あたまを使う/英語 2018.6.3

【田浦教授インタビュー 第6回】英語子育ては賛成? 反対? ――親は「お城のような」存在に――

編集部
【田浦教授インタビュー 第6回】英語子育ては賛成? 反対? ――親は「お城のような」存在に――

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第6回目をお届けします。

第5回では、オンライン英会話の学習効果と活用方法について、お話しいただきました。今回は、家庭における英語教育法として、英語が得意な親御さんの間でじわじわ注目を集める「英語で子育て」論の是非を語ってくださいます。

「英語で子育て」論の是非

——近年「英語で子育て」が注目されるようになりましたが、家庭で日本人の親が子どもに英語で話しかけることに対して、どう思われますか?——

田浦先生:
子どもは親から絶対的な愛情を感じるものですね。それは赤ん坊の頃からずっと、小学生、中学生、高校生になっても同じです。

年齢が上がり、思春期になるにつれて、受験や恋愛問題など、微妙な問題が増えてきます。たとえ家族みんな、英語が堪能だとしても、そのような微妙なところを子ども自身が両親に英語で伝えられるのか、そしてお父さん、お母さん自身がそれに応えられるだけの豊かな英語力を持っているのか、という問題があります。

だから僕は、子どもに対して親が母語でない言語で話すのは、はなはだ懐疑的な立場です。お子さんの英語教育について真剣に考えている方はたくさんいらっしゃいますけれども、その前に「子育てで何が一番大事なのか」を考えてみて欲しいと思います。

一番大切なのは、豊かな愛情を受けて、豊かな感性を持った子どもを育てることではないでしょうか。その中で付随的に「スポーツができたらいい」し、「音楽ができたらいい」し、「英語もできたらいい」。そういう文脈の中で話さないといけません。

「英語で子育て」に対する子どもの反応

子ども側からしてもやっぱり、お父さんお母さんが日本人で、ふだん夫婦の間や、近所の人みんなと日本語でコミュニケーションをとっているのに、なぜ自分に対してだけ英語で話しかけてくるのか、きっと不思議に思うはずです。

ヨーロッパでは、3ヶ国語話せる人が普通にいますよね。そのような環境で育った子どもは自然に複数の言語の使い分けができるからいいんですが、それでもある研究を読んだときに、僕「ああ、なるほど」と思ったことがあります。

例えばドイツに住んでいるフランス人の子どもで、家庭ではいつもフランス語で話しているとします。そんな子どもでも、お母さんの車で幼稚園に送迎してもらうとき、「ママ、幼稚園ではドイツ語使ってね、幼稚園はドイツ語しか使わない場所だから。恥ずかしいから、フランス語は話さないでね」と自分から言い出すそうなんです。

幼い子どもでもわかるんです。友達の中で、自分はフランス語話者ではなくて、ドイツ語話者だと示したいんですね。子どもは子どもなりにいろんなことを考えています。多言語が浸透しているヨーロッパでもそうなんだから、まして日本ではもっとありますよね。

英語は先生に任せて、お母さんは「お城のような」存在に

今の親御さん、特にお母さん方は、子どものことを思うあまり、英語教育ばかりに目が向きがちです。

例えば1日10時間子どもとふれあう中で、1時間だけ子どもに英語で話しかけるのならばいいのかもしれません。でも、10時間ずっと英語で話しかけて、子どもが日本語で返そうとすると”You have to use English.”(「英語を話さなきゃダメよ」)と親が厳しく返したら、親子関係がぐしゃぐしゃになるんじゃないかなと心配になります。

きっと何か困ったら子どもが真っ先に行くのはお母さんのところなんですよ。お父さんじゃないんです、悲しいですが(笑)。だから、子どもとの関係性を一番大切に考えて欲しいですね。その上で、英語教育について考えていただければいいのではないでしょうか。

ただどちらかというと、日本人の親が家庭で子どもに英語で話しかけることで英語を身につけてもらうよりも、良い先生を見つけて、毎日その先生のところに行かせる、または来てもらう方がいいと思います。

英語は先生に任せて、自分は母親として「何か困ったことがあったら来なさい」という姿勢で、子どもが安心感を感じられる、お城みたいなところでいるほうがいいと思うんです。

まずは子どもに愛情を注ぎ、家族の時間を大切に

僕は以前、研究のために半年間イギリスにいたんですけど、エセックスの田舎の川沿いで、家族全員が週末に散歩をしているんです。お父さん、お母さんはもちろん、小学生や高校生の子ども、時には親戚まで一緒です。

「ええ、こんなに仲良しでいいの?」と驚いたのと同時に、「ああ、もしかしたらこれは日本の家庭の中でなくなりつつあることなんじゃないか」と思いましたね。

家族や親戚で集まってみんなで散歩に行くなんて、日本ではあまり見ない光景ですよね。日本の子どもは、塾やクラブ活動であまりにも忙しすぎて、家族とゆっくりすごす時間が少ないですね。

中学生、高校生のような反抗期の間でも、大事な友達がいるにしても、やっぱり一番居心地がいい存在。それが、家族のあるべき姿ではないでしょうか。

ましてや日本では、幼稚園や小学校は、親が関われる最後の時ですよね。中学校や高校に入ると、子どもはクラブ活動で本当に忙しくなりますからね。

だから英語ももちろん大事なんだけれども、家族の時間を大切にして、子どもを愛情豊かに育てることが、まずは一番重要なことだと思います。

他人の気持ちがわかり、友だちが悲しがっていたら、そばにいて慰めてあげられる。うまくいっている友だちを見て、妬むのではなく「よかったね」と言える。そんな人間でないと、いくら英語ができても意味がないでしょう。

育児の時間はあっという間ですよ。今は社会人となっている自分の子どもの子育てを振り返ると、勉強を教えたことよりも、一緒にサッカーや野球をしたり、オーストラリアの広い芝生で追いかけっこしたりしたことが、一番記憶に残っています。

ぜひお子さんとの時間を大切にして、愛情豊かに育ててください。その上で、英語教育について考えていただけたらと思います。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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まずは人格形成、その上でスキル形成。いくら高い英語力があっても、人間性が育っていなければ意味がありません。英語は信頼できる先生に任せ、親御さんはまずお子さんに愛情をたっぷり注いだ上で、その子の成長をあたたかく見守っていきたいものですね。

でも、大切なお子さんの幼少期の英語教育を担うには、具体的にどのようなスキル・経験をお持ちの先生がベストなのでしょうか? 次回は「良い英語の先生」の条件について、お話をうかがいます。