あたまを使う/英語 2018.5.28

【田浦教授インタビュー 第3回】幼少期の「英語の貯金」は頼りになる? 英語力の喪失と維持

編集部
【田浦教授インタビュー 第3回】幼少期の「英語の貯金」は頼りになる? 英語力の喪失と維持

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第3回目をお届けします。

第2回では、言語の習得と年齢の関係、そして英語教育の早期化の意義について、お話しいただきました。思春期前の幼少期に英語にふれることは、田浦先生も大賛成とのことでした。

でも、せっかく小さい頃に英語を学んでも、しばらく使わないと英語力は落ちてきてしまうもの。今回は、言語能力の喪失と維持について探ります。

記憶回路は5歳以降に完成する

――「小さい頃に英語を頑張ればまずは一安心」、または「うちの子は海外経験があるから英語は大丈夫」と考える親御さんもいるようです。幼少期の「英語の貯金」はどれくらい頼りになるものなのでしょうか?――

田浦先生:
例えば幼い子どもが海外で暮らし、5歳前に日本に帰ってきたとしましょう。現地では英語を流暢に話していたとしても、帰国後はまるで何もなかったかのように、あっという間に忘れてしまいます。

大人になって「おまえ、小さい頃にイタリアに住んでいて、イタリア語ペラペラだったんだぞ」と家族から言われても、本人が「ええ!?」と驚くくらい、すっかり忘れてしまうものなのです。

もちろん、大人になって初めてイタリア語を学び始める他の人に比べたら、少しは上達が早いでしょう。でも、そこまで差はありません。それは、脳の発達と関係があります。

皆さんは、一番小さい頃の記憶は何歳の時ですか?

普通、頭が大きいと、なかなかお母さんの体から出てこれませんね。だから、生後どんどん脳が大きくなっていきます。そして脳の中の記憶回路がしっかり成長して、大人と同じくらいになるのは、5~6歳の頃です。

だから記憶回路の完成後、5歳以降のことは、中には忘れることがあったとしても、覚えていることも多いんです。

一方、5歳前に経験したことは、記憶回路が十分に発達していないので、たくさん経験しても、記憶として残らないんです。それまで英語を上手に使っていても、5~6歳前に帰国するときれいさっぱり忘れてしまうのは、だからなんですね。

長期留学後でも、帰国子女でも、ネイティブでも! 言語は使わないと忘れてしまう

だから帰国子女の子どもでも、帰国後にかなり努力しないと、海外で培った英語力を維持できません。小さい頃から海外にいる場合、ネイティブのようにペラペラ英語を話せるようになるのですが、それでも日本に戻るとすぐにできなくなってしまいます。

僕が100人程度の帰国子女のお子さんを対象に行った調査結果によると、どれだけ海外に長くいて、どれだけ英語が流暢でも、帰国して12ヶ月したら、ほとんどの子どもの英語の流暢さ(fluency)は少しずつ落ちていきます。

子ども自身は、英語が喉まで出かかっているんだけれども、どうしても口から出なかったという瞬間に、それを自覚するようです。これ、イライラしますよね。あんなにスラスラ話せていた英語が、もう以前のように使えない。そんな気づきが、帰国後半年~12ヶ月の間に、必ず出てくるのです。

考えてみたら当たり前のことですよね。いくら昔テニスが得意だったとしても、10年ぶりにラケットを振ってみたら、うまくプレーできるわけないですよね。「あれ、感覚がつかめない」って思うはずです。英語も同じなんですね。

例えば、母語が英語で、日本語も勉強してある程度話せる外国人が、国連に勤めて英語で仕事をする一方で、日本人の女性と結婚し、家では日本語を使うとしましょう。こうすると日本語も英語もうまくできますよね。

ただ、この人が日本の外務省に転職して、職場でも日本語を使うようになると、英語力が徐々に落ちていきます。母語でさえも、5年くらい使わないと、言語能力は落ちてくるんです。

ましてや、ゼロから始める外国語の英語は、しばらく使わないと、どんどん忘れていってしまいます。時間とお金を投資し、アメリカの大学に4年間ずっと留学して一生懸命英語を身につけたところで、帰国後に日本語の環境にどっぷりつかってしまうと、流暢性はかなり早い時期に落ちてしまうんです。

使わないとダメ、ということですね。英語にふれる機会(exposure)が全くなくなると、言語の産出能力(production)を維持できないのです。

幼少期に培った英語力を維持するために

せっかく小さい頃に英語を身につけたのに、忘れてしまってはもったいないですね。だから、子どもが英語力を維持できるよう、親御さんや先生が気をつけてあげることが重要です。

例えば、英語のDVDを見せてあげる。メールで海外の友人とやりとりする。Skypeを通して英語で会話する。すでに英語をコミュニケーションツールとして使ったことのある子どもならば、このような工夫により、言語能力の低下を少しでもおさえることができます。

あるいは、できるだけ早い時期に、お子さんにリテラシー(読み書き能力)を身につけさせてあげるのも効果的です。英語のスペルは、なかなか面倒くさいですよね。”laugh”(ラフ)の「フ」を gh と綴るなんて、 「なんで?」って思いますよね。知らないと想像もつかないでしょう。

リテラシーを身につけると、自分で英語の本を読めるようになります。本を読むことで、新しい単語を覚えられるようになるので、英語力の維持のためにもいいですよね。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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幼少期の英語経験だけでは、時が経つにつれて、英語力は喪失してしまうのですね。お子さんの英語学習は、末長く見守っていく必要がありそうです。次回は、今回お話に挙がった英語DVDの学習効果と活用方法について、お話をうかがいます。