教育を考える 2018.5.3

坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第10回】~頑張りすぎない子育て~

坂上忍
坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第10回】~頑張りすぎない子育て~

役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。役者業は既に48年目目を迎えた坂上さん。

その長いキャリアを持っているからこそ教えることができる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を、全10回に渡って公開します。連載の最終回となる今回は、子育てを頑張りすぎてしまう親についてのお話です

頑張りすぎず自分を客観視できる心の余裕を残す

がむしゃらに頑張っているけれど、なかなか結果が出ない若い役者にこんな話をすることがあります。

「誰もがみんな頑張っているんだから、一生懸命に頑張るのは当たり前。そこですべきは、どう頑張るか。そこを考えたほうがいいよ」

野球なら、1点リードで迎えた9回裏2アウト満塁、フルカウントの場面。若いピッチャーほど力任せのストレートで勝負しがちですが、そういう球は往々にして痛打されてしまうもの。一方、経験を積んだベテランや勝てるピッチャーは、その緊迫した場面でもあえてボールになる変化球や、タイミングを外す球で打ち取っていきます。実際のところ、そういう緊迫した場面では緩い球を投げるほうが圧倒的に怖いものです。緩い球のほうがバットに当たりやすいわけですからね。でも、その怖さに打ち勝って、緩い球を投げることができるのは、積み重ねてきた経験に裏打ちされた自信であり、テクニックなんです。サッカーのPKでも、ゴールポスト際を狙って蹴るよりも、ゴールキーパーが構えている真ん中にコロコロと転がすほうが心理的に怖いに決まっています。でも、世界の一流プレーヤーは、それを平然とやってのけてしまう。

ただ無闇に、一生懸命頑張っているだけではこういったプレーはできません。真剣勝負や一生懸命のなかにも、遊び心や余裕が必要ということです。要は周りが見えなくなるほど頑張りすぎるのではなく、自分を客観視できる程度の心の余裕は残しておきたいということ。そしてそこに、覚悟と勇気があればなおさらいい。


※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

子育てにも多少の「緩さ」があってもいい

どうしてこんな話をしているかと言えば、ただ頑張ることが、すべていい結果につながるとは限らないということなんです。

わたし自身もそう。舞台や映画を作るときに、理解が足りなかったり、緊張しすぎて本来の調子が出せない役者がいるととことん追い込みたくなるのですが、いくらこちらが頑張っても短時間で解決させるのは容易ではありません。でも、その問題が解決されなければ、作品はちゃんと成立しないのですから、頭のなかはそのことでいっぱいになります。焦りも出てきますし、とても心穏やかにはいられません。ただ、そうなってしまうと余裕がなくなって、ほかの役者のミスや良い部分を見すごしてしまうことにもなる。

なにもかもほったらかしというのはいただけませんが、その役者が必死にスランプを脱しようとしているのであれば、這い上がってくるのを少し待つことだって、演出家の務め。ウソでも余裕のある姿を見せておくようにします。こっちが頑張りすぎて相手を無駄に追い込むよりは、いい結果が出るものです。

それと同じ土俵で語ることはできないのかもしれませんが、親御さんだって、毎日、毎日、理想の子育てばかり追求していたら精神的にきつくなってしまうことぐらい、わたしにだって想像できます。子どもにとっても、窮屈なだけかもしれない。

ときには親御さん自身の息抜きも必要です。それが余裕のある子育てにつながっていけばいいじゃないかと思うんです。結局は、まっとうな子に育てるという明確な信念さえ持っていれば、子育てにも多少の「緩さ」があっていいのだと思います。

わが子を愛するあまり、子育てを頑張りすぎてしまう家庭が多くありませんか?

ただ、頑張り続けても成果が出ない、ならばさらに頑張る……この繰り返しでは行き詰まって苦しくなってしまうもの。子どもにきつく当たってしまうことだってあるかもしれません。そうなると、本末転倒どころの話ではありません。

スポーツと一緒で頑張るのは当たり前。でも頑張りすぎる必要はない。だからこそあえて、ときには一歩引いたところから見てみたり、子ども同士の世界に放り込んで親は静観してみたりと、直接的にかかわらないことも立派な子育てだと思います。むしろ、そうやって見守っているほうが、勇気や覚悟が必要なはずです。

息つく暇もなく、子育てに全力投球している親御さんはたくさんいます。それは本当に頭が下がる思いです。でも、もうちょっとだけ余裕を持ってもいいのではないでしょうか。たまにはホテルのレストランで5000円のランチを楽しむのもあり。母親同士で息抜きの飲み会をやったっていい。そのときだけは子どものことを忘れて、ひとりの大人として会話や食事を楽しむんです。

思い詰める性格の人ほど、頑張りすぎるきらいがあるようです。でもその頑張りは子どものためですか? それとも自分の満足のためですか? 目を吊り上げているだけでは子どもも余裕をなくすだけです。頑張りすぎず、そして構いすぎずに見守る余裕と勇気。ゆっくりお茶でも飲みながら考えてみてはいかがでしょうか。

***
[連載の終わりに]
悪があれば善があり、与党があれば野党がある。政党すべてが与党になってしまえば、日本は大変なことになるでしょう。野党の反対意見があるからこそ、さまざまな問題に対しての議論が深まっていくのです。

「そんなことは当たり前だよ」と言う方も多いことでしょう。でも、子育てという観点で考えてみると、「右にならえ」でみんなが同じ方向に進んでいるように見えるのです。世の中が「怒っちゃダメだよ! 褒めて育てたほうがいいよ!」という流れになると、褒めるほうへ一斉に向かってしまう。何年後かに、「やっぱり、子どもは怒ったほうが伸びる!」と著名な誰かが言いだせば、怒る子育てにコロッと変わってしまうのではないかな? それぐらい、右にならえに感じます。

そういった思考の人たちを見ていると、はたして「自分」はどこにあるんだろう? と考えちゃいますよね。「自分」というのは、子育てに対する親の考え方。わが子をどんなふうに育てたいのか。それが伝わってこないことが多い。

子育てに方程式は存在しません。この連載では、わたしなりの教育方法や子育て論を語っていますが、「坂上忍はなにを言ってるんだよ。うちにはうちのやり方があるんだよ」と思われても一向に構わないんです。絶対的な正解があるほど子育ては簡単なものではないし、反感を持たれて当然です。

ただ、方程式が存在しないからこそ、自分の子育てを信じ、しっかりとした信念を持って、子どもと向き合って欲しい。


※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

信念とはなにかと言えば、それは家庭それぞれで変わってくるもの。わたしには子どもがいませんが、子どもたちとかかわる『アヴァンセ』では、次のような信念を持って接しています。

「とことん子どもたちと向き合って、とことん子どもたちの個性を引き出して、とことん子どもたちの夢を叶える」

カベにぶつかったときや考え事をするときは、この原点に立ち返ります。

わが子をどんな人間に育てていきたいのか。世界中で、子どもと一番長い時間を過ごしているのは、母親であり父親です。周りからどんなことを言われようと、自分の子育てをどこまでも信じてください。


※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。

■坂上忍が総合プロデュースする子役養成所『アヴァンセ』はこちら→

■坂上忍 著『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』はこちら→