2018.4.13

なんば先生の国語教室【第1回】ことばの力って何だろう

難波博孝
なんば先生の国語教室【第1回】ことばの力って何だろう

私たちが普段何気なく話している「ことば」。

たった一言で生きる勇気が湧いてくることばもあれば、ずっと心にひっかかって忘れられないことばもある。ひとつのことばにたくさんの人の思いが込められていること、そしてその思いを受け取った人がまた別の人に思いをつなげること。それはメールやSNSなどで「ことばを伝える」ことがぐっと身近になった現代だからこそ、子どもたちに教えていかなければなりません。

そこで、国語教育のスペシャリスト・広島大学教授の難波博孝先生による「国語を学ぶすべての子どもたちと親御さんに伝えたいこと」を全10回にわたる連載でお届けします。

「一生懸命」? それとも「一所懸命」?

春になり、新一年生が重そうにランドセルを背負って、おにいさんおねえさんに一生懸命ついていこうとする姿が目につく季節になりました。

私が勤める広島大学にも、まだ落ち着かない雰囲気でキャンパスをうろうろしている新入生に出会います。彼ら彼女らも授業の最初は一生懸命講義を聞いてくれるでしょう。この姿はいつまでも続いてほしいものです。

みなさま、はじめまして。私は、広島県にある広島大学教育学部で国語教育を研究し、主に小学校の先生を育てる仕事をしている難波博孝(なんばひろたか)といいます。

私は、最初に二回「一生懸命」ということばを使いました。この言葉からは、新入生たちが自分の一生のメモリアルになるかのように頑張る姿が浮かんできますね。

ただ辞書を引いてみると(今ではインターネットですぐに調べることもできますが)、もともとは、自分の領地を命懸けで守るという「一所懸命」という言葉だったようです。時代を経て「いっしょけんめい→いっしょうけんめい」と読み方が変わり、「いっしょうけんめい」に「一生懸命」という漢字が当てられたのです。

では、「一所懸命」「一生懸命」どちらが正しいのでしょうか。

もちろん、どちらも正しいです。武士が活躍していた時代は自分の土地を必死で守る「一所懸命」が合っていたでしょうし、自分で自分を守るのに必死である現在は、「一生懸命」がぴったりでしょう。

ことばは時代で変わるのですが、そこには、その時代に生きる人々の思いが込められているのです。

ことばの力は、ことばに込められた人々の思いを受け止める力でもあるのです。

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今も昔も変わらない“子どもの名付け”に込められる思い

この連載を担当してくださっているのは「野口燈」さんです。お名前の「燈」はどうお読みするのでしょうか。

」は「ひ」「ともす」「とう」などの読み方がありますね。同じ読み方をする漢字として「」もあります。あれ、「」と「」はどう違うのでしょう。そして、「野口燈」さんの「燈」の読み方は?

「灯」と「燈」には人名漢字としてフシギな歴史があったようです。また今は「燈」は「灯」の旧字となっていますが、もともと「灯」には「激しい火」という意味があったようです。それがいつのまにか「燈」の略字となり、今は、「燈」の代わりに使われるようになりました。漢字の歴史は、人の歴史みたいですね。

そうそう、「野口燈」さんの「燈」の読み方でしたね。「あかり」さんと読むそうです。おそらく、世の中を照らす「あかり」となってほしいという名付けた方の思いが、この漢字と読み方に込められています。

このように、ことばには、人の思いを吹き込むことができます。

この記事を読んでくださっている方は子育て真っ最中の方が多いでしょう。お子様をお持ちの方は、自分のお子さんに、いろいろな思いを込めて名付けたことと思います。古風な名前、キラキラネーム、いろいろな名付けがあります。

時代によって名前は変わっていきます。けれど、名前には必ず名付けびとの思いが込められています。1,000年前も今も。そして、その思いを当の本人の子どもはだいたい気づいていませんね。

ことばの力とは、ことばに思いを込める力であり、ことばから人の思いをくみとる力だと思います。

人と話をする時、誰かに向かって文章を書く時、自分の思いをうまく言葉に乗せることができる力。人の話を聞く時、誰かが書いた文章を読む時、ことばに込められた思いをくみとることができる力。それらが、ことばの力の基盤だと思います。

次回詳しくお話しますが、大学入試が大きく変わろうとしています。いえ、大学入試だけではありません。幼児教育から小中高の教育、そして大学教育まで、全ての段階で現在教育改革が進んでいます。

この文章を読んでくださっているみなさまには、右往左往することなく、子育てに向かっていってほしいと思います。そのためには、先を見通すことです。先を見通すことができれば、不安が少なくなり、落ち着いて子育てに向かうことができるでしょう。

この連載では、ことばの教育の面から、先を見通し、今なにをするべきかについて、私の考えをお話したいと思っています。

なんば先生の国語教室第1回2

今後ますます必要とされることばの力

変わっていく教育社会の中で、それに合わせながらも変わらず持ち続けるべき「ことばの力」とは何でしょうか。

それは先ほども述べたような「ことばに思いを吹き込む力」「ことばから思いを汲み取る力」だと私は考えます。

そして、「ことばに思いを吹き込む力」「ことばから思いを汲み取る力」をつけることは、記述式が導入される大学入学共通テストでも結局役に立つことになるのです。

そうなのです。現在、センター試験と言われる国公立大学(一部私立大学)に入学するために必ず受験しなければならない共通のテストに、2020年から記述式の設問が導入されるのです。これは戦後最大の入試改革だと言われています。しかも、少し記述式が入るのではなく相当の字数を書かなければならない(現在示されているモデル案では)のです。

大学入学試験でも、「ことばに思いを吹き込む力」「ことばから思いを汲み取る力」はますます必要になってきます。このあたりのことは、次回以後しっかりお話したいと思います。

とはいっても、小さい頃からテスト勉強させることが大事ではまったくありません。それではむしろ、子どものときにつけるべき「ことばに思いを吹き込む力」「ことばから思いを汲み取る力」がつけられず、そのような力が欠落したまま成長してしまいます。

先を見通しつつ、今やるべきことをやる、そのような指針を、今後お見せしたいと思います。どうぞよろしくおねがいします。

(参考)
Sanseido Word Wise Web|人名用漢字の新字・旧字:「灯」と「燈」
Tap-biz|「燈」の意味と使い方・由来・名前での意味</a