あたまを使う/国語 2018.4.3

知っていても使えなくては意味がない。「理解語彙」と「使用語彙」の違いとは?

編集部
知っていても使えなくては意味がない。「理解語彙」と「使用語彙」の違いとは?

「あの人は言葉をよく知っている」と感じる人と「あの人はたくさんの言葉を使いこなしている」と感じる人の違いは、一体どのようなものなのでしょうか。どちらも「語彙力が豊富」とひとくくりにしてしまいそうですが、いくら知っている語彙の量が多くても、語彙力が高いとは言えません。

言葉は自分の気持ちを伝えるツール。バリエーション豊かな語彙を身につけることは、子ども自身のコミュニケーション能力を高め、自信につながるはずです。

今回は「使える語彙」の大切さについて考えていきましょう。

子どもの可愛い言い間違いは正すべき?

「語彙」というと大人向けの難しい言葉を意味するように思われがちですが、子どもにとっても知っている言葉は立派な「語彙」です。では、たくさんの駅名や電車の種類を覚えていることも語彙が豊富だと言えるのでしょうか? 

国立国語研究所の石黒圭教授は著書『語彙力を鍛える』で次のように述べています。

<語彙力>=「語彙の量」×「語彙の質」

つまり、語彙の量を増やし、語彙の質を高めることこそが語彙力の要となるのです。そして語彙力のある人というのは、ただ単に「知っている言葉の数が多い人」ではなく、「文脈に合わせて適切な語を選択する力を持った人」なのである、と断言します。

虫捕りをしていて「つかまえる」という語がマイブームになった我が家の二歳児は、「髪の毛をつかまえる」「どんぐりをつかまえる」と言っています。髪の毛は「つかむ」、どんぐりは「拾う」です。

(引用元:石黒圭(2016),『語彙力を鍛える』,光文社新書.)

子どもの言い間違いや勘違いはとても可愛く、微笑ましいものですよね。親としてはその可愛さから、間違いを正さずに見守り続けてしまいがちです。

しかし、正確さを欠いた語彙は無意味であり、誤用したままでは子どものためにもなりません。言葉の正しい意味を理解することが表現の幅を広げる一歩になるのだと心に留めておきましょう。

理解語彙と使用語彙の違い

筑波大学付属小学校教諭・青山由紀先生は、光村図書のwebマガジンで教員向けの国語の授業アイデアを紹介しています。その中で、小学校低学年における語彙学習について、次のように述べています。

「言う」と同じ語群には、「ささやく」「どなる」「わめく」などがあります。これらの言葉を使い分けることができると、表現の幅はぐんと広がるでしょう。(中略)でも、いざ書こうとするとすぐに出てこない。そんな状況はよくあることだと思います。知っている言葉(理解語彙)を、使える言葉(使用語彙)にするにはハードルが上がるのです。

(引用元:みつむらweb magazine|青山先生の国語授業|第3回 言葉の引き出しづくりー低学年編ー

思わずハッとした親御さんもいるのではないでしょうか。気がついたらいつも同じ表現を使って文章を書いている、言葉のレパートリーが少なく、話している内容に深みが出ない……と悩む大人も多いはずです。

ではここで出てくる2種類の語彙について、もう少し掘り下げてみましょう。
理解語彙> 聞いたり読んだりしたときに理解できる語
使用語彙> 話したり書いたりするときに使える語

理解語彙をたくさん習得すること(言葉集め)は、語彙学習において欠かせない要素です。しかしそれだけに終始するのではなく、使用できる語彙がいかに増えるか、ということが大切なのです。

まずは知っている動詞を集めてみよう!

そこで青山先生が小学校低学年におすすめするのは、「動詞のレパートリーを増やす」こと。この場合教師を対象にしていますが、親子の会話に置き換えても充分活用できます。

「手を~」「服を~」など、最初の言葉を教師が示して、それにくっつく動詞を考えさせます。「手をあらう、たたく、かむ…」「服をぬぐ、しまう、きる…」など、生活の中で使う動詞でしたら、低学年の子どもたちでもたくさん出すことができます。

(引用元:同上)

知っている言葉をどんどん使うように大人が誘導してあげることは、子どもの持つ能力を引き出してあげることにもつながります。

また、動詞に着目することで、人物の心情や状況を理解する能力も高まります。例えば「見る」には、「見つめる」「のぞく」「ながめる」などさまざまな表現があります。どの言葉を使うかによって視点が変わる面白さや奥深さを、親子の会話の中から見つけ出していくといいでしょう。

東進ハイスクールの現代文講師として活躍し、論理的な国語術に関する著書を多く執筆している出口汪先生も、語彙力は子どもの心を成長させる大きな役割を果たしていると説きます。

言葉の力を身につけた子どもは、豊富な語彙力に比例して、さまざまな角度からものごとを見たり、微妙で繊細な心のありようを感じたりすることができるようになります。その結果、詩や文学作品を読んでも、単に好きか嫌いかに留まるのではなく、様々な価値観や人の心の奥底にあるものを理解できる、深みのある人間に育っていくのです。

(引用元:出口汪(2015),『子どもの頭がグンと良くなる! 国語の力』,水王社.)

言葉を知り、さらに言葉を正しく使いこなせる力が身につくことで、子どもはぐんぐん成長していきます。そしてそれは、親子のコミュニケーションから学ぶことも充分可能なのです。

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「○○くんは物知りだね!」「○○ちゃんはおしゃべりが上手だね」このひとことだけで、子どもは「もっとたくさんの言葉を知りたい」と思うものです。楽しみながら言葉を覚え、考えながら言葉を使う。子どもの好奇心を刺激するきっかけは、ほんの小さなコミュニケーションから。大人も子どもも語彙が増えれば、より深みのある会話を楽しむことができるはずです。

(参考)
石黒圭(2016),『語彙力を鍛える』,光文社新書.
INSIGHT NOW!プロフェッショナル|『語彙力を鍛える』石黒圭(光文社新書)ブックレビューvol.9
みつむらweb magazine|青山先生の国語授業|第3回 言葉の引き出しづくりー低学年編ー
出口汪(2015),『子どもの頭がグンと良くなる! 国語の力』,水王社.