教育を考える/芸術にふれる/演劇 2018.5.21

【ものを「創る」ということ】映画監督・白石和彌さん〜失敗を見守ることができる親でありたい〜

【ものを「創る」ということ】映画監督・白石和彌さん〜失敗を見守ることができる親でありたい〜

2010年に長編監督デビューを果たし、『凶悪』(2013年)で新藤兼人賞金賞を受賞するなど一躍注目を集めた映画監督・白石和彌さん。2018年5月12日には、最新監督作『孤狼の血』が公開され、いまもっともノッている映画監督のひとりです。10年以上にわたる助監督時代に幾多の名監督と仕事をともにするなかで培われた「ものづくり」へのこだわり、そして映画製作と子育ての意外な共通点を明かしてくれました

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

「鈍感力」でスタッフの自主性を育てる

映画の製作も「ものづくり」ですから、どうせやるのならいつまでも残る作品をつくりたいですよね。だからこそ、そのための努力はきちんとしているつもりだし、一つひとつの作業に真剣に取り組まなきゃいけない。一方で、同時に「遊び心」がないとものづくりって楽しくないですよね。そのバランスはとても重要かもしれません。僕にとっての遊び心というのは、世の中をちょっとおちょくるというか、社会を風刺する部分。僕が思っていることや言いたいことが10あるとしたら、それぞれの作品に込められるのは、そのうちの1とか0.5かもしれない。それでも、なるべく映画の作品として面白いものをつくりながら、少しでも自分の思いを入れてやろうという気概を持って取り組んでいます

1とか0.5というと、少ないと感じるかもしれません。でも、それが現実的なところなんです。映画はたくさんの人が関わってつくられるものなので、いろいろな人の思いやアイデアが入ってきますからね。もちろん、僕はそれを精査して進めるんですが、最終的に思ってもみないところに行き着いちゃうこともあります。その結果の良し悪しは置いておいて、集団でのものづくりが映画の面白いところでもあり、難しいところですね。

ただ、僕の場合はすごく得をしているとも思います。『凶悪』(2013年/死刑囚の告発をもとに雑誌記者が未解決殺人事件を暴くベストセラー・ノンフィクションの映画化)という作品の監督をできたことで、振り子でいえば振り切った端っこにいる映画監督なんだなということを映画界や世間に植え付けることができた。そうすると、企画を頂く段階で「振り切った映画にしてください」と言われることが多いわけです。だから、他の監督よりは自分がやりたいことをやれているかもしれない。

映画監督が特殊なのは、自分のやりたいことを突き詰めていく芸術家でありながら、中間管理職でもある点です。僕のように助監督を10年もやれば、撮影現場でなにが起こっているかはだいたいわかります。スタッフやプロデューサーの動きでなにかトラブルが起こっているってこともすぐにわかるんです。それでも、スタッフの自主性を育てるためには気付いていないふりをする、放っておくことも必要なこと。言葉でいえば、「鈍感力」ですよね。なんでもかんでも上から指示しちゃうと、スタッフのやる気を奪ってしまいますし、伸びていってくれない。ある程度、「良きに計らえ」という姿勢で構えておいて、本当にどうにもならないときは僕が責任を取るという心づもりでいます。

ときには子どもの希望に反対することも親の役目

「鈍感力」は子育てにもとても重要なことだと思いますよ。以前、小学5年の娘が約束の時間に帰宅しなかったことがありました。ようやく電話がつながったと思ったら、落とし物を交番に届けて手続きに時間がかかっていたということだった。普通の親なら交番まで迎えに行くのかもしれないけど、僕はあえて放っておいた。「じゃ、うまくやっといて」って。初めて落とし物を届けて交番で手続きをすることも、子どもにとっては大きな経験です。そこで僕が交番に行くのは野暮というものじゃないですか。ただ、妻には「絶対迎えに行かなきゃ駄目でしょ!」って怒られましたけどね(笑)。

でも、僕は子どもの自主性の芽を摘みたくないんです。本人が「やりたい」ということはなるべくやらせてあげたい。映画づくりもそうですが、子どもの成長もチャレンジの連続です。そして、チャレンジの裏には失敗がある。僕も撮影現場でチャレンジして、結果的に思ったようなものが撮れなかった経験なんて数え切れないほどありますよ。でも、その経験が今後に生きていく。子どもだってそれは同じこと。どんどんチャレンジして失敗を知ることで、強い大人、人間になれると信じています。失敗しない方法を子どもに教えるのではなく、子どもの失敗を見守れる親でありたい。もちろん、同じように成功体験もさせてあげなければいけませんけどね。

ただ、最近わが家で問題になったのが、僕の仕事も影響しているのでしょうけど、娘が「女優になりたい」と言いはじめたこと。人には「子どもの可能性を閉ざすようなことはしたくない」と言っておきながら、僕は娘にちゃんと伝えましたよ。「世の中の映画監督はパパみたいに優しい人ばかりじゃないよ」「なかには暴力を振るう映画監督もいるかもしれないよ」「パパはあちこちのインタビューで脱げない女優は女優じゃないと言ってる。ということは、女優になった暁には脱ぐ仕事も拒否できないぞ!」と。そしたら、娘は「大丈夫、パパがつくるようなジャンルの映画には出ないから」だって(笑)。

うちの娘に限らず芸能界に入るというのはやっぱり人生を左右することですからね。ピアノをやりたいというような話とはまったくちがうものです。本人が気付いていないリスクを教えてあげる必要もあるし、一度は反対するということも親の役目だと思うんです。本当に心の底からやりたいこと、やるべきことならば、親に反対されたくらいで運命は変わらない。結局は、そのやりたいことに行き着くものです。親は、子どものやりたい気持ち、その本気度を測るリトマス試験紙にもなってあげるべきだと思っています。

【プロフィール】
白石和彌(しらいし・かずや)
1974年12月17日生まれ、北海道出身。1995年、中村幻児監督主宰の『映像塾』に参加。以後、若松孝二監督に師事し、助監督としてさまざまな映画作品で腕を磨き、2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。2013年、社会派サスペンス・エンターテインメント映画『凶悪』で新藤兼人賞金賞など、数多くの映画賞に輝く。最新監督作『孤狼の血』が2018年5月12日に公開された。
●『孤狼の血』公式サイト http://www.korou.jp/

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。