教育を考える/本・絵本 2018.4.28

アドラー心理学に見る、幼少期の読み聞かせの効果。豊富な絵本体験で、将来の我が子を支える「問題解決能力」を

景山聖子
アドラー心理学に見る、幼少期の読み聞かせの効果。豊富な絵本体験で、将来の我が子を支える「問題解決能力」を

こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。

新しいスーツを身にまとった、初々しい新入社員の姿を見かける季節です。会社によっては今日からゴールデンウィークに入りますね。新しい環境での毎日も、ほっと一息というところでしょうか。

一方で、「5月病」という言葉も、馴染み深くなりました。ゴールデンウィーク明けに、悩みから会社を辞める新入社員も多いそうです。

学生のための社会人応援サイト「マイナビ」を始め、多くの機関の調査では、新入社員の抱える悩みトップ3を発表しています。その3つに必ず入ること、皆さんは何だか知っていますか?

それは「人間関係の難しさ」。

静かに破綻していく新入社員たち

(引用:日本経済新聞|静かに破綻していく新入社員たち

リクルートなどで20年以上も人事責任者を務め、就活についての著書も多数出版している曽和利光さんは、上手に周囲に助けを求めることができずに、悩みを自分一人で抱えてしまう新入社員を、こう表現しています。

そして、人間関係の構築の大切さについてこのように話しています。

ぜひ皆さんに身につけておいてほしいのは、「周りの先輩や同僚をどう使うか」という考え方

(引用:同上)

この力に秀でた子どもは、学校でも職場でも活躍の場を広げやすいもの。今回は、幼少期からの絵本体験で、「人間関係の構築に長けた子ども」を育てる方法をお伝えします。

アドラー心理学でも骨子となる考え方「対人関係の悩み」

ここ数年、『嫌われる勇気』などのベストセラーも生まれ、注目が集まるアドラー心理学。心理学者、アルフレッド・アドラーは、こう断言しています。

人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである

(引用:岸見一郎, 古賀史健(2013)「嫌われる勇気」,ダイヤモンド社.)

では、この人間関係の悩みの根本はどこにあるのでしょうか? 実はこの問題は、相手を受け入れられないことから始まります。

どうして、あの上司は、怒りながら指示するのだろう。頑張ろうと思って質問したのに。

と疑問に感じる新入社員。

なんで、あの新人は、この忙しいときに、知ってて当然のことを聞いてくるんだ?

と不満に思う上司。

人それぞれ「正しさ」の尺度は違うもの。他人にはその人なりの「行為に至るまでの正当な理由」があります。そのため、相手を理解し、受け入れられない限り、トラブルになるのは当然のこと。

相手の考えに気を払わず、自分の価値観の範疇におさめようとすることで、人間関係の悩みが発生します。でも実は、相手を変えることはできません。

それはまるで、冷蔵庫に「なぜ電子レンジの役割ができないの!」と怒っているようなもの。相手自体は変えるのはとても難しいことなのです。

なぜなら、誰しもが長年築き上げてきた、その人なりの信念や信条を持っているから。これらをひっくり返すには、本人が自ら進んで変えたいと心から思うような、相当な衝撃が必要です。

現代社会を生き抜くために必須の力とは

他人からアドバイスを受けて、こう感じたことはありませんか。

確かにそうかもしれないけど、そうは言ってもね。

異なる意見を聞き入れるよりも、自分を守る本能のほうが、まず先に反応するもの。私たちはつい、居心地の良い既存の価値観を優先させてしまいます。

ましてや、怒りの感情と共に、自分とは大違いの意見を伝えられたら、聞く耳を持たなくなるのも仕方ないのかもしれません。

さらには、相手に対して同じだけの怒りの感情を向けることもあるでしょう。そしてその怒りは、人によって様々な現れ方をします。

例えば、陰で悪口を言う。長い間恨み続ける。うつになり会社を辞める。こんな事態にまで発展する可能性もあるのです。

無理に相手を変えようとする態度のままでは、複雑化している現代の社会を生き抜くのは難しいもの。今こそ必要なのは、相手をあるがまま受け入れられる「懐の大きさ」です。

他人の価値観を受け入れ、自分が目指す未来へ向けて、互いに歩み寄っていく力。それが、今の子どもたちが大人になったとき、現代社会を快適に生きていくために、必要不可欠な能力なのです。

幼少期の豊富な絵本体験で、将来の人間関係の悩みをなくす

さて、現代社会を生き抜く上で欠かせない、この力。我が子の行く末を案ずる親として、子どもがこの能力を自然に身につける方法があるとしたら、知りたいですよね。

実は、幼少期の豊富な絵本体験によって、将来の我が子の人間関係の悩みを大幅に減らすことができます。

皆さんは、書店の絵本売り場でこのように感じたことはありませんか?

・かわいい! この絵、私が癒される……。
・なに、この下手な絵? 本当にプロが描いている絵本なの?
・グロテスクな絵だけど、こんなの子どもに見せていいのかな。
・芸術的過ぎて、子どもが楽しめるかしら?

書店に行くと、色々な種類のイラストが存在することに気づくはず。実はこれ、たまたまではありません。あえて、様々な手法による、異なるテイストの絵の絵本がたくさん出版されているのです。

なぜなら、幼い頃からバラエティ豊かな絵が描かれた絵本を与えることで、大人になってからの人間関係を円滑にする、子どもの「問題解決能力」を高められるから。

幼い子どもは、柔軟なものの見方ができるもの。何の疑問もなく、何でもそのまま受け入れます。例えば、大人が嫌がることの多いイモムシや毛虫。まるで子犬や子猫をかわいがるように、これらを愛すべきものとして接するのも、子どもならではと言えるでしょう。

どんなものでも先入観なく受け入れる時期に、受け入れたものが多ければ多いほど、人としての心の許容範囲も大きくなっていきます。

受け入れる力を培うことは、多種多様な問題に対して、柔軟に対処できる力を育むことにつながります。そのため、大人になったとき、高い問題解決能力によって、多岐にわたるトラブルや困難な壁をも乗り越えることができるようになるのです。

さらに、多彩な絵本の豊かな言葉にふれることで、多くの表現の仕方があることを知ります。腹を割って自分の考えを伝え、相手と感情を分かち合う方法があること、そして怒りでさえ笑いながら伝える方法もあることを学びます。

表現能力を高めることは、今の新社会人に多いとされる「一人で問題を抱えてしまう」問題を食い止めるのに大きく役立つでしょう。

そしてもちろん、人間関係においても、その効果は発揮されます。なぜなら、多様性に満ちた絵本のストーリーにふれることで、種々雑多な人々、自分とは違った考え方、今まで想像もつかなかった環境が、世の中にあることを実感するから。

その結果、固有の価値観に縛られ「一定のタイプの人としか付き合えない」のではなく、「様々な環境に育った、異なる性格の人々を理解し、ありのまま受け入れる」度量の大きさが育ちます。

大切なお子さんが将来出会うリスクの高い「人間関係の悩み」と無縁になるために、親のあなたが今できること。それが、幅広いテイストの絵を見せ、バラエティ豊かな絵本を読み聞かせてあげることなのです。

読み聞かせタイムの一工夫で、新社会人トップ1の悩みも解決!

マイナビサイトによる社会人の悩みトップ1位は、「仕事が覚えられない」こと。その理由として、こんなことが挙げられています。

・難しい仕事ではないのに、同じミスを何度もして(中略)自己嫌悪に陥ってしまった
・なかなか頭に入ってこない

(引用:フレッシャーズ マイナビ 学生の窓口|社会人ライフ全般|社会人生活・ライフ|若手社会人に聞いた、今抱えている仕事の悩みTop5! 2位人間関係

実はこれらの問題も、幼少期からの絵本の読み聞かせで防ぐことができます。

これらは、すべて自分自身の中にある、結果重視の考え方から生まれる悩みです。

望まない結果である「ミス」。結果を重んじることで、ミスに過度にこだわり、失敗体験に囚われるようになるでしょう。すると、同じ過ちを何度も繰り返し、なかなか仕事が覚えられないという事態を招きます。

アメリカ・スタンフォード大学の心理学の権威、キャロル・S・ドゥエック氏の著書Mindsetに、大学生を対象に行った、こんな実験結果が記されています。

ある問題に正解した学生を、2つのグループに分けます。一方には学生の能力を評価し、こう伝えます。

あなたは頭がいいんだね。

もう一方には学生の努力を評価します。

一生懸命やったのが功を奏したんだね。

その結果、どうなったでしょう?

頭の良さを誉められたグループは、さらに難易度の高い設問に挑戦することに乗り気ではありませんでした。しかし、努力を誉められたグループは、もっと難しい問題にもどんどんチャレンジしていったのです。誉め方にもポイントがあるのですね。

絵本の読み聞かせタイムは、親子が1対1で、たくさん対話できる時間でもあります。

このときに、食べ物の絵本から話が発展し、子どもがこう話すこともあります。

ピーマンが食べられるようになったよ!

そこで、食べられたことは一緒に喜びながらも、努力の過程の部分を誉め、こう伝えてあげて下さい。

・苦手だったピーマンを食べようと思ったことが、すごいなとおもったよ。
・少しずつ小さいものから食べていて、ママ見ていてえらいなと思ったよ。

このような言葉がけにより、結果より「過程」を重視し、目標達成までの「努力」に注目できる子どもが育ちます。そして将来、一時の結果に悩まず、今後より良くするにはどうすればいいのかを考えながら、常にチャレンジを続ける大人へと成長していくことでしょう。

たとえ、たまたまミスをしてしまったとしても、その過程を振り返ることで、失敗から多くのことを学ぶことができるはず。今回できたこと、そしてこれから改善するべきことに目を向けることができると、頑張りを認め、自分を誉めながら、目標達成まで粘り強く前進し続けることができるのです。

いつか、我が子の新社会人の姿を

今、幼い我が子も、いずれ大人になります。そして、新社会人として世にでる日もくることでしょう。

記念すべき社会人一年目、楽しいはずの大型連休のゴールデンウイークで、我が子が会社を辞めようかと悩む姿を見るのは、親として辛いはず。その瞬間に直面したとき、苦しむ我が子にさりげなく寄り添ってあげるのも、親の大事な役目かもしれません。

しかし、もし将来の我が子の苦悩を未然に防ぐために、今できることがあるのなら、ぜひやってあげたいと思うのも親心ではないでしょうか。

五月病になって悩む姿より、意気揚々と新社会人生活を満喫し、初給料で親の私たちに「何をプレゼントしようか」と迷っているかわいい姿を見たいもの。

親子の関係は一生続きます。人生の長い道のりの中で、何が正解なのかは後になってみないと正直わかりません。

例えば、社会人一年目で「どうしても会社を辞めたい!」と思うほどの我が子の苦悩が、親の心配をよそに、その子のよりよい人生の幕開けとなる場合もあるでしょう。蓋を開けてみて、初めてその全貌がわかる。それが未来です。

でも、親はいつも「今、我が子にとってよかれと思うこと」をしてあげたいもの。心理学的な知見をふまえ、そのときそのときに自分の納得する子育てができていたら、たとえその先に何が待っていても、また自分で考えた上で最善の選択をし、新たな道を歩むことができるでしょう。

そんな未来に向けて、今、絵本を取り入れた子育てを始めてみませんか。

私は今も、そしてこれからも、親御さんの選択肢の一つとして、「絵本で親子の幸せを広げる子育て」を発信していきます。

バラエティ豊かな絵の参考絵本

■かわいくて癒される絵
【5歳位~】いもとようこ(2017),「しあわせ」,講談社.

■芸術的な線画の絵
【6歳位~】山中恒 作, 木下晋 絵(2005),「ハルばあちゃんの手」,福音館書店.

■美術作品のような絵
【4歳位~】ユリ・シュルヴィッツ, 瀬田貞二 訳(1977),「よあけ」,福音館書店.

■デフォルメされた個性的な絵
【3歳位~】やぎたみこ(2011),「ほげちゃん」,偕成社.

(参考)
日本経済新聞|静かに破綻していく新入社員たち
岸見一郎, 古賀史健(2013)「嫌われる勇気」,ダイヤモンド社.
フレッシャーズ マイナビ 学生の窓口|社会人ライフ全般|社会人生活・ライフ|若手社会人に聞いた、今抱えている仕事の悩みTop5! 2位人間関係
Carol S. Dweck(2007)Mindset:The New Psychology of Success, Ballantine Books.
いもとようこ(2017),「しあわせ」,講談社.
山中恒 作, 木下晋 絵(2005),「ハルばあちゃんの手」,福音館書店.
ユリ・シュルヴィッツ, 訳瀬田貞二 訳(1977),「よあけ」,福音館書店.
やぎたみこ(2011),「ほげちゃん」,偕成社.