2018.11.2

英語が得意な子どもに育てたいなら、これだけはやっちゃダメ! コミュニケーション方略とインターアクション仮説

田中茂範
英語が得意な子どもに育てたいなら、これだけはやっちゃダメ! コミュニケーション方略とインターアクション仮説

自分が本当に「言いたいこと」と、実際に英語で「言えること」のギャップは、英語を使おうとすると必ずといってもいいぐらい直面する問題です。

そうしたギャップに出会ったとき、皆さんはどうしますか? 多くの学習者は「沈黙」してしまいますね。日本語で「えーと」が出てから、ぎこちない時間が流れることになります。

または、何とか言い換えようとするでしょう。例えば「終身雇用制度」に相当する英語がみつからないとします。

ぴったりした英語は “lifetime employment system” ですが、知らなければ、その意味するところをなんとか伝えるしかありません。“You can work until you get old.”(歳をとるまで働く)のような言い換えをする人もいるかもしれませんね。

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「コミュニケーション方略」の実態

この2つの例は、第二言語習得研究者たちが「コミュニケーション方略」と呼ぶ具体的事例を表しています。

「えーと」で沈黙するのは「話題の放棄」という方略です。一方、言い換えて伝えようとするのは「パラフレージング」という方略です。放棄は消極的、言い換えは積極的なコミュニケーション方略になります。

ほかにも、このような方略があります。

  • 話題の回避
  • 翻訳
  • 手振りで伝える
  • 相手に援助を求める

コミュニケーション方略とインターアクション仮説3

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わからないからと言って、話題を放棄するのはNG

日本人学習者は、英語で表現できないと感じたとき、バツの悪い沈黙をした末に、話題を回避したり、放棄してしまう傾向があります。

話題の回避は、ある種の防衛本能から生まれるものかもしれません。つまり、英語で表現できず、間違ったことを話すと笑われてしまうかもしれないと思い、自信のない話題をつい避けてしまうのです。

しかし相手は、こちらの思いをそのように解釈してくれるとは限りません。場合によっては「自分と話したくないから、無視している」と受け取られることもあります。

相手は、あなたの英語に興味があるのではなく、あなた自身に興味があるのです。そのため、回避や放棄といったコミュニケーション方略は、マイナス効果を生む可能性が大です。

そこで話題を回避したいときは、そのことを英語できちんと表現する必要があります。

I want to talk about this topic, but I don’t know how to express my ideas in my English.(話したいんだけれど、自分の考えを英語でなんて表現すればいいのかわからないんだ)

このように言語化すれば、相手は状況を了解してくれるでしょう。「何も言わなくても、相手は自分の気持ちをわかってくれるだろう」という考えは通じません

コミュニケーション方略とインターアクション仮説4

「インターアクション仮説」とリスク・テイカー

間違ったことを言ってしまったら恥ずかしい、というのは多くの英語学習者の心理です。たしかに、間違いを犯すのはリスクです。しかし、ある程度のリスク・テイカーが外国語習得に向いているといわれます。

英語が使えるようになるには、使うしかありません。これは明白です。英語で “Leaning by doing” という言い方がありますが、まさに、活動の中で、活動を通して、英語の運用能力を身につけていくことが重要なのです。

子どもが母語の運用能力を身につける際にも、他者とのやりとりが鍵となりますね。言語習得は、常にやりとりのなかで進行する。そして、この母語習得のありようは、第二言語習得の場合にも、基本的には通用する。そう考えるのが「インターアクション仮説」です。

学習者が実際に英語を使うことを通して、自分の言っていることが相手に通じたり、通じなかったりという経験をするでしょう。それは、相手との共同作業の中で行われる経験です。このような形で、実際に英語を使いながら、英語力を高めていくのです。

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英語を使う現場に、試験の「減点主義」を持ち込まないで

仮にインターアクション仮説が正しいとした場合、「誤り」に対する考え方を変えなければなりません

英語で話そうとすれば、文法なり語彙なり発音なり、何かしらのミスをしてしまうもの。そして間違いは一種の「スティグマ」のようなものとして捉えられ、恥ずかしいという感覚を呼び起こします。

「できることなら、ミスなく英語を話したい」。そう考えることは理解できます。しかし、間違うことに過剰反応することで、英語を使う気持ちが削がれてしまうと本末転倒です。

学校では、間違いは減点の対象になります。英語などの試験では、65点や70点のように点数がでます。テストでは、それも仕方のないことです。

しかし、学校における「減点主義」というものを、英語を使う現場に持ち込むことは正しくありません

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子どもには「もっと間違って前進しよう」と伝えてほしい

よく、このような「励まし」のコトバを耳にすることがありますね。

Don’t be afraid of making mistakes.
(誤ることを恐れるな)

しかし、このコトバの背後には「間違いを犯すことは怖れの対象になる」という前提があります。それよりも、

Make more mistakes and make progress.
(もっと間違って、前進しよう)

というべきです。何か新しいことをするには、試行錯誤はつきものです。試行錯誤を通して、英語は熟達するのです。

特に自然な会話では、誤りに対して寛容なもの。言い間違いがあれば、言い直せばよいのですから。

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これはお子さんの英語学習を支える上で、親御さんに特に意識してほしいポイントです。たとえお子さんが間違った英語を使ったとしても、決してミスを責めないでください

英語を話す上で、間違いを犯すのは悪いことだと子どもに教え込むことで、将来「話題の放棄」や「話題の回避」をはじめとした、消極的なコミュニケーション方略をとる英語学習者に育ってしまいかねません。

そうではなく、まずは英語で表現することに挑戦する姿勢を褒めてあげましょう。英語を使って相手と繰り返し話すうちに、次第に英語力を高めることができるのですから、心配はいりません。間違いは、前進のもと。成功のもとなのです。