芸術にふれる/アート 2018.3.30

日本のアート教育の今! 「学校+美術館+地域+保護者」キッズ向けワークショップが充実

長野真弓
日本のアート教育の今! 「学校+美術館+地域+保護者」キッズ向けワークショップが充実

海外の美術館では、子供たちが絵の前に座って先生から話を聞きながら絵を鑑賞している姿や、若者が名画を模写している光景に時々遭遇します。

日本でも最近は美術館がキッズ向けワークショップなどのイベントを催すことが増え、有料のものでも満席になる人気だそうです。学校では美術に割く時間が充分持てない中、美術館を中心にアートを通した学びの場が増えつつあります。今回はそんな現場をご紹介します。

アートとは?

「アート」とひとくくりに言っても、何を指すのでしょう? 武蔵野美術大学の杉浦幸子教授によると、それは「人が何かしらの思いを持って作り出したもの」。つまりそれは絵画、映像、彫刻、演劇、音楽ひいては料理まで、幅広いジャンルのものがアートと言えるとおっしゃっています。

そして、それらアートの特徴は、様々な解釈が可能なこと。製作者の思いがあったとしても、受け取り方は人それぞれ自由。アートはその多角的アプローチにより、人生に刺激を与えるものと位置付けられています。

感性や知性を身につけるアート教育-AIE

いわゆる音楽や美術の授業は“Art Education”自ら演奏したり製作したりそのメソッドを学ぶのが中心です。しかし、アート教育“Arts in Education(AIE)”は、そのものを学ぶだけではなく、その枠を超えたアート教育の可能性を広げる考え方に基づいています。アートを通して感性、知性を身につけ、よりよい人間形成を目指すものです

前述の杉浦教授は「豊かな人生には“創造”と“想像力”のふたつの“そうぞう”が必要。そのために刺激を与えてくれるものがアート」とおっしゃっています。アートを取り込むことで人生がより豊かなものになることを目指しているのです。

“学校と美術館”が連携したAIEへの取り組み

アートがもたらす素晴らしい効果がわかっていても、学校だけでAIEを行うことは難しいのが現状です。そこで最近は美術館が積極的に協力するケースが増えてきました。その実例をご紹介しましょう。

1.【大原美術館(岡山県倉敷市)】
大原美術館は昭和5年に創立された日本で初めての西洋美術中心の私立美術館です。コレクションには、エル・グレコ、ゴーギャン、モネなどの名画がずらり。地域に根付いたコミュケーション活動に積極的に取り組んでおり、特に子どもを対象とした教育普及活動に力を入れています

(1)「学校まるごと美術館」
1999年から始まった取り組みで、近隣の小学校2校の全校生徒が年一回、それぞれ休館日に一斉に美術館にやってくるという大規模イベントです。活動内容は、教員と美術館員が事前に話し合って決めますが、模写、対話型鑑賞、文章表現を取り入れたものなどさまざま。学年ごとにプログラムが組まれます。その中で子どもたちが作成した作品は美術館で展示されるそうなのでやりがいがありますね。子どもたちも年々、美術鑑賞に慣れて、自然とアートについて語れるようになっていくのだそうです。

(2)「未就学児童対象プログラム」
毎年20以上の幼稚園や保育園で行われているプログラムで年間を通して行われ、1人平均3.5回の来館でワークショップや鑑賞などを通して楽しみながらアートに触れる素晴らしい機会となっています。25年に渡って続けられていて、日本においてはアート教育の先駆的美術館といっていいでしょう。

2.【横浜美術館(神奈川県横浜市)】
1989年に開館した横浜美術館は、子どもための美術教育を視野に入れて設計されたため充実した施設が備わっています。

(1)「子どものアトリエ」
未就学児童から12歳までの子どもたちを対象とした、遊びを通して造形体験ができる“創作の場”です。

子どものアトリエが行う描きつくり鑑賞する活動も、「芸術家の育成」ではなく、「自分の目で見て、自分の手で触れ、自分でする」という自意識の獲得に目的があり、それを楽しい活動として提供するのが私たちの仕事です。

(引用元:横浜美術館|子どものアトリエ

この理念のもとに、631㎡の広々とした空間で色々な活動が行われています。

◇フリーゾーン(月3回日曜開催・小学生までは無料)
粘土、ハサミ、紙等の材料を使った創作を親子で自由に楽しめるようになっています。

◇ワークショップ(個人向け・事前申込制・有料)
年次別に組まれた造形体験や鑑賞プログラムを実施しています。

◇学校のためのプログラム(事前申込制)
横浜市内の幼稚園・保育園・小学校・中学校・養護学校などと連携して行われている体験プログラム。ある養護学校向けのプログラムでは、まず照明を落とした「音の部屋」で遊具や楽器で自由に“音”を楽しんだ後、自分では動けない子のために触感や体感を楽しむコーナーで過ごし、最後は粘土や絵の具を使って創作活動を楽しみます。行動のタイミングや作ったり描いたりするのも子どもの自由。エデュケーター(教育普及専任スタッフ)はサポート役です。このように子どもそれぞれに適したプログラムを構成してくれるのは素晴らしいですね。

(2)「市民のアトリエ」
12歳以上向けのワークショップ。豊富なワークショップに美術館のアート教育への熱意が感じられます。

そのほか金沢21世紀美術館青森県立美術館大分県立美術館など新しい美術館ではエディケーターを複数人揃え、アート教育のための施設を備えているところも多いようです

3.【リマスターアート展:オルセー美術館と学校のコラボ】
アート教育の取り組みの一環として、海外の有名美術館とのコラボ企画が催されています。それは「リマスターアート」(美術館認定の精密な原寸大完全復元作品)を使った試みです。その出来栄えはひび割れ具合まで再現されていて、本物と見分けがつかないほどとか。原画ではないため、学校での展示が可能になり、有名な作品を身近にじっくり鑑賞できる機会を実現したのです。(本物ではないゆえにカメラやペンライトなどもOKで、その作品を通してできることが広がります)

ここ数年間に都内の中学校や高校、大学などで何度も開催されています。2017年に日本大学で行われた展覧会では、「スクールミュージアム」として一般開放し、その運営やアートコンシェルジュも学生が関わるという取り組みが行われました。

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学校+美術館+地域+保護者が協力しあって歩んでいる日本のアート教育。海外にはまだまだ追いついていないと言われますが、ゆっくりでも着実に浸透してきているようです。カラフルな発想にあふれた子どもたちの感性と可能性が広がる環境づくりがこれからも進むといいですね。

(参考)
BEAT東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座|アートワークショップで子供の可能性をひらく
ニッセイ基礎研REPORT 2007.7|REPORT Ⅱ “アート“から教育を考える−国内外のチャレンジから−社会研究部門 吉本光宏
大原美術館|教育普及活動
倉敷市立倉敷西小学校|学校まるごと美術館
横浜美術館|子どものアトリエ
創造都市横浜|芸術文化とインクルージョンNo.1—アートの現場から;横浜美術館と横浜市民ギャラリーあざみ野の取り組み
日本大学|オルセー美術館
玉川大学 玉川学園|日米の美術教育界で活躍する3氏の講演から学ぶ「学校と美術館の役割」