教育を考える 2018.3.29

坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第5回】~負荷を乗り越えてこそ“強く”なれる~

坂上忍
坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第5回】~負荷を乗り越えてこそ“強く”なれる~

役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。役者業は既に48年目目を迎えた坂上さん。

その長いキャリアを持っているからこそ教えることができる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を、全10回に渡って公開します。第5回目となる今回は、子どもが強さを手に入れるために必要な「負荷」についてのお話です。

子どもには乗り越えるのが大変な負荷をかける

いまの子どもたちは、舗装されたきれいな道路ばかりを歩いています。人生という名の道路に砂利や釘があっても、親が先回りしてきれいにしてくれる。だから、子どもはなんの苦労もせず大人になれてしまう。本来、やるべきことはまったく逆だと思うんです。あえて、砂利や釘をまいていくのが親の務めであるはず。障害物をどんどん置いていき、その障害を乗り越えていくことで子どもはたくましくなり、強くなっていく。

わたしは、この作業を“負荷をかける”と表現しています。『アヴァンセ』でも実践している方法ですが、簡単に歩けそうな道路であれば、あえて歩きにくくしていく。いわば、“乗り越えるレベル”を上げていくことで、子どもはさらに、上へ上へと行こうとするのです。

子どもがなかなか乗り越えられなかったカベを乗り越えたら、またすぐ乗り越えるのが大変な負荷をかけます。最初のカベを乗り越えたことは立派ですから、「よくやった!」「それでいいよ」ときちんと褒めます。でもそれは、その瞬間だけのこと。成長するためにはま新たな課題が必要ですから、次のレッスンからはレベルを上げた状態で、その子と対峙することになります。これは、子どもだけに通じることではありません。大人だって、上司から「そのくらいでいいよ」と声をかけられれば、それ以上の仕事をやろうとしないものです。わたしの事務所でも新人のスタッフが入ってきたら、甘やかしたりなんかしません。あえて、砂利や釘がたくさんある道路を用意します。

大人が相手なら、子どものように褒める必要もない。大人に対して“褒めて伸ばす”なんてやり方は、わたしの事務所ではあり得ない考えです。そう考えると、わたしは社員に厳しい指導をしているかもしれません。自称“超ブラック企業”と呼んでいるくらいですから、社員にとっては大変な日々でしょう。それは、ほんのちょっとのミスが事務所全体の仕事に影響するということもありますが、いつかはわたしの元を離れて、立派に巣立っていける大人にしなければ、という責任感があるからです。

うちよりも恵まれた待遇の会社はたくさんあるのでしょうが、わたしの事務所で仕事ができるようになれば、「どこに行っても大丈夫」という自負はある。どこでも通用する人間になって欲しいと願って接しているから、自ずと厳しくなるということです。

きれいな道路にあえて釘をまくのが親の本当の務め

表現が適切かどうかは別として、子どもでも大人でも、人が育っていく過程には、ある種の“毒”が必要なんじゃないかと思います。毒をすべて排除することがいいとは思えない。毒があっての良薬であって、毒があるから、良薬がより生きてくる。良薬だけの世の中になって、はたしていいものなのか……。だからこそ、褒めて、褒めて、といういま流行りの教え方にも反対なんです。毒を悪と置き換えてもいいでしょう。子どもが大好きな戦隊ものでも、悪がいるからヒーローが善になる。そしてより強くなる。対比するモノがあってこそ、善の活躍が際立つのです。悪者がいない戦隊ものなんて、全然面白くないですよ。

子どものアレルギーも増えていると耳にします。わたしたちが子どもの頃には聞かなかったアレルギーの種類もたくさん存在します。ストレスが多い世の中ですし、環境や食べ物が変わってきた影響もあるのかもしれません。それでも、毒をなくしてきれいにしすぎているのも原因のひとつなんじゃないかと思ったりもします。もちろん、医学的な根拠はなにもありませんが、そう思いたくなるほど良薬とか善とか、無菌への意識が強くてちょっと怖いぐらいです。

こんなことを言うと、「潔癖症のお前が言うな!」という声が聞こえてきそうです。テレビでも話題になりましたが、たしかにわたしには潔癖な一面があります。汗をかいたらすぐにシャワーを浴びるので、1日に5回着替えるなんてこともザラ。洗濯機を1日に3度、4度と回すことも珍しくありません。部屋も、「きれい好き」と言われる女性よりきれいにしているつもりです。

ただ、これは家のなかでの話。外に出れば、「毒はあるもんだ」と思って生きていますから、仮に仕事場の環境が汚くても普通にすごすことができます。家をきれいにしているぶん、バランスが取れているのかもしれません。障害物や毒は人間が生きていくうえで、絶対に必要なもの。だから、なにもかも、きれいにしすぎないでほしいんです。子どもの人生という名の道に、ときにはわざと釘を置くことも忘れないでください。


※写真は2015年撮影のもの(c辰巳千恵)

※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。

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