「小学校英語の授業って、実際どんなことをするの?」
2020年度から本格的に始まった小学校英語。特に入学を控えた新1年生の保護者からは「ALTの先生との授業はどんな感じ?」「授業内容についていけるか心配」といった悩みの声がよく寄せられます。近年では、英語教育に力を入れている学校では1年生から授業を実施するケースも増えています。英語が苦手だった親世代にとって、子どもの英語学習に戸惑いを感じるのは自然なことかもしれません。
しかしじつは、現在の小学校の英語教育カリキュラムは、初めての子どもでも無理なく取り組めるように工夫されています。3・4年生の「外国語活動」から始まり、5・6年生で教科としての「外国語科」へと段階的に進んでいく授業内容は、子どもの発達に合わせて丁寧に組み立てられているのです。
本記事では、小学校教員として12年以上の経験を持ち、英語科専科教師としても現場で指導してきた筆者が、最新の小学校英語事情を徹底解説。授業の実態から育みたい力、具体的な学習内容まで、これからの小学校英語教育で保護者が知っておきたい情報を完全網羅します。小学校英語に対する不安を少しでも解消するヒントとなれば幸いです。
なぜ小学生から英語? 3つの大切な理由
小学校英語教育が導入された背景には、主に3つの重要な理由があります。*1
1. グローバル化する社会で必要な力を身につけるため
社会のグローバル化が進むなか、英語でのコミュニケーション能力の重要性が増しています。仕事や旅行だけでなく、さまざまな場面で英語を使用する機会が増えており、将来に向けた準備として、小学生の段階から英語を学ぶことが求められています。
2. 子どもの柔軟な適応力を活かすため
小学生の時期は、新しい言葉や文化を自然に受け入れられる柔軟性が高い時期です。この特性を活かして、英語を楽しみながら学ぶことで、より効果的な学習が期待できます。また、早い段階で英語に触れることで、異文化への理解も自然に深まっていきます。
3. 音声面での習得に適した時期だから
小学生の年齢は、英語の発音やリズムを自然に身につけやすい時期とされています。耳が敏感なこの時期に英語に触れることで、正確な発音やイントネーションを習得しやすいという利点があります。
文部科学省が考える「小学校英語のゴール」とは?
2020年度から小学校英語は、3・4年生では「外国語活動」として週に1回程度(年間約35時間)、5・6年生では「外国語科」という正式な教科として週に2回程度(年間約70時間)、必修科目として行なわれています。
3・4年生では友だちと英語で話すことを楽しみながら、コミュニケーションの土台をつくります。5・6年生では、これに基礎的な英語力も加わり、中学校での本格的な英語学習につなげていきます。
授業で育む「4つの力」
小学校の英語教育では、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つの力を、段階的に育んでいきます。以下に、学年ごとの目標をご紹介します。*1
【聞く力】音声や基本的な表現に慣れ親しむ
- 中学年:ゆっくり話された簡単な単語や表現を聞き取る。
- 高学年:日常生活に関する具体的な情報や短い話を理解する。
【話す力】やり取りと発表
- 中学年:基本的な挨拶、実物を見せながらの簡単な発表をする。
- 高学年:自分の考えや気持ちを整理して伝える、その場でやり取りをする。指示や依頼。実践的なコミュニケーション場面での対応をする。
【読む力】アルファベットや簡単な語句に親しむ
- 中学年:文字の音を聞いて認識する程度。
- 高学年:活字体の文字を識別して読む。音声で慣れ親しんだ表現の意味を理解する。
【書く力】なぞり書きから始める
- 中学年:文字は補助的な扱い。なぞり書きから始める。
- 高学年:大文字・小文字を書く。語順を意識しながら書き写す。例文を参考に簡単な表現を書く。
重視されるポイント
小学校英語で最も重視しているのは、英語の知識や技能だけではありません。「英語を使ってコミュニケーションをとろうとする気持ち」や「異なる文化への興味・関心」を育てることを特に大切にしています。
なかでも重視されているのが、「間違いを恐れずに英語を使ってみよう」という態度です。完璧な英語を目指すのではなく、相手に自分の思いを伝えようとする気持ちを育んでいきます。
実際の英語授業ではこんなことをしています
3・4年生:英語の音と会話を楽しく学ぶ時期
3・4年生の外国語活動では、英語の音やリズムに親しみながら、簡単な挨拶や自己紹介などの基本的な会話を学びます。英語の歌やゲーム、友だちとの会話を通じて、楽しみながらコミュニケーションの基礎を身につけていきます。この時期は特に「聞く」「話す」活動を中心に、間違いを恐れずに英語を使う態度を育てることを重視しています。
3年生の学習内容
場面・目的 | 学ぶ表現例 |
---|---|
あいさつ | Hello. Hi. I’m (Hinata). Good bye. See you. など |
気分 | How are you? I’m (happy). など |
数 | How many (apples/balls/circles)? (Three) apples. Yes./No. That’s right. Sorry. など |
好きなもの | I like (blue/soccer/onions). Do you like (blue)? Yes, I do./No, I don’t. I don’t like (blue). など |
何が好き? | What do you like? What (sport/food/fruit) do you like? など |
大文字アルファベット | A to Z, The “A” card, please. Here you are. You’re welcome. など |
カード | What do you want? (A pink star), please. This is for you. Thank you. You’re welcome. など |
これなあに? | What’s this? Hint, please. It’s a (fruit/green/big). That’s right. など |
絵本 | Are you a (dog)? Yes, I am./No, I’m not. Who are you? I’m (a dog). Who am I? など |
4年生の学習内容
場面・目的 | 学ぶ表現例 |
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世界のあいさつ | Hello. Good morning/afternoon. Finland(Terve), China(你好). Good morning. など |
天気 | How’s the weather? It’s (sunny). Let’s (play cards). Yes, let’s. など |
曜日 | What day is it? It’s (Monday). I play (soccer) on (Sundays). など |
時間 | What time is it? It’s (6) o’clock. It’s (8:30). How about you? など |
文房具・もちもの | Do you have a pen? I have (three) (pencils). This is for you. など |
小文字アルファベット | a to z, How many letters? Do you have (a ‘b’)? That’s right. など |
ほしいもの | What do you want? I want (potatoes). How many? (Two), please. など |
お気に入りの場所 | Go straight. Turn right/left. This is my favorite place. I like (music). など |
一日の生活 | I wake up (at 6:00). I eat breakfast (at 7:00). I go to school. など |
5・6年生:少しずつ読み書きも始まる時期
5・6年生では、アルファベットの読み書きや600-700語程度の語彙を学びながら、身近な話題について英語で伝え合う力を育てます。自己紹介や日常会話、時刻や値段の読み取りなど、実践的な場面を想定した活動が増えていきます。「聞く」「話す」に加えて「読む」「書く」も少しずつ始まり、学校生活や地域に関することなど、より幅広い話題について自分の考えや気持ちを英語で表現できることを目指します。
5年生の学習内容
場面・目的 | 学ぶ表現例 |
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自己紹介・好きなもの | My name is (Hayashi Natsuki). Please call me (Natsu). I like (baseball). What (sport) do you like? など |
誕生日・欲しいもの | My birthday is (January 1st). What do you want for your birthday? I want (shoes). など |
教科・時間割 | What do you have on (Mondays)? I have (Japanese). I want to be (a teacher). など |
できること・人物紹介 | [I/You/He/She] can/can’t (play soccer). Can you (run)(fast)? This is (Aya). など |
道案内・位置 | Where is (the station)? Go straight. Turn (right). It’s (in) (the park). など |
レストラン・注文 | What would you like? I’d like (pizza). How much is it? It’s (600) yen. など |
町紹介 | We have/don’t have (a restaurant). We can enjoy (watching games). I love my town. など |
憧れの人 | Who is your hero? My hero is (Otani Shohei). He/She is good at (playing baseball). など |
6年生の学習内容
場面・目的 | 学ぶ表現例 |
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自己紹介・宝物 | I’m (Chiba Haruhi). Where are you from? I live in (Tokyo). My treasure is (this bag). など |
日本文化紹介 | Welcome to my town. We have (hanami) in (Japan). What do you like about Japan? など |
日常生活・頻度 | What time do you (usually) (get up)? I (always) eat (apples) for (breakfast). など |
思い出・過去形 | What did you do (last weekend)? I went to (the beach). It was (fun). など |
行きたい国・場所 | Where do you want to go? I want to go to (Italy). You can see (the leaning tower). など |
世界とのつながり | (New Zealand) is in Oceania. Where is it from? Can you guess? など |
動物・環境問題 | What do (pandas) eat? Let’s save the (sea turtles). We can (use eco-friendly bags). など |
将来の夢 | What do you want to be? I want to be (a vet). I want to study (English) hard. など |
授業ではこんな工夫がいっぱい!
実際に使える! コミュニケーション重視の学習スタイル
小学校の英語授業では、単なる暗記や機械的な練習ではなく、実際のコミュニケーションの場面を想定した活動を重視しています。特に中学年では、音声を中心とした活動を行ない、高学年で徐々に文字を導入しながら、相手を意識して伝え合う活動を重視。ジェスチャーなども活用しながら、ペアワークやグループワークを通じて、実践的なコミュニケーション能力を育てていきます。
ALTの先生と過ごす、生きた英語の時間
小学校の外国語教育では、子どもたちをよく理解している学級担任または英語科専科教師が中心となって授業を進めることが基本となっています。そのうえで、子どもたちが生きた英語に触れる機会を確保するため、ALTなどのネイティブスピーカーや地域の英語人材との連携を図っています。
学級担任や英語科専科教師は英語を第二言語として話すロールモデルとして、ALTなどのネイティブスピーカーは発音や表現技法の見本として、それぞれ役割を果たします。また、実際のコミュニケーション活動をデモンストレーションすることで、よりわかりやすく示すことが可能です。なお、ALTが来校する頻度は自治体により大きく差がある状況となっています。
デジタル教材で、楽しく分かりやすく
現在、小学校で使用されている6社の教科書には、すべて指導用・学習用デジタル教科書が付属しています。教師はこれらのデジタル教材を活用して授業を進めており、音声や映像を通じて英語圏の文化や英語の発音や表現を学びます。実際のコミュニケーション場面のモデル提示や、ネイティブスピーカーの音声教材としても活用し、より実践的な学習環境をつくっています。また、子ども自身もタブレットを操作しながら、発音の確認やクイズ形式の問題に取りんだり、また自身の発表のツールとして使ったりすることができます。
子どもの成長を支える3つのポイント
ここまで見てきたように、小学校英語では「コミュニケーションをとろうとする気持ち」「異なる文化への興味・関心」、そして何より「間違いを恐れずチャレンジする態度」を大切にしています。では、保護者としてどのようにお子さんの学びを支えていけばよいのでしょうか。現場の教師たちの実践から見えてきた、効果的な3つのサポートポイントをご紹介します。
1. 「伝えたい!」という気持ちを大切に
もし子どもが「うまく言えないかも……」と躊躇していたら、「完璧な英語」は必要ないことを伝えてあげてください。大切なのは「伝えようとする気持ち」です。間違いを恐れずチャレンジする姿勢を、温かく見守ってあげましょう。
2. 世界への好奇心を育む
英語の学習を通じて、お子さんが「外国ってこんなふうなんだ!」「日本と同じところもあるんだね」など、新しい発見をする場面があるはずです。そんな気づきや感動に共感し、世界への興味を一緒に広げていってください。
3. 「楽しい!」という体験を大切に
小学生のうちに言葉を学ぶ楽しさを体験することで、中学校以降の本格的な学習への意欲が育ちます。これは英語だけでなく、新しいことを学ぶ際の大切な土台となります。子どもが感じる「楽しい!」という気持ちを、ぜひ一緒に喜んであげてください。
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小学校英語は、子どもたちの発達段階に応じて丁寧に設計されています。歌やゲーム、友だちとの会話を通じて、自然に英語に親しみ、コミュニケーション力を育んでいきます。この時期の英語との出会いは、子どもの視野を広げ、新しい世界への扉を開くすばらしい機会となるはずです。英語を通じた学びが、グローバルな視野を育む楽しい経験となるよう、温かく見守っていきましょう。
(参考)
文部科学省|小学校学習指導要領外国語活動・外国語編
未来先生(みらい・せんせい)
教育学科で学び、小学校免許や中学校英語免許を取得。小学校にて担任や英語専科教員として約12年間勤務、子どもたちの学びを支えてきました。現在は、2人の男の子の育児に奮闘しながら、これまでの知識と経験を生かして、子どもの成長と学びに役立つ情報をお届けしています。