からだを動かす/ダンス 2018.5.20

【夢のつかみ方】ストリートダンサー・マシーン原田さん(前編)~夢に近づくために「ハマり症」であれ!~

【夢のつかみ方】ストリートダンサー・マシーン原田さん(前編)~夢に近づくために「ハマり症」であれ!~

いま子どもたちに人気がある「習い事」の上位には、必ずと言っていいほどダンスが挙がってきます。ダンスを楽しんできた人たちが親世代になったことも影響し、とくに日本のキッズシーンはここ数年さらに盛り上がりを見せているようです。そんなトレンドが続くなか、ストリートダンス草創期から第一線で活躍し、レジェンドとして存在するダンサーがいます。現在は、日本最大のストリートダンス大会『JAPAN DANCE DELIGHT』をはじめ数々のダンス大会を主催するなど、日本を代表するオーガナイザーとして活動するマシーン原田さん長年のダンス経験を通して得た、「夢のつかみ方」について伺いました

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介

床に頭をつけて回転!? 1本の映画がストリートダンスの虜にした

マシーン原田さんがストリートダンスに出会ったのは17歳のころ。それまでは高校の陸上部に所属し、インターハイ出場を目指して厳しい練習に明け暮れる毎日でした。しかし、インターハイ予選前日に思わぬ怪我をしてしまい、それは叶わぬ夢となります。そんな高校3年生の部活動が静かに終わろうとしていた、夏のことでした。

「『フラッシュダンス』という映画を観て、ブレイクダンスの存在を知ったのです。初めて目にする身体の動きでよく理解できなかったのですが、同時に『すごくカッコイイな!』って。その後に、全編がヒップホップで彩られた『ワイルド・スタイル』という映画にも出会い、この1本から決定的な衝撃を受けました。それこそ背中を使って踊ったり、頭を使って回転したりと、当時のわたしが考えていたダンスという範疇をあらゆる意味で超えていたのです。「こんなカッコイイことが世のなかにあるの?」って思いましたよね。まさに、ブレイキングの洗礼を全身で受けてしまったのです」

※ストリートダンスのカッコよさに衝撃を受けその洗礼を全身で受けた若き日の原田さん

「すごい!」と思ったときに、夢をつかめる人が最初にすること

映画『ワイルド・スタイル』の衝撃――。その映像を目に焼きつけた原田さんは、翌日ある行動に出ます。体育館に行き、さっそくひとりで映像を頭で思い出しながらバックスピン(※背中を地面につけて重心を取りながら回転する技)に挑んだのです。

「もちろんブレイクダンスという代物ではなく、ただ自己流で回っていただけ(笑)。でも陸上部で身体を鍛えていたせいか、見よう見まねにしては背中でうまく回れたのです。『あ、回れた!』と、それはうれしかったですね。そうなると、『もっと、もっと』と止まらなくなるもの。何度も何度も繰り返しチャレンジしているうちに、自分ではすっかりストリートダンサーのつもりになっていました」

どんなことも「最初の一歩」を踏み出すことは難しく、勇気が必要。ただ「夢をつかむ」という意味では、なにかの衝撃を受けたときに、たとえ手段や方法がわからなくても、実際にすぐ自分でやってみるかどうかがとても大切な要素だと原田さんは言います。

「人って、生きているなかで本当にいろいろなものに感銘を受けますよね。でも、そのときはやってみようと思っても、ほとんどの場合は数日も経つと『まぁ、いいか……』とやらないことがほとんどじゃないですか。これは年齢的な問題でもなく、わたし自身若いころでも、ダンス以外のほとんどのことに対して最初の一歩を踏み出しませんでした。いまで言うなら、たとえば『錦織圭ってすごい!』と思っても、翌日すぐにラケットを買ってきてテニスははじめないでしょうし、『羽生結弦くんカッコイイ!』と思っても、ほとんどの人はいきなりフィギュアスケートをはじめないと思うのです」

衝撃を受けた当の本人でも、すぐに別のものに流されたり、いつのまにかその衝撃自体を忘れてしまったりもする。ましてや子どもをサポートする親なら、かなり注意して子どもを見ていないと、せっかく子どもが出会った興味や関心に気づけなくことだってあるかもしれません。

「それが普通だと思いますよ。でも、そこでやるかやらないか。『どうしてもやりたい』と思えるかどうかで最初の一歩が決まります。夢をつかめるかどうかは、そういう意志の強さで決まってしまうのです。ただ『すごい!』と思ったのか、それともそのすごいことを『自分もやってみたい』と思ったのか。そこには大きなちがいがあるはずです」

夢に近づく条件のひとつは、徹底的に「ハマり症」であること

ブレイクダンスの洗礼を受けた原田さんは、心の底から「これをやりたい」「どうしても背中や頭で回りたい」と思ったそうです。しかし、そのように強く思えるためには、なにかしらの背景や条件、生まれ持った素質などは関係していなかったのでしょうか。

「それは難しい質問ですね……。個人的には、ある衝撃を体験することに必要条件などはないと思います。ただ、たしかにダンスに興味を惹かれる素質は持っていたのかもしれませんね。もともとわたしは身体を動かすことが好きだったし、ダンスをする前は、当時絶大な人気を誇ったジャッキー・チェンに夢中になっていました。あまりに好きだったので、『オレはジャッキーになるぞ!』とまわりに宣言して(笑)、彼のマネをして肉体を徹底的に鍛え上げたのです。ベンチプレスセットやサンドバッグを購入し、映画や本を参考にカンフーの練習に明け暮れました。腕立て伏せも、1日1000回以上は毎日やりましたよ。普通は1日1000回も腕立て伏せをやるなんてあり得ないと思いますが、頭のなかにある自分の限界というものは、やってみたら意外と超えていけるのだとそのとき知ったのは大きかった。そんな自分の限界を超えていくことが気持ちよかったし、身体を鍛えるごとに憧れが増し、ついには監督・脚本・演出・主演で自主制作映画までつくったほどでした」

※高校2年生当時の原田さん。ジャッキー・チェンに憧れた

じつは原田さんは、自他ともに認める「ハマり症」。ある時期には映画『スター・ウォーズ』にハマったり、当時流行したインベーダーゲームに夢中になったりと、興味をもったことにはとことんのめり込む性格だったそうです。なかでも、ジャッキー・チェンへのハマり方は、周囲の誰もが驚くほどの飛び抜けたものでした。

「それだけ身体を鍛え抜くことに夢中になった経験があったからこそ、身体ひとつで表現するダンスに惹かれたのかもしれないし、映画を観たときに『できるかも!』と思えたのかもしれません。また、映画自体が好きだったから『フラッシュダンス』に出会えたのだろうし、その後に『ワイルド・ダンス』の存在も知ることができたのでしょうね。当時はインターネットなど当然ありません。その意味ではいまのように便利な世の中ではなかったけれど、「ハマり症」であることは好きなものの情報への感度が高まるわけです。たとえ夢に直接つながらなくても、夢をつかむための大切な資質なのかもしれません

父親からはサポートどころか、つねに「反対」しかされなかった

そんな「ハマり症」の性格であることや、ストリートダンスの世界へ果敢に一歩を踏み出していった原田さんに対して、親からの声がけやサポート、まわりの環境の影響などはあったのでしょうか。

「わたしがハマり症であることに、親や環境の影響はほとんどないと感じます。親がなにかに夢中になっていたという記憶もまったくないので、おそらくは生来の性格なのでしょう(笑)。しかも、わたしは小さいころからなにをしても、親からはサポートどころかつねに反対しかされませんでしたから」

とくに父親は教育熱心だったこともあり、子どものころから勉強も好きだった原田さんに大きな期待を抱いていました。しかし、勉強以外で原田さんが夢中になり、「やりたい」と思ったことについてはほとんどにおいて認められなかったそうです。

「子どもがやりたいことなんて、父から見ればすべて遊びに見えたのかもしれませんね。母は一生懸命に口説いたら、『仕方ないね』と認めてくれる人ではありましたが、積極的にサポートしてくれる感じではなかった。つまり、いま思えば、夢をつかむということに関してけっして良い環境ではなかったと思います(苦笑)」

※1994年、大阪城公園で踊る原田さん

※後編に続く→

【プロフィール】
マシーン原田(ましーん・はらだ)
1964年生まれ、大阪府出身。株式会社アドヒップ代表。1980年代前半に、映画『フラッシュダンス』『ワイルド・スタイル』などを見てブレイキングに出会い、ダンサーとしてのキャリアをスタートさせる。伝説のブレイクダンスチームであるAngel Dust Breakersのリーダーとして活躍。その後、世界最大級のストリートダンスコンテスト『JAPAN DANCE DELIGHT』をはじめとし、数多くのダンスイベントを運営するなど大きな発信力と影響力を持つようになる。1994年から22年間にわたり発行したフリーペーパー『DANCE DELIGHT MAGAZINE』は、日本全国のストリートダンスファンを夢中にさせた。著書に『35年間ダンスを踊り続けて見えた夢のつかみ方』(ザメディアジョン)がある。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。

35年間ダンスを踊り続けて見えた夢のつかみ方
マシーン原田 著
ザメディアジョン(2017)