芸術にふれる/アート 2018.3.21

幼稚園児が美術館で名画を模写! “芸術の国”フランスのアート教育

長野真弓
幼稚園児が美術館で名画を模写! “芸術の国”フランスのアート教育

「生きる力」をかかげて、豊かな人間性を育むために義務教育プログラムを実践している日本。学力向上とともに情操教育にも注力し始めています。その中でも、感性や発想力を磨くのに欠かせない分野が美術(アート)です。

感受性を育むために、できれば純粋な早い時期からたくさんのアートに触れさせてあげたいですよね。そこで、ぜひ参考にしたい“芸術の国”フランスのアート教育をご紹介いたします。

圧倒的に少ない日本のアート教育時間

日本では、1998年と2008年の2度の文部科学省指導要領改訂で美術に対する教育のあり方が変化しました。「表現」(アート作成)に加えて「鑑賞」という観点を取り入れ、双方からアートにアプローチすることで“自分の目で見て、感じて、考える”という能動的な力を身につけることを目指すようになったのです。

しかし、限られた学校教育の中で美術の時間を増やすことは難しく、小学校の図画工作の年間授業時間を見てみても、この60年余りで約35%減少しています。“芸術の国”フランスと比べてみると、小学校2年生で年間11時間、高学年では年間28時間も日本の授業時間が少ないことになります。日本よりも多くの時間をアートに割いているフランスですが、時間以外にも学び方に大きな違いがあるようです。フランスの子ども達はどんな風アートに触れているのでしょうか?

“芸術の都”のフレキシブルなアート教育

1. 美術館で本物を感じる、幼稚園・小学校のアートの授業
まず大きな違いはフランスのアートの授業には教科書がないこと。基本的に授業内容は先生に任されていて、子ども達に自由に制作させてそれに先生がコメントするという形式だそうです。

また、幼稚園の時から美術館に出向き、絵を模写するクラスも珍しくありません。そこはさすがフランス、美術館はたくさんありますし、しかも名画も多く所蔵されています。贅沢な環境ですよね。筆者は小さな子どもが模写したミロやマティスの絵を見たことがあります。細かいところまで正確に写してあるというのではありませんが、本質を捉えていて、驚くほどよく描いてありました。

子供の模写は大人のそれとは違い、「見て感じたもの、(幼児にはまだ)言葉にはできないものの表現」だそうそして模写することで作品をよく観察することにもなります。作者の想いが込められたアートが子ども達の柔らかいあたまと豊かな心に染み込んでいく……そんな貴重な体験となるのでしょう。

2. アーティストを招いた4~5日間の集中講義は自治体主導
2008年、アルザス地方ヴァットヴィレー市では週に3時間ある授業時間を約1ヶ月分まとめ、外部からアーティストを招いた集中講義を4〜5日間行いました。そこには「限られた時間と教材だけで創造教育はままならない。生きたアートを生きた言葉で体験する機会を持ってもらいたい」という教育者側の熱い想いがありました。

この集中講義は市が主導した試みで、期間内に子ども達が制作した作品は他のアーティストたちのアートとともに街の各所(屋外)に展示され、たくさんの見学者で小さな街は賑わったそうです。

3. 芸術に対する国のさまざまな取り組み
フランスの文化省と教育省は2008年に、文化・芸術教育内容の制度化について声明を出しました。その中で、小学校・中学校・高校において、「芸術の歴史」により多くの時間をあて充実させることが明記されました。「表現」「鑑賞」とも違う「芸術の知識」に力を入れるとは、さすがアートに対する懐が深いフランスです。

それとともに、地域と連携して演劇や美術分野の時間は、課外授業の環境を整えていくことを目指すとしています。また、アーティストとの交流や地域の美術館に対する理解を深めるために、今後全ての学校の教育課程に文化施設との共同プログラムを組み込んでいくそうです。このようなさまざまな国の取り組みはフランス文化通信省のサイトでも見ることができます。

国は子ども達のアートに対する見識を深めるプログラム作りを進め、現場では子ども達の自由な目を育て、情緒を養う努力をする、フランスのアート教育にそんな印象を受けました。

フランスで創刊『DADA』子ども向け美術雑誌の草分け

DADA』は、1991年にフランスで創刊された子ども向け美術雑誌です。ヨーロッパを中心に広く定期購読販売されており、フランスの中学校の約6割が教科書のようにこの雑誌を利用しているとのこと。美術教育への長年の貢献を讃えられ、2009年には全国学術調査官協会(ANCP)からLabel ANCP(教育界に影響を与えた出版物を讃える賞)を受賞しており、現在でも年に9冊発行されています。

まず目をひくのがカラフルでポップな表紙。とても魅力的で思わず手に取りたくなります。そしてその内容は、毎号違うテーマを美術の専門家がわかりやすく解説した美術史編と、芸術家が提案する実際に作れる図画工作編から成っています。毎号違うイラストレーターの楽しい絵も掲載され人気です。そのほか用語集や開催中の展覧会などの最新情報も。最近は現代アートを取り上げることが多く、また「世界の美術館ツアー」のコーナーではゲームを交えながら楽しくルーブルやウフィッツィなどの有名どころが紹介されています。紙質にもこだわり、永久保存版にしたくなる素敵な雑誌、こんな教材でアートを勉強できたらきっと楽しいでしょうね。

日本語版は厳選された8人の画家(ピカソ、ルソー、モネ、ルノワール、ダ・ヴィンチ、ターナー、セザンヌ、マティス)が取り上げられ、販売(ソフトカバー版または大型版)されています。

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幼少期に視覚経験として絵画に慣れ親しむことはとても大事だと、東京都美術館アート・コミュニケーション担当の稲庭彩和子氏はおっしゃっています。アニメなど子ども向けのものしか見ていないと、いざアートを見た時に「自分のものではない」と拒否してしまうかもしれないからだそう。フランスのように有名な名画が周りにあふれているわけではありませんが、看板や公園の銅像だってアートの一種。自由な発想でそして大人も一緒にアートに親しみ楽しみたいものですね。

(参考)
TOKYO ART BEAT|子供とアートをつなぐ場所【前編】東京国立近代美術館エディケーター・一條彰子さんインタビュー
France News Digest|ダダ
Shigeko Hirakawa|フランスの美術教育にかかわった経験(その1)
文部科学省|小学校における各教科等の授業時数等の変遷
Art Breathing |最近のフランス文化・芸術教育の試み
The picture book agency|DADA
KOKUYO WORMO’|アートに触れることで育つ力 親子で美術館デビューしよう!楽しみ方とポイント
岡山万理・高橋敏之 著(2010),「大原美術館における模写による幼児のための絵画鑑賞プログラム」(研究論文),[美術教育]No.293