あたまを使う/将棋・囲碁 2018.4.23

【夢のつかみ方】プロ棋士・西尾明さん(前編)~進路に迷ったら、自分はなにをしたいのかを優先する~

【夢のつかみ方】プロ棋士・西尾明さん(前編)~進路に迷ったら、自分はなにをしたいのかを優先する~

現在C級1組に属し、コンピュータ将棋における卓越した知識を持つことでも知られるプロ棋士・西尾明六段。西尾さんが、プロ棋士の養成機関である「奨励会」に入会したのは、小学5年生のとき。それからプロと呼ばれる四段になるまでに、12年半を要することになります。史上最年少のプロ棋士・藤井聡太さんの登場で注目を集める将棋界で、夢をつかむためにはどうすればよいのでしょうか。西尾さん自身の経験から、プロになるために子どもたちに必要なこと、親にできることについてアドバイスをもらいました

取材・文/洗川俊一

夢のはじまりは小学3年生

――西尾さんが本格的に将棋をはじめたのはいつごろのことですか?

西尾さん:
本格的にはじめたのは、小学1年のときに将棋センターに通いはじめたころから。センターにいる大人の方々と将棋を指したり、指導員の方に定跡を教えていただいたりしましたね。将棋を覚えたのはもっと早くて、3歳のころです。祖父と伯父が将棋を指しているのを見て、なんとなくルールを覚えました。そのころ1~2回程度将棋センターに行ったこともありましたが、それは、母の買い物を邪魔しないように、2歳上の兄と一緒にセンターに置いていかれていただけ(苦笑)。将棋を勉強しにいくというより、遊びに行く感覚でしたね。

――小学3年生のときに小学生将棋名人戦で準優勝したそうですね。それがプロの棋士を目指すきっかけですか?

西尾さん:
そうですね。それまでは兄のほうが少し強くて、分が悪かったですから。いまと比べると大会の規模はとても小さいのですが、小学生を対象とした全国大会での準優勝で将棋に対する自信が芽生えてきました。そのときはじめて、「もしかすると自分は将棋が強いのかもしれない」と思った記憶があります。将棋を本格的にはじめて2年くらいですから、そう勘違いしてもおかしくないですよね。

――プロの棋士を養成する奨励会に入会したのは、準優勝してからすぐ?

西尾さん:
最初は、プロ棋士の養成機関である奨励会の下部組織にあたる研修会に通うようになりました。そして、小学4年のときに奨励会の試験を受けます。試験を受けるにはプロ棋士と師弟関係を結ぶ必要があるので、通っていた研修会の幹事の方に紹介していただきました。プロを目指すには、プロ棋士の方に弟子入りするかたちを取ります。最近はプロ棋士の方が将棋教室を開いているケースが多いので、そのまま弟子入りするパターンが増えてきているようです。

――奨励会の試験について具体的に教えてください。

西尾さん:
奨励会の試験は年に1回、夏にあります。1次試験が受験者同士による対戦で、2次試験が奨励会の方との対戦。応募者はだいたい40~50人で、1次試験で12~13人くらいに絞られ、2次試験で奨励会の6級以上の方に勝てば合格。6級は、奨励会のなかでいちばん下の階級です。2次試験で落ちる人は少ないのですが、わたしは最初の年は落ちました。3回戦って3連敗……入会できたのは翌年の小学5年のときでした。ただ、プロになる厳しさはここからです。毎年、12~13人が入会してきて、プロになれるのは年間たった4人ですからね。

――西尾さんは、奨励会に入会してプロになるまでに何年くらいかかりましたか?

西尾さん:
12年半かかりましたね。わたしの場合は結構時間がかかったかと思います。奨励会に入ると、定期的に対局が組まれていて、その成績でひとつずつ上の階級に上がることができます。下は6級からはじまって1級の上が初段、そして四段に到達するとようやくプロです。とくに厳しい戦いになるのが、プロへの最後の関門となる三段リーグ。半年に1回リーグ戦が行われ、成績上位のふたりが四段に昇格できます。晴れてプロになれるのは、半年にふたり、年間4人というわけです。ちなみにわたしは、この三段リーグを突破するのに4年半くらいかかりました。いま話題の藤井聡太くんはたった1期でその難関を突破。半年で抜けていきましたけどね(笑)。

本当にしたいことは学業よりも将棋だった

――プロをあきらめようと思ったことはありましたか?

西尾さん:
ええ、それはありますよ。三段リーグのころではなく、中学生、高校生のころかな。なかなか勝てなくて昇級できないときは、「自分は将棋の世界でやっていけるのか……」と本気で悩みました。奨励会のなかにいるとプロになる厳しさを肌で感じますし、その厳しさを目の前にしてモチベーションを長い期間維持するのが難しくなるんです。プロの棋士を目指す場合、だいたい中学、高校を卒業するタイミングがターニングポイントになりますね。とくに高校を卒業するときに大学に行くのか、将棋の道を選ぶのかというのは人生の大きな選択になる。大学進学を選んで奨励会を辞めていく人たちは実際に多いんです。同期でプロ棋士として残ったのは4人です。

――そのタイミングで西尾さんがプロの棋士を選んだ理由はどのようなものだったのでしょう。そのとき誰かに相談しましたか?

西尾さん:
高校生ですから、プロ棋士になるというモチベーションをずっと高く保つのは難しいですよね。フラフラしている時期もありますし、他のことに目が移る時期もあります。それでも、本当になにをしたいのか自分自身に問いかけると、やっぱり学業よりも将棋だったんですよね。わたしの場合、大学へ進学はしましたが、三段リーグを突破するために、大学を中退することになりました。

わたしが子どもたちにアドバイスするとしたら、いつも「自分はなにをしたいのか」を優先してほしいということです。そして、親御さんには可能な限りその決断を応援してほしい。うちの両親は、小さいころから「自分の好きなことをしなさい」というスタンスでしたから、わたしの決断に対して口をはさむことはありませんでした。もともと母は、「大学へ行かずに将棋に専念したほうがいいのではないか」と言っていたくらい。大学へ行ったのも自分の意思でしたし、自分のやりたいようにやらせてもらいました。それがいまの自分につながっているのは間違いありません。

※後編に続く→

【プロフィール】
西尾明(にしお・あきら)
1979年9月30日、神奈川県出身。1990年9月に6級で奨励会に入会、2003年4月に四段となりプロ棋士に。2011年4月に六段に昇段。横歩取り戦法や角換わり戦法など激しい戦いを好む居飛車党。日本将棋連盟の子供スクールにて講師の経験も持つ。おもな著書に、『よくわかる角換わり』(マイナビ将棋BOOKS)、『矢倉△5三銀右戦法』、『矢倉の基本』(マイナビ出版)、などがある。浅野高校卒業、東京工業大学中退。趣味はギター。

【ライタープロフィール】
洗川俊一(あらいかわ・しゅんいち)
1963年生まれ。長崎県五島市出身。株式会社リクルート~株式会社パトス~株式会社ヴィスリー~有限会社ハグラー。2012年からフリーに。現在の仕事は、主に書籍の編集・ライティング。