2018.6.2

社員が講師に。現場の声を活かした「だし・うま味の味覚教室」【食のまなび探検隊「味の素(株)」その2】

編集部
社員が講師に。現場の声を活かした「だし・うま味の味覚教室」【食のまなび探検隊「味の素(株)」その2】

【食のまなび探検隊「味の素(株)」その1】のつづき

12年続く出前授業を通して見えてきたもの

ーーでは次に、地域や子どもたちに向けた食育活動について具体的にお話をお聞かせください。

岩水さん:
味の素(株)では「直接コミュニケーション活動」として、<出前授業>と<工場見学>を主に行っています。これらの活動は切り離して考えているわけではなく、むしろ連携を強化していて、たとえば、出前授業に行った小学校の生徒さんたちが社会科見学で工場に訪れてくれるなど、この2つは密接につながっているわけです。

出前授業は高学年のお子さん向けに行っているので、工場見学にしても調理体験を含む「Cook Do®コース」なんかはその年代以上をターゲットとしたコンテンツ作りをしていますね。

ーー<出前授業>はいつ頃から始められたのですか?

岩水さん:
小学校5、6年生を対象とした出前授業『だし・うま味の味覚教室』は、2006年からスタートし、もう12年になります。おかげさまでとても好評で、年間100校で開催しているのですが、新年度授業受付開始後2ヶ月でほぼ予約が満杯になります。一度体験された先生が「またぜひ」ということでお申し込みいただく場合が多く、リピート率が7割を超えているといった状況ですね。

ーーとても人気が高いんですね! 栄養士や調理師の方が講師として授業をしているのでしょうか?

岩水さん:
いいえ、講師はさまざまな部署の味の素(株)の社員や事務局のスタッフです。プロの先生ではないので、大勢の子どもたちに向かってわかりやすく喋るというのはやはり難しいものです。そこで「講師育成研修会」を開催して、研修を受けた社員が講師になる資格を得られるのですが、社員・講師側としても出前授業は「学びの場」になっていると実感しています。

現在講師の資格を持っている社員は1,200人ほどいますが、実は2016年にコンテンツを改定したので、またイチから勉強しなおさなければならなくなってしまいました(笑)。

ーー子どもたちに向けて授業をすることで、社員の方たちのスキルアップやモチベーションアップにもつながる、というわけですね。

岩水さん:
そうです。出前授業がスタートしてからコンテンツを改定するまでの10年間、子どもたちを取り巻く食環境や教育現場なども大きく変化してきました。先生や保護者のみなさんは我々に何を求めているのか、というニーズを敏感に感じ取り、関係者の方たちへのヒアリングを通して、授業内容や授業の仕方も変えなければなりません。

また、2013年に和食が無形文化遺産登録されたことも少なからず影響しています。文部科学省から食育の推進や、和食のことを勉強の中に取り入れましょう、といった取り組みを学習指導要領に入れているようですが、実際にはなかなか難しいようです。そこで「味の素(株)が授業をやってくれたらいいな」という先生方のお声をいただいた、ということも大きいですね。

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体験型の学びを取り入れた『だし・うま味の味覚教室』

ーーなるほど、そのような事情もあるんですね。では実際の授業内容を具体的に教えていただけますか?

岩水さん:
『だし・うま味の味覚教室』は次世代を担う子どもたちに、「だし」「うま味」「味覚」について、楽しく学んでいただく食育プログラムです。

先ほど小学校5、6年生を対象にしていると言いましたが、なぜだかわかりますか? 実は小学校5年生に家庭科でお味噌汁を作るという単元があるんです。つまり、学校が子どもたちに教えたいと思うタイミングに合わせて出前授業を行なっているわけです。

そこではまず、人間が味を感じる仕組みや「味はどこで感じるのかな?」といったことをお話します。舌にある味蕾(みらい)という部分で感じる「甘味・酸味・塩味・苦味・うま味」の5つの基本味を勉強してもらいます。

そこから「だしの中にはうま味がいっぱいあるんだよ」ということを伝え、うま味をうまく使っている「和食」についても授業の中で教えていきます。

そしてメインの「うま味体験」へと進みます。昆布と鰹の一番だしを準備して、全員に飲んでもらいます。試飲することでうま味のはたらきや和食におけるだしの役割についての理解を深めることが目的です。

ここで重要なのは、この『だし・うま味の味覚教室』は体験から感じ取ったことを表現する学びを取り入れている、という点です。

実際に自分の舌で感じて、頭で考えて、書いて、話して、発表する、という段階を踏むことで、より深い理解につながりますよね。「私はこんな風に感じた」「僕には違いがわからなかった」とさまざまな意見が出てくる中で、自分とは違う他者の意見を聞いていろいろなものの見方があると知ることができます。

ただ「味の変化を書いてみよう」と言っても難しいですよね。「味が変わった」ということはなんとなくわかるんだけど、その味の感じ方は人それぞれですから。だから、正解があるというわけではなく、その変化を舌で覚えてもらうことが大事。そしてその変化というのは、さっき勉強した舌の「味蕾」という部分で感じているんだよ、とか、よく噛んで食べると味わえるよ、とか体験を通して考えることや表現することにもつながっていくと思うんです。

ーーただ話を聞くだけよりも、実際に舌で味わって体験するということが大事なんですね。

岩水さん:
ちなみに大人向けだと、うま味を感じるのはドライトマトが一番。トマトはグルタミン酸が多く含まれていますから、それを30回くらいしっかり噛むことで、口の中にうま味が広がるのを感じるはずです。ご家庭で試すならドライトマトがおすすめですよ。

→【食のまなび探検隊「味の素(株)」その3】につづきます