2018.2.28

ピアノは “脳を育ててくれる” 楽器である。

滝澤香織
ピアノは “脳を育ててくれる” 楽器である。

ピアノに取り組むことでどのようなメリットがあるのか、きっと皆さんも興味深いところではないでしょうか?

近年、脳科学者の先生方からも「ピアノは脳の働きを良くする」といったご意見を耳にします。今回は、ピアノを演奏するにあたっての脳の使い方を踏まえながら、ピアノのお稽古が地頭を良くしてくれる理由について考察したいと思います。

ピアノは利き手と非利き手を平等に使う

ピアノが脳を活性化すると言われる理由として、利き手と非利き手を平等に使うという点が挙げられます。

脳科学者の久保田競先生のご著書『手と脳』によると、利き手の器用さは練習の度合いで育ち、非利き手の感度の良さは経験数で育つのだそう。ピアノの楽曲に取り組む際は、利き手の練習も非利き手の練習も同時にこなしていくことになるので、手の器用さや感度の良さを育てるうえでも、ピアノはうってつけの楽器なのです。

特に幼児は、数を表したり数えたりするときに指を使いますよね。広島大学の研究によれば、手指の巧緻性は計算能力にも大きく関わってくるとのこと。同様に、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育でも、幼児期の教育として “巧緻性を育むこと” はたいへん重要視されています。

指先は「第2の脳」とも呼ばれるほどに、末梢神経が集中している部分です。さまざまな動きをすることで指先に刺激を与えて巧緻性を育んでいくことは、子どもの脳をより豊かに育てていくことにつながります。手指を細かく使うピアノは、まさにその一助になるのです。

また、右手を使うと左脳が、左手を使うと右脳が活性化すると言われています。右脳は「直感やイメージ」などの無意識脳であり、左脳は「論理、言語」をつかさどる論理的思考脳。この両方がバランス良く育つことが理想とされています。

そして右脳と左脳のあいだには、神経繊維が2億本ほど詰まった「脳梁」と呼ばれる大きな束がありますが、左右の脳をバランス良く使うことで、脳梁はより太く育ち、左右の脳の伝達もより円滑になるのです。脳梁の発達のためにも、左右の手指を平等に使うピアノはとても効果的なのです。

子供の防犯対策どうしてる? 防犯ブザーやGPSの使い方を詳しく解説!
PR

記憶力と情報処理能力の向上

ピアノを演奏する際は、流れていく時間の中で「いま弾いているところよりも先の情報を頭に入れながら、いま弾くところで必要な動きの情報を処理する」ということをしています。一時的な記憶を繰り返しながら、記憶した情報を処理しつつ、常に先の情報を解析する。実は非常に高度に頭を使っているのです。

これは日常ではなかなかない脳の使い方で、脳のあらゆる部分での伝達を活発化し、脳の発達そのものをうながす大きな要素となっています。

さらに、ピアノでは両手10本の指それぞれが別の動きをします。ほかの楽器に比べて、読む情報も処理しなくてはならない情報も格段に多いと言えますね。

ピアノが幼児の脳の発達を促す

脳科学から見たピアノの優位性

脳科学者の権威であられる澤口俊之先生も、ピアノ演奏の良さについて次のように述べています。

実は、ピアノ演奏は驚くほど脳に良いのです。我々が幼少期で重視しているのはHQ=人間性知能(※1)なのですが、一般知能gF(※2)がHQの中心的な脳機能であるワーキングメモリ(※3)と相関します。ワーキングメモリは問題解決能力、社会性、創造性など、人生の成功に関係する全ての基礎となります。これがピアノで伸びます。

※1:前頭前野の脳間・脳内操作系が人間性をつくる。その能力を人間性知能(Humanity Quotient)、略してHQと呼ぶ。
※2:一般知能gFは、個別的なIQ(言語性IQ・空間性IQ、行為性IQなど)の上位に立つIQであり、HQの重要な役割の指数である。欧米で主に使われているIQ知能検査では一般知能を測る。
※3:ワーキングメモリはHQの中心となる脳機能。情報を一時的に保持しつつ活用して答えを導く働きがある。

(※一部編集を加えた)

(引用元:ピティナ|今こそ音楽を! 第3章:脳科学的観点から(PDF)

HQとは、頭の良さを示すIQ(知能指数)とは異なる、人間らしい生活を送るための能力のこと。問題解決能力・主体性・協調性・思いやりなど、数値ではなかなか測りづらい “人間力” を、ピアノは伸ばしてくれます。そして、数ある習い事のなかでも、HQを向上させる力はピアノが傑出しているというのですから驚きです。

ピアノが脳を発達させるという実証データはたくさんあります。たとえば学習塾、英会話、習字、スポーツ系など、ほとんどの習い事においてHQはほぼ変わりませんが、ピアノだけ突出して高いです。

(引用元:同上)

***
ピアノを学ぶことで、子どもたちの脳の発達がうながされると同時に、“ひとりの人間” としてこれから生きていくうえで大切な力が育まれていくことがおわかりいただけたかと思います。

子どもたちの可能性は無限大。小さいうちからバランスのとれた音楽教育を始め、ピアノのお稽古をさせてあげることは、一生涯を豊かなものにしていく可能性を広げてくれるのです。

(参考)
久保田競 (2010),『手と脳』, 紀伊國屋書店.
浅川淳司, 杉村伸一郎 (2009),「幼児における手指の巧緻性と計算能力」, 発達心理学研究 20(3), 243-250
ピティナ|今こそ音楽を! 第3章:脳科学的観点から(PDF)