棋・囲碁 2018.5.1

将棋を学ぶことで得られるメリット プロ棋士・西尾明さん(後編)~将棋は友だちを増やすコミュニケーションツール~

将棋を学ぶことで得られるメリット プロ棋士・西尾明さん(後編)~将棋は友だちを増やすコミュニケーションツール~

将棋を3歳で覚え、小学5年生でプロ棋士の養成機関である奨励会に入会し、13年後にプロ棋士という夢をつかんだ西尾明六段。西尾さんは、将棋を通していろいろなことを学び、人生にとって必要な多くのことを身につけたと言います。西尾さんが考える、将棋のもっとも素晴らしいところはどこにあるのでしょうか。そして、これから将棋を学びたいと考える子どもたちはどこからはじめるべきなのでしょうか

取材・文/洗川俊一

将棋には、対局後に相手と話す機会が必ずある

――将棋を学びたいという子どもたちにとって、なにがいちばんのメリットだと考えていますか?

西尾さん:
将棋を学ぶと、「考える力」「集中力」「礼儀」といったものが身につきます。もちろん一般的なものすべてに汎用できるものではないかもしれませんが、少なくとも将棋においてはそういう力がつくと思います。ただ、わたしが考える将棋を学ぶことの最大のメリットは、将棋を通して友だちがつくれるということ。わたしは自分の経験から、将棋は優秀なコミュニケーションツールだと思っています。事実、わたしの同世代の仲間は、小学生のころに将棋を通して知り合った人たちですからね。将棋教室へ行くと、必ず同世代の子どもたちがいます。強くなる子もいれば、そうならない子もいる。ただ、相手がどんな子であっても、将棋を指せばコミュニケーションを取ることになります。将棋が好きな者同士ですから、それだけで友だちになるきっかけが生まれます。わたしのように、そこでの友だち関係が大人になっても続くことがあるでしょう。しばらく会っていなくても、将棋盤と駒があればいつでも簡単にコミュニケーションを再開できるんです。

――将棋の場合、対局が終わると必ず相手と話をする機会があるそうですね。

西尾さん:
「感想戦」と言って、試合が終わると必ずふたりで話しながら対局を振り返ります。これはプロ棋士の正式な試合だけでなく、将棋教室や将棋センターといったところでも必ず行われること。自分が勝っても負けても、たとえ普段の付き合いがない人でも、どんなに嫌いな相手とでも行います(笑)。そこで、指し手を振り返りながら「この局面では自分はこう思っていた」とか「この指し手はこんな狙いだった」とか、白熱した対局だったときは、議論することもあります。お互いに顔と顔を合わせて話すわけですから、当然ながら相手のことがよくわかるようになりますよね。相手によっては、将棋が介在しないとできないことです。

わたしの兄は、いまタイに住んでいますが、将棋がコミュニケーションツールになっていると言います。兄が日本の将棋を教え、相手からタイの将棋を教わる。将棋を学んでなければ、できなかったことだと思います。

――コミュニケーションツールとしても使える将棋を子どもたちが学びたいと言ったら、やはり将棋教室からはじめたほうがいいですか?

西尾さん:
将棋を学びたいなら、将棋の基本を指導できる人がいるところに通うのがいいでしょう。最近は、プロ棋士が主催している将棋教室が増えていますから、意外に身近なところにあるかもしれません。正確な数字は把握していませんが、プロ棋士の3分の1くらいが将棋教室を開いていると言います。普及指導員という将棋を教える専門の方もいるので、そういう方々が主催している将棋教室もいいかもしれない。まずは将棋のイロハを、指導者からしっかり学ぶ。それから、自分の成長を確かめるためにフリーで指せる将棋道場へ行ってみるとか、大会に参加してみるといいのではないでしょうか。

今は将棋を学びはじめるにはいい時代

――西尾さんのプロ棋士のスタートは小学生将棋名人戦の準優勝でしたが、子どもたちを対象にした将棋大会は盛んに行われているのですか?

西尾さん:
小学生将棋名人戦はわたしが参加したときより規模が大きくなり、予選が各都道府県で行われるまでになっています。その他にも、全国規模の大会や女の子を対象にした大会もあります。JTが主催する「テーブルマークこども大会」では、東京大会だけで3000人の子どもたちが集まると聞きます。わたしの子どものころと比べると、将棋を指す子どもたちが増えていることは間違いありません。

――それだけすそ野が広くなると強いプロ棋士がどんどん現れてきそうですね

西尾さん:
将棋のレベルは確実に上がっています。いまの20代前半くらいの世代は、本当に強い(苦笑)。全体的に勝率も高いですからね。広くなったすそ野から出てくるわけですから、強いはずです。将棋をはじめる子どもたちにとっては、強くなりやすい環境にもなってきました。わたしの子どものころは、将棋教室以外で学ぶとしたら専門誌か新聞の将棋欄、それからテレビの情報です。奨励会に入ってからは、将棋連盟に行ってファイルされている棋譜を1枚1枚コピーして勉強するくらいでした。そういった情報は、いまならすべてインターネットから手に入れられます。動画サイトには、対局の解説をしてくれる番組だってある。強くなるための道具がたくさんあって、そのなかから自分に合ったものを選んで強くなっていく。そんな時代になってきたと見ています。

――将棋を学びはじめるにはいい時代だということですね。

西尾さん:
はい。プロになるかどうかはともかく、将棋を学ぶことで身につけられることはたくさんあるし、なにより将棋を通して友だちが多くなると楽しくなると思いませんか? 子どもたちにもその楽しさを実感してもらいたいと思います。

***
3歳からはじめた将棋で西尾さんが身につけたことは、「考える力」「集中力」「礼儀」などでした。そして、もっとも実感しているのは、将棋のコミュニケーションツールとしての素晴らしさです。将棋を介してなら誰とでも話せるようになる。子どもたちが将棋教室に通う最大のメリットは、将来にわたって必要となる「コミュニケーションスキル」を身につけることなのかもしれませんね。

※前編はこちら→

【プロフィール】
西尾明(にしお・あきら)
1979年9月30日、神奈川県出身。1990年9月に6級で奨励会に入会、2003年4月に四段となりプロ棋士に。2011年4月に六段に昇段。横歩取り戦法や角換わり戦法など激しい戦いを好む居飛車党。日本将棋連盟の子供スクールにて講師の経験も持つ。おもな著書に、『よくわかる角換わり』(マイナビ将棋BOOKS)、『矢倉△5三銀右戦法』、『矢倉の基本』(マイナビ出版)、などがある。浅野高校卒業、東京工業大学中退。趣味はギター。

【ライタープロフィール】
洗川俊一(あらいかわ・しゅんいち)
1963年生まれ。長崎県五島市出身。株式会社リクルート~株式会社パトス~株式会社ヴィスリー~有限会社ハグラー。2012年からフリーに。現在の仕事は、主に書籍の編集・ライティング。