あたまを使う/サイエンス 2018.3.12

算数力を育てるために、親は最高の「リ・アクションスター」であれ。

黒澤俊二
算数力を育てるために、親は最高の「リ・アクションスター」であれ。

これは先日、バスの中であった出来事です。

真向かいから私をじろじろと見てくる、3、4歳ぐらいの女の子がいたのです。突然その子は、自分の右手をほっぺたに当てて顔を傾け、私にニコッとしました。私はすかさずあいづちを打つようにうなずき、同じ動作をして返してみせました。おじさんが顔に右手を当ててニコッとするなんて、周りの人にとっては気持ち悪いでしょうし、自分も恥ずかしい思いでしたが……やってみたのです。

すると、その女の子は、どうでしょう! 嬉しそうに、その後何回も同じ動作を繰り返すのです。隣にいたお母さんは、ニコニコしながら「すみませんねえ」と挨拶してくれました。“変なおじさん” に間違われなくて良かった、とひと安心でした。

「リ・アクション」の効果

第2回「算数力は会話の中で育つもの。5つの「カキクケコ」を大切にしよう。」でも述べた通り、子どもは「態々」(「わざわざ」でしたね)何かをしでかすものです。戯れに「態と」(「わざと」ですね)何かしてみせるのです。

そして子どもは、何かを「態々」「度々」したときに、周りの反応を意識します。「態と」したことが受け入れられることなのかどうか、試すように相手の反応を気にするのです。

右手をほっぺたに当てて顔を傾けた「仕」を私に送りつけたその子どもは、それが相手に受け入れられたとわかると、「態と」「度々」繰り返して、その「仕」をやってみせました。自分が蒔いた「種」から、まるで「草」が生えてきたように、「態々」「度々」繰り返したのです。

そうなのです。大人が子どもに対して行なうリアクションには、「種」を「草」にする効果があります。強力な肥料のようなものです。教育心理学では、このような、子どもの行為に調整や改善をもくろみ子どもに返していく行為を「フィードバック(feedback)」と呼びます。「アンケートの結果をフィードバックする」などと、最近ではよく耳にしますよね。

フィード(feed)は、もともと「えさを与える」という意味です。そして「リアクション」には、子どもが蒔いた種に肥料を与えるフィードバック効果があります。

そうです、態度の形成には、フィードバック機能を備えた他者の「リアクション」が有効なのです。

親は最高の「リ・アクションスター」

算数力の素になる態度、いわば「算数的態度」を、就学以前の小さな子どもに育ませてあげる場合も同じです。

子どもは、「態々」「度々」発した仕種に対する大人たちの反応を求めます。そして、子ども発の「仕種」をひとつの態度として「仕草」に高めるのが、フィードバック機能を備えたリアクションなのです。となると、私たち周りの大人たちがどのようなリアクションをすればいいのかが、「算数力」への態度を育てるポイントとなります

算数力の素を育てたいとなると、それなりの “より良いリアクション” があるはずです。では、それはいったい何なのでしょうか?

私たち大人は、その “より良いリアクション” とは何かを知り、そのスキルを身につけ演じる「リ・アクションスター」であるべきです。そして特に、子どもにとって最も身近な親御さんをはじめとする家族の皆さんにはぜひ、輝くアカデミックな「リ・アクションスター」になってほしいのです。算数力の素である「算数的態度」を育てるために……。

「リアクションスター」への道

それでは、算数力の素となる「算数的態度」を育てるには、どのようなリアクションがより効果的なのでしょうか?

前回記したように、「リアクション」の一般的な様相として「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」があります。「あ、そうか」とあいづちを打ち、「いいね、それ」といいところを指摘し、「うんうん、そうだね」とうなずき、笑顔で「え、そうなの」と心の底から愛情と表情豊かに「演じ」ながら、子どもの言葉をそのまま「オウム返し」してみるという5つのリアクションですね。これらは、フィードバックという機能を備えた、ひとつの態度形成の方法です。

しかし、これらのスキルを方法として身につけることも重要なのですが、それ以上に重要なことがあります。それは、どんなときにこれらのリアクションをするのかという、リアクションの「しどころ」、そして何に対してリアクションを起こすのかという、リアクションの「内容」です。

子どものあらゆる仕種に対して「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」とリアクションすればいいのかというと、そういうわけではありません。「ここぞ」というときに効果的にリアクションしていくことが求められます。では、「ここぞ」を決めるエネルギー源とは何なのでしょうか?

それは、こんな子どもに育ってほしいという「目標」とか「信念」とか「愛情」とかにあたる、親の思いや願いです。アカデミックな「リアクションスター」への道は、スキルを身につける以前に、その源である「目標」や「信念」や「愛情」を明確に豊かに自覚することから始まります。

「算数力」の素である「算数的態度」のなかみとは?

ここでは、算数力の素になる「数や形に対する態度形成」を目指しますから、自覚すべき「目標」や「信念」は明確です。小学校教育における算数科の目標が明確なのと同じように、算数科で育てる算数力の内容は明確ですし、その素となる「算数的態度」も正統的に明確です。ですから、その明確な算数的態度のなかみに見合った子どものアクションが発せられたとき、「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」とフィードバックしリアクションする必要があります。

さて、それでは、子どもが発するアクションのなかにひそむ、リアクションすべき「算数的態度」のなかみとは何でしょう?

そうそう、それは算数的追究項目「カ」「キ」「ク」「ケ」「コ」(「関係」「きまり」「区分け」「見解」「根拠」)に相当する態度ですね。次回は、そこを詳しくとらえていきましょう。「リアクションスター」として、アカデミー賞をめざして。