あたまを使う/英語 2018.6.11

【田浦教授インタビュー 第10回】深い思考を表現できる英語力を――中高の英語教育のあり方――

編集部
【田浦教授インタビュー 第10回】深い思考を表現できる英語力を――中高の英語教育のあり方――

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第10回目をお届けします。

第9回では、上海の小学校における、質の高い英語の授業についてお話しいただきました。今回は小学校に加え、中学・高校の英語教育のあり方を探ります。

10歳の国語の思考レベルを、英語でも伝えられる授業が理想的

——前回、上海の英語教育は、ダントツに進んでいるとうかがいました。上海の小・中・高では、それぞれどのような英語力の育成を目標にしているのでしょうか?——

田浦先生:
10歳になると、だんだん他の人の立場になって考えることができる年齢になってきます。だから国語でも「他人の心情を考えながら物語を読みなさい」と言われるようになります。『ごんぎつね』って作品、ありましたね。「ああ、そうか、きつねはこんなことを考えてたんだ」と想像したものですね。

これを母語でできるということは、子どもの能力としてできるということです。英語の授業ではたまたま第二言語を使っているんですけれども、考えること自体は同じようにできるはずですね。ただ、その考えを英語で表出するだけの、表現力・文法力・単語力がないだけなのかもしれません。

だから、そこを補う英語の授業をするのが理想的ですよね。上海では、小学校の段階においては、おそらくそれができていると思います。

中高の英語教育では、深いことを表現できる英語力を

中学・高校になると、思春期の時期ですね。その頃、急激に認知能力が高まります。例えば、哲学や文学、美術や音楽のような、深いところに興味を持つようになるんです。

それを英語で産出するのはかなり大変なんだけれども、上海のように授業でパターンプラクティスをたくさんしていると、中学生になるまでに一定部分は自動化されているので、それを上手く組み合わせることで、深いところまで表現できるようになる可能性はありますね。上海の中高の英語教育では、そこを目標にしているのかなと思います。

でも、日本の高校の英語の授業でいきなりそれをやろうとしたら、難しいでしょうね。例えば、模擬国連に行くから「ウガンダの役をやってください」と言われたとしましょう。生徒はウガンダについてあまり知らないけれども、ネットで調べて準備をします。でも結局は暗記して、原稿をただ読むだけで、付け焼き刃になってしまうでしょうね。

これを上海の高校生にやらせると、いろんなことを表現できる英語の力を持っているから、知識だけ放り込めば、すらすらではないにしろ、ちゃんと表出できるのかなと思います。習熟しているチャンクを組み合わせたり、いろんな文型を組み合わせたりすることで、流暢性が高まります。その結果、自分はちゃんと話せるという自信を持てるようになるでしょうね。

中高生に短期留学は効果的

日本の中高生で、英語で自信を持って話せる子はなかなかいないですよね。留学に行っても、最初は難しいでしょう。

僕が初めて留学したのは、ほぼ40年前の大学生の時でした。英語は得意だったので、時間さえあれば、ちょっと遅いけれどもなんとか話せるかなと思っていたんですが、全く英語が口から出てきませんでした。

やっぱり受験勉強で学んだ単語と、実際にネイティブが日常的に使う単語は、重なる部分はあっても、違うところもありますからね。「なんだ、こんな単語の組み合わせや熟語で表現できるんだ」と驚いたものですね。

あるいは、同じことを話すにしても「僕だったらこう言うけど、ネイティブならああ言うんだ」というギャップもありますね。昔の受験勉強では、とにかく生の英語にふれる機会が少なかったんです。

今は中高の子どもたちは、学校を通して短期留学に行けますね。ホストファミリーとの生活の中で、一対一で「ああ、言いたいことが何も言えない」ってフラストレーションを感じるものです。だからその後、日本に帰ってきてすぐは、しばらく「勉強しよう」と思いますよね。

高校生になったら長期で、一年くらい留学に行けたら、一番いいでしょうね。行きたい人はもっと経済的な負担がなく、国からの補助金をもらって行けるようになればいいのかなと思います。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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複雑な思考や深いテーマについて、英語で表現できるスキルをつける。これは、2020年の英語教育改革で目指す方向と重なる部分ではないでしょうか。次回は、日本におけるこれまでの英語教育、そしてこれからの改革について、お話をうかがいます。