あたまを使う/国語 2018.5.4

なんば先生の国語教室【第4回】読み聞かせこそ国語力の基本をつくる

難波博孝
なんば先生の国語教室【第4回】読み聞かせこそ国語力の基本をつくる

こんにちは、難波です。急に暑くなりましたね。季節は確かに変わっていっています。

前回は、大学共通テストの記述テストをご紹介しました。その問題パターンは、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)と同じだということもお話ししました。

そのパターンとは、問題文に明示された複数の条件をすべて満たさなければ正解にならない一つでも条件を落とすとすべて不正解になるということでした。そして、先日行われた大学入学共通テストのプレテストのある記述問題では、正解率がわずか0.7%だったのでした。

このような記述問題を解くためには、素直に聞く力が必要だともお話ししました。なぜなら、相手が出した条件をまず素直に受け止めることが必要だからです。

そして、そのような力を育てるためにふさわしいのが、読み聞かせなのです。今回はそのお話をしたいと思います。

自我を育てる現実世界・素直さを育む虚構の世界

元気に遊んでいる子どもも、ゲームに没頭している子どもも、読み聞かせになるとみんな素直に聴いています。時に笑い、時には登場人物になって叫び、時には悲しくなって泣いてしまう。読み聞かせのときは、子どもたちは本当に素直に物語世界に入っています。

第一次反抗期前後、子どもたちは自我を持ち「いやだ」「やりたい」「やりたくない」……と自分を出し始めます。いい意味で「ひとりよがり」、つまり自我を持つようになっていきます。もちろん、これは成長していくためにはぜひとも通らなければならない道です。

一方で、周囲の言葉をしっかり聞く子どもに育つことも大切です。そして将来的には、書かれた文章の意味やその奥底にある思いをしっかり受け止める子どもに育って欲しいですよね。つまり、素直さも持ってほしいということです。

素直であり、かつ、自我をもつ子どもになってほしい。これほど矛盾した願いはありません。実際、自我を持ち始めた子どもに、現実の場面で「素直になりなさい」と親がいくら叫んでも、子どもはどんどん遠ざかってしまうでしょう。

そこで登場するのが、おはなしの世界です。虚構の世界です。

読み聞かせで表現される世界は、虚構の世界です。子どもたちは、語りに引き寄せられ、虚構の世界に入っていきます。そして、そこで繰り広げられるさまざまなできごと、登場人物の思い、色鮮やかに描かれたものやことなどを、素直に、ありのままに、受け止めていきます。

あれほど現実の世界で「いやだ!」「ぼくが!」「わたしが!」と叫んでいた子どもが、読み聞かせのときには、素直に、ありのままに、虚構の世界を受け止めます。この経験が、子どもの「素直に聞く力」を育てるのです。

つまり、現実の世界では自我が育ちつつ、虚構の世界にお手伝いをしてもらい素直さを育ててもらっていると言っていいでしょう。

読み聞かせがもたらす“心地よさ”

虚構の世界に入り込むことで、素直に聞くという力が育つことはなんとなくわかります。それならば、一人で物語の本を読んでも同じようにその力は育つのでしょうか。

もちろん、成長するにつれて一人で物語を読まなければなりません。しかし、子どものときだけではなく、できれば小中高生や大人になっても読み聞かせを体験してほしいと思います。なぜなら、一人で読むことにはないものが、読み聞かせにはあるからです。

それは、生身の(そして愛する、親しみを感じる)人の声で読んでくれるというところです。

一人で本を読んでいるとき、頭の中で繰り広げられるのは、自分の声です。自分の声で、自分のタイミングで、本が読まれていきます。それはそれで気持ちがいいですが、そこには驚きはありません。

でも、他人の声で物語を聞くとき、人は、他人の声に自分を委ねます。自分ではどうしようもできない流れに身をまかせる心地よさに浸ることができます。その心地よさに惹かれながら、お話が私たちの心と頭に、すーっと入ってくるのです。

他人の声でいいのなら、機械の人工音やプロの朗読者の声でもいいのでしょうか? もちろん、それらにはそれらのよさ、面白さがあります。しかし、生身の、自分が親しみを持つ人の声で聞く格別さは、それらに勝ります。

いつも自分をやさしく見守ってくれるおかあさんの怖そうな怪獣の声(『かいじゅ
うたちのいるところ』)、いつも忙しそうにしているお父さんののんびりしたくまさんの声(『ぐりとぐらのえんそく』)、いつも元気なお兄ちゃんの悲しそうなライオンの声(『やさしいライオン』)……想像しただけでドキドキワクワクしますよね。

読み聞かせは、あなたが好きな、あなたに身近の、あなたがよく知っている、あなたが待ち望んでいる、その人の声で、物語が聞こえてくるところに、その素晴らしさがあるのです

その声に乗ってやってくる物語の全てを、子どもたちは、素直に受け止めていくでしょう。

届けたい思いを声に込める

素直に聞く力を育てるには、他にも多くのやり方がきっとあると思います。けれど、もっとも簡単で、もっとも楽しいのは、あなたが、あなたのそばの子どもに、自分の声で物語を届けることなのです。

そして、ぐりに、ケロに、アンパンマンに……、子どもの言葉の力を育てる手助けをしてもらいましょう。なにより、あなたが自身が楽しくなり、あなた自身が子どものことを素直に受け止められるようになると思います。

親でなくても、親戚でなくても、だれでもいいのです。その子どものことを知っている誰かが、その子どもに読み聞かせをすることで、物事を素直に受け止められる子どもがきっと増えると思います。

さて次回は、大学入試が変わり、教育が大きく変革する中で、小学校の国語科授業がどう変わっていっているかお話ししたいと思います。