芸術にふれる/演劇 2018.4.28

子どもをサポートする親の「見守り力」 ミュージカル女優・笠松はるさん~我が子の才能を心の底から信じ、全力で応援する~

子どもをサポートする親の「見守り力」 ミュージカル女優・笠松はるさん~我が子の才能を心の底から信じ、全力で応援する~

子どもの将来の可能性を伸ばすために、親として正しい道を示したいものです。ですが、干渉し過ぎれば子どもは反抗したり自分で考える力が育たなかったり、逆に干渉し過ぎなければ思いがけない道に進んでしまうなど、親としてもさじ加減が難しいところでしょう。日本の演劇界トップとも言える『劇団四季』で、数多くの作品の主演やヒロインを演じてきたミュージカル女優の笠松はるさんは、どんな親の教育を経て一流のアーティストになったのでしょうか。母親との関わり方、そして母親から励まされたことを教えてもらいました

取材・文/渡邉裕美

子どもの性格を見抜き才能を信じて言葉をかける

母親がプロのソプラノ歌手という環境もあり、赤ちゃんのころから『宝塚歌劇団』の観劇に連れられていくなど、つねに音楽が身近にあった笠松さん。

「わたしの家は、週末の朝になるとテレビから『題名のない音楽会』が必ず流れる家でした。母が好きなビートルズ、他にクラッシックレコードやレーザーディスクが壁一面に収納されていたので、音楽に囲まれて育ったことは間違いありません。グランドピアノも置いてあったので、ピアノは母から習っていましたね。ですが、家族が家族に教えると、教えられているほうはイヤになるという典型で……音大卒とは思えないほどピアノは全然ダメですね(苦笑)」

厳しさの一方で、笠松さんの才能を早いうちから見抜き、娘の性格もおもんばかり、こんな言葉をかけていました。それは、親の贔屓目を越えた本気の褒め言葉でした。

「歌うことが好きで、家族だけでなくいろいろなところでずっと上手だと言われていたので、わたし自身もなんとなく『ちょっと上手いんだろうな』とはわかっていました。それでも、学校のなかで上手いレベルだろうくらいにしか思っていなかった。でも、母は『全然ちがうからね。はるちゃんは特別に歌が上手いんだよ』と言い続けてくれました。それも、『◯◯さんがはるちゃんの歌を聴いたときに、どこそこが全然ちがうと言っていたよ』と具体的な感じに。そうすると、わたしも『もしかしたら、本当に歌が上手いのかもしれない』と思えて、歌に自信を持てるようになっていきました。言われるたびに感じていたのは、母はわたし以上にわたしの才能を信じて、わたし以上にわたしのパフォーマンスを愛して、わたし以上にわたしの夢を応援してくれていること。舞台を観に来れば厳しいことも言われます。でもそれは、わたしが聞きたかった感想であり、本当のことを言ってくれるんです。しかも、褒め言葉と厳しい言葉のバランスが絶妙。自信がないわたしが、母の言葉のおかげで自分で『歌の才能があるのかな?』と思えるようになったんです

それというのも、笠松さんは数多くの『劇団四季』の舞台にヒロインとして立ち、確固たる人気を築いたいまも「自信がない」と語る性格なため。

「わたし、自分に自信がなくてネガティブ思考なんです。いまも舞台の初日前やライブ前はいつも怯えていて、『これで大丈夫なのか?』と不安でたまらないんですね。お金をもらって、たくさんの人に観ていただいていいのかと悩むことばかり……。だから、こんなに自信がないわたしのことを褒めてくれる人のことはすごく好きで、褒めてくれるだけでその人の言うことを素直に聞こうと思える。浅利慶太さん(劇団四季創設者のひとりで演出家)もとても厳しくて、『誰もおまえのことなんて観に来ない。本の中身以上の勝手なことをするな』とか『やれると思ってるんだろう? 言葉に実感がまったくない』とか、たくさん叱られた。でも正しいことを仰っていたし、いいときはたまに褒めてくれるんですよ。この“たまに褒め”があると、すごくうれしくて『もっと頑張ろう!』と思っちゃえるから不思議(笑)。ですが、わたしの人生でもっともわたしに自信をつけてくれたのは、母でしたね」

母親だからこそ子どもの夢を本気で応援できる

笠松さんの夢を現実にするため、母子一丸となって歩んだ時期がありました。高校1年生の秋から歌を習っていた先生につくために、その先生が教鞭をとる大学へ進学する予定で練習を重ねていたなか、笠松さんは高校3年生の秋に突然の進路変更。それも、芸術系の最難関大学である、東京藝術大学の声楽科に進学することを決心したことからでした。

「声楽科の入試には、大学ごとに異なる課題曲を歌う試験があります。ピアノの課題曲も範囲がちがう。一浪は覚悟しての受験でしたが、やはり二次試験で落ちてしまいました。1年間の浪人生活を送ることになったのですが、音大受験の大変さもわかっていた母がつきっきりで家庭教師のように教えてくれたんですね。わたし自身、本当は怠惰で10時間は寝ないと体がつらいタイプなのですが、浪人生活では朝6時から夜の11時まで自分でつくった時間割どおりに毎日をすごしていました」

そのころの笠松さんは、ただミュージカル女優になりたいだけでなく、「『劇団四季』の舞台に立つ」という明確な夢を描いていました。ターニングポイントとなった『劇団四季』の舞台『ソング・アンド・ダンス』のパンフレットに掲載された劇団員のほとんどが、東京藝術大学声楽科出身だったとわかったことで、自身の夢を叶えるには東京藝術大学に入学しなければならないと思っていた笠松さんの入試までの日々は、「必死」というひと言につきました

「ピアノの練習、英語の勉強、歌を習いに行く、ごはんや休憩は何時に何分間とるなど、本当に細かい時間割でしたが、母がずっとつきっきりでソルフェージュやピアノの勉強を見てくれました。『10分休みなのに、15分休んでるよ』と言ってくれたり、『はるちゃんは、「劇団四季」に入りたいんだよね? ならもっと頑張ろう!』と応援の言葉をかけてくれたり。でも、真面目にやり過ぎて限界がきてしまい、歌えなくなったこともあったんです。そのとき、母は『はるちゃん、遊びに行こう。遊園地に行こう!』と家から連れ出してくれた。ふたりで目一杯遊んで、『明日から頑張ろう!』って、追い詰められていたわたしに息抜きをさせてくれたんです」

思い出を語りはじめる前に、「泣いちゃうかもしれないんですけど……」と前置きをした笠松さん。大人になった子どもがこう思えるのは、応援し続けてもらったことを実感しているからでしょう。ともすれば、口やかましくなりがちな母親という存在。ほどよい距離で子どもを見守るために必要なのは、子どもの才能を母親が心の底から信じることなのかもしれません。


TipTap主催公演『Suicide Party 』2018年3月公演のワンシーン

【プロフィール】
笠松はる(かさまつ・はる)
東京藝術大学声楽科卒業。同大学院修了。第16回日本クラシック音楽コンクール声楽部門大学院の部最高位受賞。2007年より8年間、劇団四季の主演女優として『ウェストサイド物語』(マリア役)、『オペラ座の怪人』(クリスティーヌ役)、『サウンド・オブ・ミュージック』(マリア役)、『ジーザス・クライスト・スーパースター』(マグダラのマリア役)、『アスペクツ・オブ・ラブ』(ジュリエッタ役)、『赤毛のアン』(アン・シャーリー役)、『ミュージカル李香蘭』(李香蘭役)、『ヴェニスの商人』(ネリサ役)など、数多くの作品で活躍。退団後は女優・歌手として、数多くの舞台やコンサートで活躍している。退団後の主な出演作に、『一人オペラ【声】』『ロマンシングサガTHE STAGE』『花火の陰』『父と暮せば』『ボクが死んだ日はハレ』『ねこはしる』『Suicide Party 』などがある。2018年6月~7月は東宝『シークレット・ガーデン』(シアタークリエ)にローズ役で出演予定。また8/25(土)には、地元大阪(梅田ボニーラ)にてプレミアムソロライブを開催する。詳しくは以下を参照。
公式ブログ →https://ameblo.jp/kasamatsu-haru/
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