あたまを使う/英語 2018.6.9

【田浦教授インタビュー 第9回】小学校英語教育のあるべき姿とは? ダントツに進んでいる上海の英語授業

編集部
【田浦教授インタビュー 第9回】小学校英語教育のあるべき姿とは? ダントツに進んでいる上海の英語授業

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第9回目をお届けします。

第8回では、オーストラリアの小学校における、子どもの個性を伸ばす教育方針についてお話しいただきました。今回は、上海の小学校の英語授業を参考に、小学校英語教育のあるべき姿を探ります。

上海の英語教育はダントツに進んでいる

——小学校の英語教育は、どうあるべきだとお考えですか?——

田浦先生:
僕は上海の小学校から大学までの英語の授業を、ずっと見させてもらっています。先月は、小学校一年生の授業の見学に行きました。上海は、中国の中でも英語教育がダントツに進んでいる地域です。

上海の小・中・高の先生は、99%英語で授業をしています。単語を説明するときに、少し中国語をはさむ程度です。そして小学校から毎日、英語の授業をしています。中学校では7時間、つまり週5日のうち2日は、1日2時間の英語の授業があります。

授業では、リピーティングにしろ、音読にしろ、多読にしろ、チャンクリーディングにしろ、パターンプラクティスにしろ、第二言語習得研究で効果があると言われている学習法は全部、小学校からすでに取り入れられています。

上海の小学校における最新の設備と多彩な活動

中学校や高校だけでなく、小学校にも英語専門の先生がいて、ほぼネイティブレベルに英語を使いこなしています。もちろん、先生の英語が素晴らしいだけではありません。子どもが英語を使う機会をたくさん設け、テクノロジーも活用して、生徒の精神レベルに合った、とても良い授業をしています。

まず設備が、日本のものとは全然違います。電子黒板ってありますよね。今年行ったら、さらに最先端のものにアップグレードされていました。そこにパワーポイントの教材を映して授業を進めるんですが、先生が画面を指でさわると、赤字で文字が書けるようになるんです。また、ぴょんぴょんと指で画面を押すと、そこだけが拡大されるので、文字を大きく見せることもできます。

全教室にこのような最新の設備が整っているので、子どもが見るのはほとんどが動画です。静止画は少ないですね。子どもたちがいろんな動画を見て、きゃっきゃっと笑いながら、授業が展開されます。

子どもはしばらく同じ活動をしていると、飽きてくるものですね。でも上海の英語の授業では、活動がどんどん、めまぐるしく変わっていきます。子どもは5分も同じ活動をしていないんです。

そして授業では、9割方、子どもに発話させています。「あなたはどう思う?」「はい、このグループで話し合ってね」「ペアで発表してね」「みんなで言ってごらんなさい」。先生はこのように、指示を出すだけです。

やっぱり中国なので、イギリスとアメリカの例をいくつか学んだ後は、地域に即した話もしています。例えば、「上海ではケーキじゃなくて団子を食べるよね」「そうそう、私は甘いものよりも肉まんのほうが好き」。こんな感じで、英語で話し合うこともあります。

子どもにとってはすごく良い授業です。本当にうまく作られていて、僕ら研究者から見ても「えっ、もう授業終わったの?」と驚くほどです。

教科書も、先生も。見えないところに工夫がちりばめられている

教科書も、日本の薄い英語の教科書とは違います。上海の英語の教科書は分厚いんです。エクササイズがたくさん用意されていて、パターンプラクティスやリピートもふんだんにありながら、すごく面白く作られています。

英語学習で一番大事なのは、モチベーションです。子どもは面白かったら、やるものですね。だから教科書でも、動機付けを中心にしています。

そして先生は、クラスの雰囲気や子どものレベルに合わせて教材を使い分けて、的確に指導できます。ティーチングマシーンじゃないですからね。授業の中でも、パッと見ただけではわからないような小さな工夫が、たくさんなされているんです。

例えば、生徒が皆、カードを持っています。先生が教室を回りながら、正しく英語を言えた子には、ポンポンと片っ端からハンコを押していくんです。子どもは「スタンプが5つたまった!」と楽しめますね。これも動機付けにつながっています。

小学校一年生からずっと、ほとんど英語で、うまく細分化された教材を使って、レベルの高い授業をしていますからね。上海に比べると、日本の英語教育はとても遅れていると感じますね。そういうのをどんどん取り入れたらいいと思いますよ。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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設備も、教材も、そして何より先生も。上海の英語教育はとても質が高いようですね。小学校入学時から毎日このような英語の授業を受けていたら、子どもたちの英語力が伸びるのも頷けます。次回は上海の事例をふまえ、日本の小学校の英語教育のあり方について、お話をうかがいます。