音楽をたのしむ/ピアノ 2018.5.4

こんな大人になってゆく。“ピアノのチカラ” が可能にする、子どもたちの「成長の姿」

滝澤香織
こんな大人になってゆく。“ピアノのチカラ” が可能にする、子どもたちの「成長の姿」

こんにちは。日本こども音楽協会 代表理事の滝澤香織です。連載『子どもを伸ばす ピアノのチカラ』も、いよいよ最終回となりました。

最後にお伝えすること、それは「ピアノを習ってきた子が、“実際に” どう育っているのか」についてです。ピアノという楽器、ピアノという習い事が、子どもたちの成長をどのようにお手伝いしているのか。ぜひ、皆さんのお子さまの将来の姿と重ね合わせながらお読みいただけますと幸いです。

自分の律し方を知る

ピアノを習う醍醐味のひとつは、言葉を使わずに自分の考えを表現できることにあります。言葉を通しての主張は、場合によっては誰かを傷つけてしまう恐れがあります。でも、音であれば、そんな心配はいりません。音を通しての表現は “自由な自己解放” を実現するのです。

これまでのコラムでもお伝えしてきたように、ピアノを長く習っている子どもは、脳の発達が促されて情報処理能力が高いうえに、時間管理術に長けており、目標に向かって努力する姿勢も身についています。そしてこういった力は、ピアノ以外でも役立ちます。たとえば「勉学」の場面でも大いに発揮されうるものであり、実際、一流大学に進学していく子もたくさんいるのです。

エグゼクティブの方たちは、ビジネスの場面で最高のパフォーマンスを発揮するために、何かしらのリフレッシュ法を持っているそうです。運動であったり、読書であったり、芸術であったり。それらの中には、当然「ピアノ」も含まれてくるでしょう。

日常で少し疲れたときに心身に活力を与える手段として「ピアノ」を選択してくれる。ピアノ指導者の立場としては、このうえない喜びです。自分の律し方を知り、発散できる方法を持っていることは、人生でとても大きな財産となるのです。

他の価値観を尊重できる

ピアノは自分の考えを音にしていくものです。でも、それは “完全な自己主張” という意味ではありません。作曲家の考えや想いを曲から読み取りながら、そこでキャッチしたものを表現していくということです。「他の考え」を理解して受け入れたうえで、自分なりの考えをかみ砕きながら表現していくのですね。

また、コンクール等の勉強をしていくと、ほかにもっとすばらしい高みまで世界観を極めたライバルたちにも遭遇します。自分自身が懸命に努力してきたからこそ、彼らの努力に対してもまた、尊重の念を抱くことができるのです。

ピアノを長年学んできた子どもたちは、幼少の頃からのそういった経験を通じて、「他の価値観」を受け入れ、他人をリスペクトできるように育っていきます。

努力を楽しめる子になる

あるインタビューで、普段は寡黙な小学生の男の子に「ピアノのどういうところが好きですか?」と聞いたところ、「自分で努力したぶんだけ嬉しい結果が得られる」と返ってきたと耳にしたことがあります。

成績は学年トップで、ピアノのコンクールでも上位入賞を果たしていた彼。サッカーにも取り組んでいてクラブチームに所属していたのですが、「サッカーは自分だけの力ではどうにもならないが、ピアノは自分が努力したことが結果に表れる」と、小学生ながらに感じていたようです。

チームでひとつのものを築いて喜びを共有するという経験も、成長過程ではかけがえのないものです。それと同時に、自分の力だけで喜ばしい結果を得るという成功経験もまた、自分自身の力を信じて努力を楽しめるようになるうえでは、とても大切なのです。

大きな世界で挑戦できるようになる

ピアノの世界に足を踏み入れると、生きた時代も生まれた国も自分とは全く異なる人が作曲した音楽を探検していくことになります。そして世界観を深めるうえでは、“この曲はどういう背景で作られたのか” などを調べる過程も重要視されます。子どもたちは小さいうちから自然と、歴史・地理・文化といったさまざまなことを調べる習慣がついていくのです。学校のお勉強のほかにも、興味を持って「知ろう」とする姿勢を身につけられるのは、とても嬉しいことですね。

また、例えばコンクールに挑戦するとなると、市区町村といったところから、県、そして全国へと、挑戦のフィールドがどんどん広がっていきます。子どものうちから大きな世界へ挑戦し、ひとつずつ目標をクリアしながら羽ばたいていくことを経験している子どもは、ピアノ以外の分野でも、目指す世界が大きなものとなっていきますよ。

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以上、『子どもを伸ばす ピアノのチカラ』という連載テーマで、全7回にわたってお伝えしてきました。

以前、保護者の方から「親以外で、子どもの頃からずっと見守ってくれた大人をつくってあげたかった」とお話しいただいたことがあります。反抗期など、両親の言葉をすなおに受け入れられない時期も、少なからずやってきます。そういうときであっても、子どもたちは、私たち指導者の言葉には耳を傾けてくれるものです。習い事の講師は長きにわたって子どもの成長過程に携わることになりますが、「身近な第三者」という立場は、ピアノ講師の大切な役割のひとつなのではないかと、最近特に感じるようになってきています。

ピアノという習い事には、じつにたくさんの魅力が詰まっています。ダイヤの原石のような子どもたちの可能性を開花させて伸ばしていくものとして、子どもたちのすぐそばに「ピアノ」という楽器を置いてほしい。心の底から、そう願っています。