2019.11.15

科学的に正しい子どもの教育――最高の学習ツールは〇〇〇だった!

編集部
科学的に正しい子どもの教育――最高の学習ツールは〇〇〇だった!

いま、わたしたちがいる世界では、これまで想像もつかなかったような膨大かつ多様なデジタル情報が手に入るようになりました。いわゆる「ビッグデータ」です。

政府はこれから到来する新時代に備え、先端技術や教育ビッグデータを効果的に活用するための方策をとりまとめたとのこと。

今回は、これからの新社会、教育ビッグデータ、これまでの科学的なデータをもとにした、「効果のある早期教育」「効果のない早期教育」などについて紹介します。

「Society 5.0 時代」とは?

人間の社会は、次のような変化を遂げてきました。

狩猟社会(Society 1.0)
農耕社会(Society 2.0)
工業社会(Society 3.0)
情報社会(Society 4.0)
そして「新たな社会」(Society 5.0 時代)

上に示したとおり、「Society 5.0 時代」とは、5番目となる「新たな社会」を指す言葉です。内閣府の第5期科学技術基本計画(平成28~平成32年度)で提唱されました。

具体的には、あらゆるモノがインターネットでつながり、 常に人工知能(AI)から最適な答えを得ることが可能となり、ロボットの労働力を得て自由な時間を与えられた人間の可能性が大きく広がっていく……、といった状況を示しています。

科学的に正しい子どもの教育2

「木のおもちゃ」が知育におすすめな理由。五感を刺激し、集中力を育んでくれる!
PR

教育ビッグデータ=子どもたちの学習や行動データ

「ビッグデータ」とは、巨大で複雑なデータの集合をあらわす言葉。

そして「教育ビッグデータ」は、従来のような評価情報(センター試験や学力テスト、全国模試などで収集されるテストデータ)のみならず、携帯電子機器(スマートフォンやタブレットなど)で収集した、子どもたちの学習や行動などの履歴データを指します。

これらのデータを分析し、生徒ひとりひとりに合った指導や教材(テーラーメイド教育)に活かしていくのだとか。

このように、日本はいま、国レベルで教育ビッグデータの利活用や、エビデンスにもとづく教育の実現について議論を行なっている真っ最中です。しかし、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの諸外国ではすでに、教育ビッグデータ活用における効果の検証まで進んでいるそう。じつは以前から、こうした日本の教育における “遅れ”は指摘されています。

慶應義塾大学・総合政策学部教授の中室牧子さんは、2017年の国際ニュース通信社ロイターのコラムで、「エビデンス(科学的根拠)にもとづいた教育政策」へのシフトを優先すべきだと説いています。

中室さんはエビデンスよりも、経験則にもとづいた議論が先行していることに警鐘をならし、欧米では、エビデンスにもとづく教育政策運営が一般的になりつつあることを紹介しています。たとえばアメリカでは、2002年に「落ちこぼれ防止法」「教育科学法」が成立し、教育現場ではエビデンスにもとづいた意思決定が求められるようになったそう。

しかし、文部科学省は「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(令和元年6月25日)」のなかで、先端技術や教育ビッグデータを活用することにより、これまで経験的にしか行なえなかった指導と評価が、 エビデンスにもとづいて行なえるようになるとしています。

岡山大学大学院教育学研究科・教授の寺澤孝文氏も「e-Learningアワード2015フォーラム」で、先端技術や教育ビッグデータが、科学的データにもとづいたエビデンスベースの教育へとつながることを説明しています。

では、こうした教育改革が迫るなか、子どもたちの教育を、どう考えていけばいいでしょう。

科学的に正しい子どもの教育3

1. 自由時間が多い子どもほど、語彙力が豊かになる

じつは、こんな興味深いアメリカの調査結果があります。

生後6~10カ月の子どもに早期教育の教材DVDを1日1時間以上見せたところ、むしろ認知や言語の発達が遅れていたとがわかったのだとか。

また、十文字学園女子大学特任教授の内田伸子さんらが、日本・韓国・中国・ベトナム・モンゴルで3~5歳の子どもそれぞれ3,000人を対象に大規模な調査を行ったところ、習いごとをしている子どもは語彙力が高いとわかったそう。しかし、学習系の習いごとをしている子どもと、ピアノやスイミングなどの習いごとをしている子どもとの間に、語彙力の差はなかったとのこと。

こうした結果を受け内田さんらは、他者とのコミュニケーションや、家以外の環境を経験することが語彙力を高めたのであって、習いごとの内容自体はさほど関係ないと結論づけています。ちなみに、自由時間が多い子どもほど、語彙力が豊かになるとのこと。

そのほかにも、「運動する時間をたくさん詰め込んでいる子どもほど、むしろ運動能力が低くなる」といった結果も出ているのだとか。

「結局、自分が好きなように、自由にあそんでいるほうが有効」だと内田さんは述べています。

2. 就学前の学力を上げても、8歳で差がなくなる

ノーベル経済学賞を受賞した、シカゴ大学のヘックマン教授らが1960年代から開始した「ペリー幼稚園プログラム」の調査とは、低所得のアフリカ系アメリカ人の3~4歳の子供たちに、読み書き計算など “質の高い就学前教育” を提供し、そのあと約40年にわたって人生を追跡調査するというものです。

この調査を行なったところ、就学前の学力を上げても、効果は持続するわけではないと明らかになったそう。4~5歳ごろまではかなり学力(認知能力)が高いけれど、6歳ごろにはその差が小さくなり、8歳では差がなくなったとのこと。

しかし一方で、“質の高い就学前教育” を受けた子どもたちが大人になっても持続した能力があります。忍耐力や好奇心、社会性などです。それらの能力が持続したことで、結果として彼らは学歴・収入・持ち家率が高く、逮捕率も低かったのだとか。

つまり、早期教育として読み書きを学習するなかで鍛えられていくのは、学力ではなく、非認知能力といわれる「忍耐力・好奇心・社会性」などであり、その能力は大人になるまで持続し、なおかつその後の人生にいい影響を与えてくれるわけです。

3. 最高の学習ツールは「あそび」だった!

慶應義塾大学環境情報学部教授で言語心理学者の今井むつみさんは、子どもたちがあそぶ時間をなくしてしまうような早期教育は、弊害のほうが大きいという考えを述べています。

今井さんの研究仲間でもあるアメリカの学習科学・発達心理学の第一人者であるキャシー・ハーシュ=パセック氏と、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ氏も、「子どもにとって最高の学習ツールは “あそび”」だと明言しているそう。

「Society 5.0 時代」という新社会が到来するなかで、人々に必要になっていくのは適応していく能力です。適応力のある大人に成長するには、子どもが自分で考え、判断し、行動しながら学んでいけるような環境をつくり、思いきりあそばせることが大切とのこと。

科学的に正しい子どもの教育4

効果のある早期教育とは――

これまでの内容を踏まえると、「効果のある早期教育」とは、思いっきり子どもが夢中になれる環境をつくってあげることです。

駒沢女子短期大学名誉教授の天野珠子さんは、子どもが自分で何かに興味を持ち、夢中になる「子ども自ら伸びる力を発揮する、発達のとき」は、子どもを観察して邪魔をせず、環境を整えてあげることが大切だと伝えています。

今井むつみさんも、手とり足とり何かを覚えさせるのではなく、思いきりあそばせながら、一歩離れたところで好き嫌いや志向性をよく観察し、「これもやってみる?」「あれもおもしろそうだね」などと、適切に導いてあげることが大切だと述べます。

また、アメリカで3万人の子供を対象に行なった大規模調査では、成績が上がったことにご褒美を与えたグループよりも、本を読んだり、宿題を終わらせたりとといった、プロセスにご褒美を与えたほうが、学力を向上させたのだそう。

「投げ出さずにやり抜く」=「いいことが起こる」に結びつき、いい結果となったわけです。非認知能力の粘り強さや、忍耐力にもつながりますね。子どもの成績ではなく、行動に対して「よくがんばったね」「やりきったね」と褒めてあげましょう

効果のない、ダメな早期教育とは――

逆に、「効果のない早期教育」とは、有識者が口を揃えて否定しており、大規模な調査などでも否定された、“詰め込み型の早期教育”です。

結局、むりやり子どもに何かを学ばせたり覚えさせたりしても、持続せず、ひどい場合はそのもの自体を嫌ってしまいます。子どもに多くを得てもらおうとした結果、子どもの多くの可能性を奪ってしまいかねません。

放置せず、縛りつけない――ちょっと難しそう?

いやいや、じつはとても簡単かもしれませんよ。子どもが安全な範ちゅうで、思いきり夢中になって、楽しそうにあそんでいる姿が正解なのですから。

***
驚くような「新社会」、注目の「教育ビッグデータ」に、これまで行なわれてきたさまざまな「大規模調査」、そこから導き出された、

効果のある早期教育
効果のない早期教育

について紹介しました。精神論ではなく、科学的に正しい子どもの教育なので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

(参考)
文部科学省|新時代の学びを支える先端技術活用推進方策
寺澤孝文(2015),「教育ビッグデータの大きな可能性とアカデミズムに求められるもの−情報工学と社会科学のさらなる連携の重要性−」,コンピュータ&エデュケーション,Vol.38 ,pp.28-38.
寺澤孝文(2015),「教育ビッグデータではじまる エビデンスベースの教育 e-Learningと教育評価の融合」,e-Learningアワード2015フォーラム 講演資料.
教育ビッグデータを用いた教育・学習支援のためのクラウド情報基盤|ラーニングアナリティクスによるエビデンスに基づく教育に関する国際シンポジウム
ロイター|視点:教育無償化に見るエビデンス軽視の危うさ=中室牧子氏
日経DUAL|詰め込み型早期教育の「これは間違っている!」
日経DUAL|本当に効果ある早期教育は? 子どもは遊びから学ぶ
プレジデントオンライン|ビッグデータで判明! 「科学的に正しい勉強法」の法則5
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|親の失敗を見せると子どもが伸びる。超重要スキル「非認知能力」の簡単な高め方5選
内閣府|Society 5.0 – 科学技術政策
大塚商会|教育ビッグデータ