音楽をたのしむ/ピアノ 2018.3.23

音楽は “消しゴムでは消せない” 世界。ピアノで培われる「人間力」を探る。

滝澤香織
音楽は “消しゴムでは消せない” 世界。ピアノで培われる「人間力」を探る。

今回は、ピアノを学ぶことが、大人へと成長していく過程の中でどのようなことに役立つのかについて、まとめてみたいと思います。

音楽の授業は “経験” がすべて

学校教育における音楽の授業は、体育の水泳などと同様に、習い事で音楽の学習を経験しているお子さまのほうが有利になります。

現在の学校教育では、能力よりも自主性や積極性が大きく関わってくると言われています。その点においても、小さな頃からピアノを習ってきたお子さまとそうでないお子さまとでは、やる気のモチベーションが違ってくるのです。

なぜならば、ピアノを学んでいるお子さまには、まさに “経験の積み重ね” がその中に培われているから。音楽を通して自己表現することの喜びや楽しさを知っていますし、学校の授業で習う際も「できる!」「わかる!」という気持ちを持って臨むことができます。そして、それによって、音楽に対する自信も自然と高められていくのです。

先を考えてから行動する習慣が育つ

じつはフランスの小学校では、授業で鉛筆を使うことが禁止されています。その代わりにボールペンを使って授業を受けなければなりません。皆さまはこのことをご存じでしたか?

これは、子どもたちに「先を考えてから行動に移す」という感覚を育てて習慣にしていくために取り入れている教育方針なのだそう。そしてこの感覚は、ピアノを学ぶことでも育ててあげることができるのです。

どんなに長い間練習してきても、本番ではたった一度しか演奏することが許されません。ましてや両手10本の指で別々の動作を完璧にこなしていくためには、どんなに短く見積もっても1小節は先のことを注意しながら演奏しないと、流れていく音を完璧には処理できません(理想は、2小節から4小節先を考えることと言われています)。それも、一定のテンポ(速さ)を保ちながらとなれば、音を出し始める前から、曲全体のことを考えたうえで音にしないと、速さが箇所によって変わってしまったり、あちらこちらで止まったりする演奏になってしまいます。

ですから、ピアノを学ぶ子どもは、小さなうちから自分の持っている能力を考え、先を計算したうえで行動する習慣が身についていくのです。

私は、「音楽は消しゴムでは消せない世界」だと子どもたちに話しています。パーフェクトな演奏を目指すことは、並々ならぬ注意力と集中力を育てることにつながっているのです。

長期的な計画性を育てるお手伝いもできる

何か目標とする日があったとして、“そこに対してどのような計画で行動していくのか” という感覚が子どもに芽生えるのは、一般的に10歳前後だといわれています。

ピアノは個人で行なうものです。練習してきた努力の成果が顕著に出ますので、「計画性を持って行動することで、その先には望んだ成果がついてくる」という成功体験をさせてあげるのに、とても適しています

たとえば、ピアノの発表会のような目標があると、ピアノの先生方は毎週1週間ごとの目標をレッスンの中で細かく決めてくださいます。小さなうちは、本番に対して「このようなペースで進めるといいよ」という考え方を提示することで、子どもたちは計画の立て方を学ぶことになります。それを何度も経ることで、計画そのものも自分の力で立てられるようになってくるのです

その目標が、ピアノの発表会ではなく、勉強などほかのものに変わったとしても同じです。「計画を立てて行動すると、その先には望んだ成果が待っている」ということを経験して育った子どもは、自分で方法を置き換えて取り組めるようになるのです。

また、規模の大きなピアノのコンクールでは、通過率が3倍強になりますが、これは一般的な大学入試の倍率と同程度です。その通過率のなかで、自己を発揮し喜びを得る経験を小さなうちから重ねさせてあげることで、目標に向けて努力することそのものを楽しめる子どもに育っていくのです。

大勢の前でも自己を発揮できる力が育つ

たくさんの人の前での発表や面接などの場で「あんなに考えてきたのに、自分の考えをうまく伝えることができなかった」と感じた経験はありませんか? ピアノを習っていれば発表会に出る機会もありますが、発表会に出ることの最も大きな意義は「大勢の中でも自己を発揮できる力が育つ」部分にあります。

子どもから社会人へと成長していく過程では、あいさつや発表、入試や就職活動の面接など、ひとりで緊張の場に立たされる場面が必ずやってきます。ピアノの発表会は、なかば物心がつく前から、多くの人の前にたったひとりで出ていき、聴いてくださる方を前に心をこめてお辞儀をし、それまで練習を重ねてきた演奏を披露し、その努力に対してあたたかな拍手という肯定を頂く、という経験をさせてあげることができます。

こうした経験を通して、他者は決して怖いものではなく、憶することなく自分を表現することで受容してもらえるという気持ちが、心のなか奥深くに芽生えていきます。近年「自己肯定感」という言葉が注目されていますが、ピアノを小さなうちから学び、発表の場の経験を重ねることで、子どもはありのままの自分を他者に受け入れてもらえることを実感していけるのです。ピアノの演奏の場を通じて、自己を発揮できることも大切ですが、そういった生活全般への自信を育ててあげるお手伝いができるのも、ピアノを習うことのすばらしい点だと思います。

ほかにも、発表の場にひとりで挑む、時に遊びたい気持ちを抑えながら練習に向かうことで強い精神力が育つ、先生と清らかな心や美しい言葉でお稽古を重ねることで礼儀礼節が身につくなど、ピアノだからこそ養われる力があります。お稽古としてのピアノが持つ魅力を感じていただけましたら幸いです。