音楽をたのしむ/ピアノ 2018.4.6

「練習しなさい」は逆効果。子どもに寄り添った “優しい気持ち” を伝えよう。

滝澤香織
「練習しなさい」は逆効果。子どもに寄り添った “優しい気持ち” を伝えよう。

一般社団法人 日本こども音楽教育協会 代表理事の滝澤香織です。

連載『子どもを伸ばす ピアノのチカラ』も第5回目。今回は、ピアノ講師としてよくご質問を頂く「ピアノを習わせるときの “子どもに対する接し方” のコツ」についてお話しいたします。

“判断させる” のではなく、“こちらの気持ちを伝える”

お子さまにピアノのお稽古を習わせたいとお越しくださる親御さまの中には、体験レッスンが終わったあとに「やりたいの? やりたくないの? どっちなの?」と矢継ぎ早にお子さまに問われる方もいらっしゃいます。もちろん、自分の気持ちで「やってみたい!」と言うお子さまもいらっしゃいますが……。一般的に「〇〇をしたい」「△△が好き」という価値観は、いつどのようなところから生まれるのでしょうか?

社会科学者モリス・マッセイの定義によれば、価値観が形成されるのには次の3つの時期があるのだそう。

1. 刷り込み期(0~7歳)
2. モデリング期(8~13歳)
3. 社会化期(14~21歳)

刷り込み期では、スポンジのように周りの物事をとにかくどんどん吸収していきます。そしてモデリング期では他人という存在に気づき始めて周囲の価値観をまね(モデリング)するようになり、最後の社会化期では人間関係など社会性に関する価値観を身につけていくのだそうです。

つまり、小さな子どもたちは、まだ最初の刷り込み期にいる状態。したがって、この時期の子どもたちにとっては、「親から伝えられた気持ち」がそのまま価値観となるのです。

保護者の方が「やってほしい」「上手になってもらいたい」という気持ちで話せば、お子さまの中でも「やってみたい」「上手になりたい」という気持ちが育まれていきます。でも「やりたいの? やりたくないの? どっちなの?」という聞き方をされてしまっては、お子さま自身はどうすればよいのか判断が難しくなってしまうのです。

小さなうちの価値観は、周りの大人の様子から形成されていきます。お子さまにお話しになる際はぜひ、親としての考え・気持ちを伝える話し方をしてあげてください

一緒に楽しむ!

上に挙げたように、幼児期の子どもたちにとって、価値観に大きな影響を与えるのが “周りにいる大人の様子” です。実際、現役東大生へのアンケートでも、「勉強をする原動力となったものは何ですか?」という質問に対する答えで大きなパーセンテージを占めていたのは、「親が勉強している姿を見ていたこと」でした。

これはピアノ、ひいては楽器についても同じことが言えます。「子は親の背中を見て育つ」と言われますが、自分の親が楽器を弾いて楽しんでいる姿を刷り込み期のうちから見ている子どもにとっては、楽器の練習は自然と「楽しいもの」になっていくのです。

ぜひ練習を一緒に楽しむとともに、自分が練習の時間をとても楽しみに感じているということを、お子さまに伝えてあげましょう。

「〇〇しなさい!」は逆効果

ピアノを習い始めたばかりのお子さまの多くは、まだピアノそのものが好きだとは限りません。むしろ、お父さまやお母さまに言われてやっている気持ちのほうが強いのではないでしょうか。ですから私たちピアノ講師も、導入期の生徒さんたちに接するうえでは、ます「ピアノそのものを好きにさせてあげる」ことを最も重要視しています。

「好きこそものの上手なれ」ということわざもありますね。ピアノを好きにさせてあげたり、好奇心や探求心を持たせてあげたりするためには、保護者の方とピアノ講師とが連携しながら「ピアノを上手になってくれたら嬉しい!」という気持ちをみんなで伝えていくことが肝心です。

逆に、まだ「やってみたい!」という気持ちが芽生えていない時期のお子さまにとって、「練習しなさい」は逆効果。「お母さんは〇〇くんのピアノが聞きたいな」など、こちらの気持ちを主体的に伝えることを大切にしてください

「自分が大好きな人(=親)が喜んでくれている」
「自分が大好きな人が楽しいと思ってくれている」
こういった思いをお子さまに抱かせてあげられれば、お子さまにとってピアノも自然と「楽しいもの」になっていきますよ。

ほめることで集中力もアップ! ピグマリオン効果とは

皆さんは、「ピグマリオン効果」をご存じでしょうか? これは、「ほめる」など期待を持って接すると、期待以上の効果が出てくるというもの。「子どもはほめて伸ばそう」とはよく聞きますが、ほめることは実際にいいことだらけなのです。

子どもたちが何かに取り組むとき、「やる気を持って取り組めるかどうか」が大きなポイントとなります。上手にできたときも、思うようにできなかったときも、お子さまの努力に対しては必ず最大限ほめてあげてください

特に小さい時期は、五指はまだそれほど発達していません(大人と同じようになるのは10歳前後からと言われています)。したがって、お子さまにとっては、もしかしたら「思うようにできない」と感じることも出てくるでしょう。そういったときに「できる」か、それとも「できない」かは、「できるまで諦めずに取り組めるかどうか」が大きな分かれ道となります。「いつも見ているよ」「いつも応援しているよ」というこちらの気持ちが、お子さまのがんばりの原動力になり、やる気にもつながっていくのです。

また、「ほめてあげる」ことは集中力アップにもつながります。「がんばれて偉いね」と声をかけてあげると、子どもたちはさらに集中してもっとがんばる姿を見せてくれます。ぜひ努力に対してのほめ言葉をかけてあげましょう。

***
音楽は、世界共通の “心を通わせてくれる” すばらしいものです。ピアノのお稽古を始められたお子さまが、長く楽しく音楽の学習を続けてくださることを心から願っております。